民主党の後期医療廃止法案、野田首相棚上げの意向

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民主党は09年の衆院選マニフェストに掲げた「後期高齢者医療制度の廃止」に向けた法案を5月31日の役員会で決めた。しかし、野田佳彦首相はこの廃止法案を棚上げする意向だ。首相が6月4日に消費税増税への障害を取り除くため、自民党の要求を受け入れて問責閣僚らの首切りに踏み切ったのと同様に、後期医療制度の存続を主張する自民党への配慮に他ならない。

加入者1400万人の後期医療制度

後期高齢者医療制度は自民党政権時代の08年度にスタートした。加入者は75歳以上の人全員で、約1400万人。現役世代が払う高齢者向け医療費が膨らむ一方だった従来の「老人保健制度」の反省を踏まえ、創設された。75歳以上の人を新制度に一律加入させたうえで、保険料を払う必要のなかった、扶養を受けているお年寄りにも負担を求めることにした。運営は都道府県ごとの「広域連合」が担う。

しかし後期医療に対しては、年金から保険料を天引きするシステムや、人生の終末を連想させる名称に「うば捨て山だ」との批判がわき起こった。民主党はこうした世論に乗じてマニフェストに「廃止」を掲げ、政権交代の流れを引き寄せた経緯がある。

後期医療の廃止法案は15年度以降、75歳以上の人を原則として市町村が運営する国民健康保険(国保)に移し、将来的には国保を都道府県単位に広域化、それに伴って保険財政の運営を都道府県に移管することが骨格だ。

知事会の反発で宙に浮いた廃止案

民主党案は、厚生労働省の有識者会議が2010年12月にまとめた廃止案を踏襲している。政府は当初、この有識者会議案を法案化し、11年の国会に提出する考えだった。それでも国保の10年度の実質赤字は3900億円に及ぶ。全国知事会から「赤字をかぶれというのか」と猛反撃され、法案化作業は宙に浮いた。

にもかかわらず、民主党は1年半放置していた有識者会議案を党の案として正式決定した。今年5月に入り、社会保障と税の一体改革関連法案を巡って与野党間に修正協議の機運が浮上。消費増税に走る首相が、野党に秋波を送る目的で後期医療廃止にこだわらない姿勢を示し、長妻昭元厚労相ら党厚労部門会議の議員が強く反発したためだ。

「厚生族」のリーダー長妻氏取り込み狙う

「後期医療を廃止しないなら消費税増税に賛成しない」。厚生族議員らはそう騒ぎ始め、官邸を慌てさせた。前原誠司政調会長らも重ねて政府の柔軟姿勢に苦言を呈し、首相も党の動きを見守る方針に転じた。長妻氏らは本来消費税増税賛成派に名を連ねる。小沢一郎元代表らに加えて厚生族まで造反すれば、税率アップのシナリオが崩れかねない。

しかし、首相は後期医療廃止法案の是非を自民党の提唱する社会保障制度改革国民会議(仮称)での議論に委ね、先送りする腹だ。そもそも一体改革大綱は、後期医療の廃止法案を「関係者の理解を得たうえで」国会に提出すると記している。知事会や野党の反発を見越した一文で、「理解を得られない間は提出しなくていいという意味」(厚労省幹部)だという。

8日スタートした与野党の修正協議のメンバーには長妻氏も名を連ねる。長妻氏を与野党協議の前面に立たせ、党内での「暴発」を封じるという官邸側の意向がにじむ人事だ。「長妻さんも大臣をやった人。廃止法案の取り下げで増税が実現するなら受け入れる」。長妻氏に近い議員は、同氏の意向をそう読んでいる。

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