軽減税率導入、高齢者に給付金3万円 参院選控え、“バラマキ”批判も

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今夏の参院選をにらんだ政治決着

自民、公明両党は2015年12月、現行8%の消費税率を17年4月に10%に引き上げる際、食料品全般(酒類・外食を除く)などの税率を8%に据え置く軽減税率導入で合意した。7月の参議院選挙を控え、選挙協力のパートナーである公明党の意向を全面的に受け入れた。一方、安倍晋三政権は15年度の補正予算で、低所得の高齢者に1人3万円を支給する臨時給付金の財源として約3600億円を計上。給付金は参院選直前に配られる見通しで、野党は「選挙目当てのバラマキだ」と反発している。

穴の開いた社会保障財源、不足分埋める議論はこれから

公明党は、消費税のもつ「逆進性」や「痛税感」の緩和を図るため、税率引き上げ時の軽減税率導入を主張。財務省が2015年9月に独自の低所得者負担軽減策を明らかにすると、支持母体の創価学会とともに、菅義偉官房長官に強力なロビー活動を展開した。

安倍晋三首相はその後、自民党税制調査会に軽減税率導入の検討を指示。制度設計をめぐっては、対象品目を生鮮食品に限定して年4000億円程度の規模に抑えたい自民党と、範囲を加工食品にまで広げて1兆円規模としたい公明党が綱引きを繰り広げた。最終的には安倍首相が政治判断を下して公明党案を受け入れた。

安倍首相が公明党案を「丸のみ」した背景には、夏の参院選で選挙協力を円滑に運びたいとの狙いがある。両党はこれまで、自民党が擁立した選挙区候補を公明党が支援し、比例代表では自民党が公明党候補に一部の票を回す方式で、互いの議席の上積みを図ってきた。今回の参院選は安倍首相にとり、長期政権を確かなものにするためにも負けられない戦い。水面下で公明党が望まないとされる”衆参ダブル選”の可能性もちらつかせつつ、同党との関係を「掌握」しようと躍起になっている。

一方、軽減税率導入に伴い「約1兆円の穴が開く」とされる社会保障財源について、6000億円分は確保の見通しが立たないまま。政府は17年3月までに恒久的な財源を確保するとしているが、「参院選前に税の軽減を決め、選挙後に増税を決めるのは有権者への目くらまし」との批判も野党から上がっている。

高齢者給付金、1回限り1100万人に

軽減税率導入に伴い、2014、15年度に支給された、「子育て世帯臨時特例給付金」(子育て給付金)=14年度は子ども1人あたり1万円、15年度は同3000円=は自民党の意向で廃止に。代わって15年度補正予算に盛り込まれたのが、低所得の高齢者に一律3万円を配る「臨時福祉給付金」だ。対象は、65歳以上で住民税非課税の低所得者約1100万人。単身者の場合、年金収入が年155万円以下であれば受け取る資格がある。

低年金の高齢者に対する消費税引き上げ時の対策としては、既に約760万人を対象に、月最大5000円を恒久的に支給する給付金制度を17年から開始することが決まっている。今回の「臨時給付金」は受給対象を大幅に広げ、さらに選挙前に給付が行われることもあって、野党は「税金を使った、露骨な選挙対策ではないか」と批判する。

これに対し、安倍首相は「アベノミクスの恩恵がいかず、かつ消費性向が高い高齢者に政策を打っていくのはミクロでも、マクロ経済でも正しい」(1月8日の衆院予算委員会答弁)と主張している。

文・村上 直久(編集部)

バナー写真:政府与党政策懇談会であいさつする安倍晋三首相(左から3人目)。右から3人目は公明党の山口那津男代表=2015年12月18日午後、東京・首相官邸(時事)

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