政治の安定が円の未来を左右する

政治・外交

2012年は円の真価が問われる年になりそうだ。

2007年8月に欧米の金融危機が表面化して以降、円は他のほとんどの通貨に対して上昇してきた。対ドルでは金融危機前の1ドル=約120円から60%近く、対ユーロでは1ユーロ=約165円から70%近くも上昇している。

経済協力機構(OECD)の見通しによると、日本の政府部門の債務残高は今年、国内総生産(GDP)の219%に達し、債務危機が深刻なギリシャの157%、イタリアの129%をはるかにしのぐ。それでも円が買われる理由として、日本が経常黒字国であること、国債の90%以上が国内で消化されていること、消費税率が5%と低く税率引き上げによる財政再建への道筋が明確であることなどが指摘されてきた。

経常収支を悪化させる要因

しかし、2011年の貿易収支は31年ぶりに赤字に転落したとみられる。東日本大震災の影響で自動車などの輸出が減る一方、東京電力福島第1原子力発電所の事故をきっかけに、定期検査に入った原発が再稼働を見合わせざるをえなくなった結果、火力発電用天然ガスなどの燃料輸入が急増したためだ。これだけなら特殊要因と言えなくもないが、貿易黒字は1999年以降、趨勢としては減少してきた。

それを埋め合わせて経常黒字の維持に貢献してきたのが、海外からの受取利子や配当、日本企業の海外法人の利益の増加による所得収支の黒字の増加だった。これも2008年のリーマン・ショックの後、世界的な金利低下などを反映して減少している。欧州危機などで世界的な景気停滞が長期化すれば、輸出が減るだけでなく所得黒字も低迷する。

マクロ的にみれば、貯蓄を取り崩す高齢世帯の増加が経常収支の悪化要因になる。すでに日本の貯蓄率は3%程度に下がっており、主要国ではアメリカに次いで低い。国債の国内消化をいつまで続けられるかも不透明だ。

消費税率の引き上げは可能か

そうした状況下で、民主党主体の野田政権は消費税率を14年4月に8%、15年10月に10%に引き上げる方針を打ち出した。しかし、これは2009年の総選挙での公約に違反すると野党の自民党が反発しており、今年前半の衆議院解散・総選挙も予想される。

自民党も2010年の参議院選挙で消費税率10%への引き上げを主張しただけに、消費税率引き上げ法案を成立させたうえでの話し合い解散も考えられはする。しかし、法案審議が行き詰まっての解散となると、民主党の議席が減る一方、消費増税反対を掲げる党が勢力を拡大する可能性が大きい。そうなれば財政の先行きに暗雲が垂れこめる。また、環太平洋経済連携協定(TPP)参加への反対論や反原発論の再燃も予想され、TPP交渉や原発の再稼働問題に影響する可能性もある。

円高というと輸出企業の業績悪化が懸念されがちだが、日本のGDPに対する輸出の比率は15%前後で、50%に迫る韓国などより低い。むしろ、最近では燃料価格や資源価格の上昇が円高で圧縮されるという円高メリットが日本経済を下支えしている面もある。大幅な円安に転じれば、海外への所得移転の増加を通じて日本経済が弱体化する恐れもある。

民主党政権が続くにせよ、別の形の政権が誕生するにせよ、政治の安定が望まれる。

為替 貿易収支