AIJ問題、連鎖倒産の可能性

政治・外交

投資顧問会社「AIJ投資顧問」(東京都)が厚生年金基金などの企業年金2000億円近くを消失させた問題は、中小企業の連鎖倒産を招く危険性がある。厚年基金は公的年金である厚生年金の積立金を借り、国に代わって運用・給付をする「代行」をしているが、全国595の厚年基金のうち36%、213基金は厚生年金を払うための積立金が不足しており、その穴埋めをできない母体企業が次々に淘汰されかねないためだ。

厚年基金は厚生年金保険料の一部を国に納めず、独自運用をする。制度発足は66年で、国より高い利回りを得て手厚い年金を払うことを目指した。経済成長期は多額の利益を見込めたため、大企業ばかりか中小企業も同業者などで総合型基金を作って次々参入し、ピーク時は約1900基金に達した。

中小企業、抜けるに抜けられず

だが、バブル崩壊後は国の定める利率を超す運用益を得られず、約束通りの給付額を払えない企業が続出した。不足分は母体企業が補てんしなければならない。そこで2000年代に入ると、多くの大企業は国から借りていた厚生年金の積立金を返還(代行返上)し、他の企業年金に移行したり、解散する道を選んだ。

ところが中小基金にその余力はない。年金をカットする手はあるが、受給者の3分の2以上の同意を得る必要があり、寄り合い所帯の総合型基金にはハードルが高い。中小の場合、代行返上の資金はなく、さりとて給付カットもできず、厚年基金を抜けたくとも抜けられずにいる。今や全体の8割、495基金が総合型だ。

旧社会保険庁OBが天下り

全国の厚年基金には600人以上の旧社会保険庁OBが天下っていたことも判明した。年金実務には詳しくとも資金運用には素人のOBたちが財政難に直面し、高利回りをうたうAIJに飛びついた構図がうかがえる。

厚生年金を約束通り払えない213基金の積み立て不足は、昨年3月末時点で6289億円。総合型の場合、加入企業ごとに返済額を割り当てられるが、払えずに一社が倒産すると残りの企業は連帯責任としてその分の返済も求められる。

「この仕組みが連鎖倒産を招きかねない」。金融庁幹部はそう漏らす。実際、タクシー会社50社で作る兵庫県乗用自動車厚年基金は06年1月、解散とともに71億円の穴埋めを迫られ、今年1月までに14社が倒産した。

政府は投資顧問会社の監督強化に加え、連鎖倒産の危機を受けて年金減額の要件緩和の検討に入った。しかし、「憲法の定める財産権侵害にあたる」(厚生労働省幹部)との意見も根強い。

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