ギリシャ危機、ひとまず収束

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ギリシャの財政・債務危機は、7月5日の国民投票で財政緊縮策に「ノー」の結果が出た後、9日にはチプラス首相が手のひらを返したように欧州連合(EU)側に譲歩案を提示。ユーロ圏首脳会議は厳しい交渉の結果、ギリシャとの金融支援交渉を始めることで合意し、ひとまず収束に向かっている。同国の財政破たんやユーロ圏離脱など、世界経済に衝撃を与えかねない事態は回避された。

しかし、交渉過程では、ドイツが「ギリシャのユーロ圏離脱(グレグジット)」を選択肢として提示。この強硬姿勢が波紋を呼び、ユーロ圏の連帯にひびが入りつつあることを印象づけた。

「最後通告」

7月12、13日にブリュッセルで開かれたユーロ圏首脳会議。ギリシャの交渉姿勢に業を煮やしたドイツのメルケル首相は、この場で「最後通告」ともいえる二者選択を迫った。ギリシャは5年間のユーロ圏からの一時的離脱か、それを望まないなら「債務返済のために500億ユーロ規模の国有財産売却」を決断するよう強く求めた。

公の場でドイツ政府がグレグジットに言及したのは初めてで、周囲に衝撃が走った。ユーロ圏離脱を何としても避けたいギリシャは、後者を選ぶしかなかった。第3次となるギリシャへの金融支援は欧州安定化機構(ESM)を通じて行う方向で、両社の交渉開始で合意。支援総額は最大860億ユーロに設定された。支援実施の前提条件となる財政改革法案は、7月16日にギリシャ議会で可決された。

ギリシャ債務危機をめぐる動き

7月5日 ギリシャ国民投票。欧州連合(EU)が求める財政緊縮策への拒否多数
7月9日 ギリシャのチプラス政権が増税、年金削減などの財政改革案をEU側に提出。EUなど債権者側に譲歩する内容
7月11日 ギリシャ議会が改革案承認
7月13日 EUがユーロ圏19カ国の首脳会議で、ギリシャと金融支援交渉を始めることで合意。支援は3年間で最大860億ユーロ
7月16日 ギリシャ議会が財政改革法案可決
7月17日 ギリシャで内閣改造、チプラス首相は改革法案に反対した造反閣僚らを更迭
EUがギリシャへのつなぎ融資承認
7月20日 ギリシャが国際通貨基金(IMF)への債務約20億5000万ユーロを返済し「延滞国」の指定から外れる
休業していたギリシャの銀行が営業再開

 

支援を受けるための最終的な条件は、7月9日にチプラス政権が示した譲歩案より一層厳しいものとなった。厳格な財政規律を他のユーロ圏加盟国にも求めるドイツのアプローチは、経済成長実現のために緊縮策の緩和を重視するフランスなどとの摩擦を生じさせている。

デフォルト回避

ユーロ圏は7月17 日、ギリシャに対する71億6000万ユーロのつなぎ融資を正式決定。20日に期限を迎えた欧州中央銀行(ECB)が保有する35 億ユーロのギリシャ国債は、期限前に償還された。また、IMFに約20億分の融資を返済し、延滞状態は解消された。つなぎ融資後の最大860 億ユーロの金融支援については、各国議会での承認が17日までに終わっており、EUなどの債権団はギリシャとの支援交渉を開始する。

ただ、債務再編問題など支援の細部は固まっておらず、交渉の行方は予断を許さない。金融支援が決まるまで数週間程度かかるとみられている。ギリシャが債務を継続的に返済できるかどうか懐疑的なIMFが新たな対ギリシャ支援(第3次支援)に加わるかどうか、債務再編に踏み込むかという点については、まだ先が見通せない情勢だ。

ギリシャ政治の混乱

6月末から休業していたギリシャの銀行は、ECBの資金供給再開を受けて20日に営業を再開した。ただ、海外送金などの資本移動規制は続くほか、ユーロの引き出し制限(1週間で420ユーロに緩和)も引き続き行われている。

チプラス首相は17日、内閣改造を断行し、EUと合意した財政改革に反発する閣僚らを更迭。ただ、与党内の反緊縮派は増税、年金制度の見直しなどに不満を強めているとみられ、首相が難しい政権運営を迫られるのは必至だ。

財政・債務危機にあえぐギリシャが世界の金融市場を一時的にせよ大きく揺るがせたのは2010年以来、数え方にもよるが、今回で少なくとも3回目だ。

第3次金融支援がまとまったとしても、ギリシャが債権団との合意に基づいて緊縮策を柱とする財政健全化を推進し、合計3200億ユーロの債務を完済できるのか。それとも4度目の深刻な危機が訪れるのか。

EU/ユーロ圏はギリシャの債務問題の最終的解決と経済再生を後押しし、ユーロ体制にほころびを生じさせずに欧州統合の理念に基づく連帯を維持できるのか。答えはまだ出ていない。

文・村上 直久(編集部)

バナー写真:ギリシャ議会前で欧州連合(EU)との交渉合意を訴える市民=2015年7月9日(時事)

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