「日米同盟信仰」の落とし穴―太平洋重視を宣言した米国の本音

政治・外交

第2次世界大戦後、米国が構築した日米安全保障体制には、当初、1)反共産主義の砦(とりで)としての一角を担う 2)日本の再軍国主義化を阻止する(いわゆる「ビンのふた」論)―という二つの狙いがあった。以来、60年。米ソ冷戦が終結、米国主導の金融グローバリズムが進行する中で、日米安保体制の役割も変化、同盟は着実に深化したが、それは同時に大きな曲がり角に立たされている。

抑止力は強化されるというが…

新秩序構築をめぐる米中両国のパワーゲームは、経済分野の相互依存関係が深まる一方で、軍事面では相克・対峙するという複雑な様相を呈しながら国際政治の舞台に立ち現われてくる。

例えば、南シナ海では、中国と、米国を後ろ盾とするフィリピンとがスカボロー礁(中国名・黄岩島)を挟んで約二か月にわたってにらみ合った。一方、米国は、パネッタ国防長官がベトナム戦争後初めて南シナ海に面したカムラン湾を視察、虚々実々の駆け引きが展開されている。

こうした文脈の中で、4月27日に日米安全保障協議委員会が共同発表した「在日米軍再編見直しの中間報告」をどう見るか。

「中間報告」は強調する。米国は、アジア太平洋地域における「米海兵隊の兵力の前方プレゼンスを引き続き維持しつつ、地理的に分散された兵力態勢を構築するため、海兵空地任務部隊(MAGTF)を沖縄、グアム及びハワイに置くことを計画しており、ローテーションによるプレゼンスを豪州に構築する」。これによって「抑止力が強化される」―と。

確かに、海兵隊9000人が国外に移転、沖縄には一万人が残る。これら一連の措置は、明らかに中国をけん制する米国の厳しい姿勢の表れだろうが、はたして抑止力の実質はどうなのか。

中国との直接対峙を避ける米国

そして「中間報告」の最大の肝は、北マリアナ諸島・テニアンでの日米共同訓練だ。

沖縄から台湾―フィリピンに至る「第1列島線」。それを越えて、小笠原諸島―マリアナ諸島―グアム島を経て南太平洋に延びる「第2列島線」までの進出を常態化させようとする中国海軍。今、米中のせめぎ合いは、この第1列島線と第2列島線の間で熱を帯び始めている。

だが、問題は米国の対中戦略の中身。その核心にあるのが「中国との直接対峙は避ける」という点だ。この大原則を踏まえると、「中間報告」に盛り込まれた北マリアナ諸島での日米共同訓練は、既にグアム島で航空自衛隊と米軍が実施している実射訓練と併せて、米兵力の実質的な「前方展開プレゼンス」ラインを「第2列島線」まで下げる布石に見えてもおかしくはない。

沖縄、グアム、ハワイ、豪州、シンガポール、フィリピンのネットワークを視野に入れた分散ローテーションという新手法に加えて、沖縄に海兵隊員1万人を残すという措置は、暫定的なものなのかもしれない。

「米国は尖閣で血を流さない」

日米安保関係筋は敢えて指摘する。「米国は太平洋重視を強調しているが、忘れてはならないのは財政問題との関係だ」。

「アジア太平洋重視」に沿った米兵力のリバランシングは、アジアの経済活力を取り込むためという側面はあるものの、長期的に予想される国防費削減の圧力の下で、兵力削減を可能な限り回避したいという意識が強く働いているのは間違いない。

結局、そこで重要になるのは、日本側の主体性の問題だ。例えば、尖閣諸島で一朝事が起きれば、自動的に米軍が直接関与するのか―「そうはならない。尖閣で米国青年の血を流すことはあり得ない」というのが日米安保関係筋の答えだ。同盟依存が過剰になれば、同盟は信仰の対象となるだけだ。3・11東日本大震災の際の「TOMODACHI作戦」は「成熟の証し」と絶賛されたが、作戦の成功は「日米同盟信仰」を深化させた感がある。自立の渇望を失った安保体制は、同時に劣化の始まりを意味しているのかもしれない。

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