中国をけん制しつつ、ロシアとは対話継続

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ドイツ南部エルマウで6月7、8の両日開かれた主要国首脳会議(サミット)。日本で強い関心のある項目について、安倍晋三首相の動きと会議の結果をまとめた。

対中国関係

中国の海洋進出をめぐり、安倍首相はサミットの場で「東シナ海、南シナ海での一方的な現状変更の試みは放置してはならない」と指摘。首脳宣言では海洋安全保障の項で、中国の名指しは避けたものの「威嚇や強制、武力行使、大規模な埋め立てを含むいかなる一方的な現状変更にも強く反対する」と明記され、4月のG7外相宣言の内容を首脳レベルでも支持した。

中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)について、安倍首相は会議の中で「G7としての経済政策については価値観が重要」と発言。AIIBの融資基準が不透明ではないかとの懸念を伝えようとして、「持続的な経済成長には質の高いインフラ投資が必要だ」とも主張した。合わせてアジア開発銀行(ADB)などを通じて今後5年間で総額1100億ドルを提供することを説明した。

対ロシア関係

首脳宣言ではウクライナ危機をめぐる対ロシア制裁の継続を決めたが、安倍首相は「ロシアとの対話継続が重要だ」と強調。フランス、ドイツ、イタリアとの2国間会談では「北方領土問題で首脳間対話が必要」だと訴えて、基本的な理解を得たという。サミット閉幕後の記者会見で首相は「プーチン大統領の訪日を年内の適切な時期に実現したい」と述べた。

一方で、来年の伊勢志摩サミットについては「現状を鑑みると、ロシアを含めたG8で意味のある議論を行えるとは考え難い」として、7か国開催を想定していることを示した。

経済

首脳宣言では、目下の経済情勢について「前回のサミット以降、世界経済の回復は進展している」と評価。一方で「成長のため、さらなる取り組みが必要」とし、機動的な財政戦略を実施していくことで同意した。

日米が中心となる環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の「可能な限りの早期妥結」を明記。日・欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)も年内の大筋合意に向けて努力する方針を打ち出し、日米欧の3地域が自由貿易協定(FTA)交渉を加速する姿勢を示した。

温室効果ガス削減

首脳宣言では温室効果ガスを「世界全体で2050年までに40~70%の幅の上方で削減する」目標を盛り込んだ。基準年と数値を明確にした目標を打ち出すのは、サミットとしては初めて。

安倍首相も日本の温室効果ガス排出量を「30年までに13年比で26%削減する」目標を表明し、G7各国の目標が出そろった。ただ日本の目標は基準年を05年から13年に変更。東京電力福島第1原発事故後に火力発電の利用が増えた時点を「スタート」としたことに、国際社会から不満も出そうだ。

北朝鮮

安倍首相はサミットの席上、北朝鮮の核・ミサイル問題を「地域と国際社会の重大な脅威だ」と指摘。拉致問題解決にG7各国の協力を求めた。首脳宣言には「核及び弾道ミサイル開発の継続、並びに甚だしい人権侵害、他国の国民の拉致を強く非難」することが盛り込まれた。

テロ対策

首脳宣言は、「外国人テロ戦闘員の現象を踏まえ、テロと暴力的過激主義に対する闘いは、全ての国際社会にとって引き続き優先課題でなければならない」と強調。イスラム過激派組織「IS」について、その壊滅とイデオロギー拡散阻止に向け戦うことを再確認した。

核不拡散

5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が最終文書を採択できなかったことについて、首脳宣言は「極めて遺憾」「NPTは核不拡散体制の礎石」と表明した。

文・編集部

バナー写真:先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)で、記念撮影に納まる各国首脳。(左から)欧州連合(EU)のトゥスク大統領、安倍晋三首相、カナダのハーパー首相、米国のオバマ大統領、ドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領、英国のキャメロン首相、イタリアのレンツィ首相、ユンケル欧州委員長=2015年6月7日、ドイツ・エルマウ(代表撮影、時事)

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