PM2.5共同研究がスタート~原因究明と対策提言を—日中の大学・企業が連携

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PM2.5(微小粒子状物質)による大気汚染に対する日中協力の道を求める公開セミナー(主催・笹川日中友好基金=SJCFF)が10月1日東京・港区の日本財団ビルで開かれた。今年スタートした日中の大学と企業による共同研究事業の第一弾として、中国で大きな問題となっているPM2.5による大気汚染について日中双方の専門家が講演した。

発生メカニズムは未解明―有効かつ現実的な対策提言を

若松伸司大気環境学会会長(愛媛大学農学部教授)(提供=笹川日中平和友好基金)

この共同事業は、冬季にしばしば発生しているPM2.5高濃度汚染の原因究明と必要な対策の提言を通じて両国の国民生活および関係の改善に役立てるのが狙い。中国から北京・天津を中心に華北地域のPM2.5を観測している清華大学環境学院の賀克斌(HE Kebin)院長が主に中国の最新の状況を紹介、観測分析と対策取りまとめで参加する日本の大気環境学会の若松伸司会長(WAKAMATSU Shinji、愛媛大学農学部教授)が「日本の経験と日中協力の可能性」と題して関係学会におけるこれまでの歩みと今後の見通しを説明した。

日中の当局間では現在、今年4月に韓国を交えた環境担当相の会合で「今後5年間の共同行動計画」が採択されたほか、北九州、四日市、川崎の各市や兵庫、福岡、長野、埼玉などの各県と中国側の都市との間で発生要因の解析や予報・予測や汚染源解析などの分野で「都市間連携協力事業」が進行している。民間では、両国企業の協力案件をつなぎ合わせるプラットフォームとして2006年に発足した「日中省エネルギー・環境総合フォーラム」(日中経済協会)の活動(2014年の協力案件は41件、累計259件=2013年は日中関係の冷え込みで開かれず)などもみられる。

しかし、2008年の円借款停止から大型のモデル事業が行われなくなっており、SJCFFの共同研究事業は、今なお発生メカニズムの解明が不十分なPM2.5について「科学的知見に基づく有効かつ現実的な対策作り」を提言し、環境分野における各方面の活動を支援する狙いがある。

冬は夜に発生―化学反応経て2次的に生成する

この日のセミナーで賀院長が明らかにしたところによると、中国のPM2.5発生状況は季節ごとに変化し、特に冬は夜に発生する。また一日のうちでも状況が変化し、成分は自動車や工場から直接に由来するよりもむしろ様々な物質による化学反応を経て2次的に生成され、発生エリアも北京、天津の広い範囲に広がっているという。このため賀院長は、個別都市をばらばらに考えるのではなく、「中国特有のメカニズムを科学的に解明したうえで、広いエリアを一体とした合理的な対策を立てなければならない」と訴えた。

一方、若松教授によると、日本の大気環境学会は2013年2月、中国での大規模な大気汚染に対し「中国におけるPM2.5大気汚染問題への大気環境学会の取り組み」と題して「国際的な連携のもとに、今までわれわれが経験し得なかったこの新しく深刻な大気汚染問題に対する研究を加速し、その科学的知見をもとに問題解決に多面的に取り組んで行きたい」との緊急声明を発表した。

中国とのPM2.5関連の共同研究は、1997年の日中首脳会談において「日中環境モデル都市構想」が提唱されたのを受けたモデル都市に関する協議がスタート。2004年、09年には研究の成果が高い評価を得ていた。しかし、それにもかかわらずこの時大規模な大気汚染が出現したため、若松教授はまず「高い評価をもらったが2013年に北京で極端な現象が発生してしまった。大変残念に思っている」と研究が大規模な被害の回避につながらなかった点について忸怩(じくじ)たる思いを吐露した。

同教授はそのうえで、PM2.5の生成過程について、工場、自動車などから来る人為起源と火山、黄砂などからの自然起源という2つの発生源があり、そこに日射量、風向・風速、気温・湿度といった気象要因が重なって発生すると解説。さらに冬には低温、弱風、春は黄砂や光化学大気汚染など季節要因が加わり複雑な生成プロセスを経るとした。この点は先の緊急声明でも「PM2.5は、さまざまな発生源から排出されるガス状物質や粒子状物質が大気中で変質し生成する極めて複合的な大気汚染現象である」として「数百種以上の化学成分が関与している」との可能性を指摘している。

これまでの研究から、夏には2次生成が中心となり、冬場には夜に発生するなど夏と冬とはまったく生成過程が異なることが分かっている。また国際的な都市比較をすると、発生の規模もその時間の長さも中国における状況は桁違いの規模だという。

再び日本に学びたい~交流・協力の強化に期待

最後に挨拶に立った賈棣鍔(JIA Die)中国青年国際人材交流センター副理事長の発言は圧巻だった。1972年の国交回復に際して「水先案内人」として関わった思い出に触れながら、両国の平和友好と協力は国民にとって「計り知れない利益でした」と、この言葉だけは日本語で強調。「日本は1970年代に環境保護活動を開始した。当時日本に来ると東京にはきのこ雲が立っていた。しかし、いまは空気も澄み、美しい環境は羨望の的である。われわれは再び日本に学びたい。両国が環境保護分野でさらに交流・協力を強化し両国国民に貢献することを期待する」と情感たっぷりに訴えた。聴衆の多くは賈氏の熱い思いに触れ、近年の屈折した日中関係に思いをはせざるを得なかった。

日中の平和友好と協力は「計り知れない利益だった」と挨拶する賈棣鍔中国青年国際人材交流センター副理事長(提供=笹川日中平和友好基金)

SJCFF事務局によると、研究事業は今後2年間の研究成果をもとに高濃度PM2.5汚染の緩和に必要な対策について提言をまとめる。この間、観測分析を元に共同研究会を随時開催し、その緩和に必要な対策について提言。公開セミナーや論文等で公表するとともに両国政府に提出するとしている。

大気環境学会は今年9月中国側カウンターパートである中国環境科学会大気環境分会との間で学術交流に関する覚書に調印、12月6~8日に広州で開催予定の大気環境分会年次総会時に、日中韓国際シンポジウムの開催を計画している。

文・ニッポンドットコム編集部 三木孝治郎 カバー写真=清華大学環境学院の賀克斌院長(提供=笹川日中平和友好基金)

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