「新幹線」売り込み、日本の勝算は?

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世界各国で計画されている高速鉄道建設の受注競争が過熱している。世界に誇る「新幹線」システムの売り込みに力を入れる日本は、中国や欧州各国と激しい火花を散らしている。しかし、インドネシア高速鉄道受注では中国に逆転負けするなど、安倍政権が力を入れる鉄道インフラ輸出は思うほど容易ではない。

インドで新幹線受注に成功

2015年12月、日本はインドへの新幹線売り込みに成功した。インド政府が計画している同国最大都市ムンバイと工業都市アメーダバードを結ぶ区間(約520キロメートル)について、安倍晋三首相とモディ首相との間で合意された。インド高速鉄道会社(HSRC)が手がける初の路線で、2017年には建設工事に着手し、2023年完成の予定だ。総事業費約9800億ルピー(約1兆8000億円)とされ、日本側はこのうち1兆円規模を低利の円借款で供与する見通し。

新幹線技術の海外での受注は、07年に開業した台湾高速鉄道についで2件目。ベトナム、マレーシア・シンガポールなどでも高速鉄道の建設計画があり、2016年も受注を目指す各国の駆け引きが続きそうだ。神保謙・慶応義塾大学准教授は「アジアにおける高速鉄道建設をめぐる動きで、今年も中国と日本の受注競争の行方が注目される」と指摘する。

15年を振り返ると、日本はインドネシアの高速鉄道入札で中国に敗退したものの、その後インドでの受注に成功した。インド国内にはこのほかにも高速鉄道計画があり、日本の企業連合はこれを弾みに今後も優位に立ちたいところ。だが、現実はそう簡単ではない。

他の路線では、中国のコンソーシアムやフランス、スペインのコンサルタント会社が事業化調査(フィジビリティスタディ)を担当している。インド政府は最終的にアジア・欧州の各国が路線ごとに「すみ分け」ることも念頭に置いているようだ。

アジアを中心に需要は旺盛

世界の鉄道ビジネスが熱を帯びているのは、経済発展に伴い急激な都市化が進展するアジア各国で、大量輸送可能な都市交通への需要が高まっているためだ。鉄道インフラの整備は、国民生活や経済成長にも欠かせない。

鉄道事業のグローバルな展開で「3強」とされるのは、カナダのボンバルディア、独シーメンス、仏アルストムだが、高速鉄道の敷設総距離で今や世界のトップに躍進した中国も輸出に意欲を燃やしている。高速鉄道建設のように多額の費用がかかる国家的なプロジェクトには、発注先選定にあたり政府の思惑も絡み合う。

台湾高速鉄道は当初、フランス・ドイツの連合企業が受注していたが、1999年9月21日に発生した台湾中部大地震で高速鉄道の耐震技術に注目が集まり、車両と信号システムに日本製が採用された経緯がある。今回成約にこぎつけたインドでも、他の計画路線の入札ではモディ首相が各国への外交カードとして活用する可能性もある。

インドネシアでは中国が「逆転」受注

インドネシアでの高速鉄道では、日中が熱いトップセールスを展開。日本は15年9月に土壇場で中国に敗れた。第1期がジャカルターバンドン(約140キロメートル)、第2期がバンドンースラバヤ(約590キロメートル)を結ぶ計画で、ユドヨノ前政権時代に浮上した国家的なプロジェクトだった。日本勢が先行していたが中国がその後猛追。最終局面では、インドネシア政府が「高速鉄道ではなく、時速200~250キロの中速鉄道で十分」(ジョコ大統領)との声も伝えられ、いったん計画は白紙に戻されたが、その後あっけなく中国に傾いた。

日本敗退の理由についてはさまざまな指摘があるが、中国はジョコ政権の意向を踏まえ、インドネシア政府に財政負担をかけないよう、中国側が建設資金を貸し付ける新提案を行った。日本側は計画の修正案を示さず、対応で後れをとった。

専門家からは「結局は金銭面での差で負けたのではないか」との指摘があった。日本は何年も前から提案してきたが、後発の中国も「日本と同じような安全性を確保した鉄道システムを提供できる」と同様の仕様書を提示し、日本より有利な条件でインドネシアを動かした。さらに華僑の影響力が強い同国で、ジョコ大統領に政権交代したのも日本には不利に働いたとみられる。

安全性・性能は必要だが、価格や工期も重要

2014年に開業50周年を迎えた新幹線は、これまで運行に伴う死亡事故がなく、日本は「安全性・信頼性・省エネルギー性、環境性能などの面で優れた鉄道システム」(国土交通省)とPRしてきた。しかし、導入を検討する側の財政事情、社会インフラ状況は様々。日本側が「世界一の安全性」や正確な運行システムを訴えても、相手国からは「多少の遅れはあってもいいから、もっと安いシステムを提供できないか」といった要望が寄せられる。

海外に駐在する日本人技術者からは、インドネシアでの日本の敗退について「海外で日本のエンジニアに対する信頼は抜群。日本の技術力や性能への評価も高い。だが、中国や韓国などの競争相手に比べて現実的な“ビジネスマン”になりきっていない」とし、技術や品質の問題と商談の成否は別物であることを強調する。

AIIBの影響力増せば中国が有利に?

アジアへの高速鉄道輸出で、今や日本の最大のライバルは中国といえる。習近平指導部は海外への影響力を拡大する経済・外交政策「一帯一路」構想を掲げる中で、高速鉄道をはじめ道路や橋梁などのインフラ輸出を加速させている。中国の高速鉄道自体、日本の技術や部品も使われており、乗り心地などは日本と変わらない。となれば、中国が提示する低コストや短い工期などは大きなセールスポイントだ。

中国は国際競争力を強めるため、いったん分割した2つの国有鉄道車両メーカーを再統合させている。加えて、中国の主導で設立されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)の存在も無視できない。中国政府は「AIIBは中国の銀行ではない」と繰り返すが、今後AIIBの存在感が徐々に高まれば、新たな国際的な金融秩序づくりとともに、アジアの新興国や途上国への中国の影響力が増していくだろう。

次の攻防は“タイ新幹線”?

台湾、インドに続き、日本が受注獲得を期待しているのはタイの高速鉄道計画。バンコク-チェンマイ(約670キロメートル)を結ぶ総事業費1兆6000億円の大型事業で、報道によると、タイ政府は2015年5月、新幹線導入で日本側との覚書に合意した。最終的な成約には至っていないが、日本が共同建設のパートナーになる可能性が強い。

シンガポールとマレーシアでは、両国の首都を約1時間半で結ぶマレー半島高速鉄道(約350キロメートル)の計画があり、日中韓に加えてフランス、ドイツの企業も関心を示している。

さまざまな国際情勢も絡むだけに、高速鉄道建設をめぐる大規模プロジェクトの行方は一筋縄ではいかない。いずれの受注競争でも、日本の連戦連勝はあり得ないだろうが、鉄道先進国として培ってきたノウハウや実績を基に、鉄道ビジネスでも日本の意地を見せてほしいところだ。

(ニッポンドットコム編集部)

バナー写真:台中駅を出発する台湾高速鉄道(THSR)の車両。=2011年11月撮影(時事)

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