リサイクル金属で2020年東京五輪のメダルを 環境配慮と日本の技術アピールへ

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2020年東京五輪・パラリンピックの大会組織委員会は11月9日に開いた理事会で、使われなくなった携帯電話やスマートフォン、パソコンなどを回収し、リサイクルした金、銀などをメダルの材料にすることを決めた。組織委によると、メダルのためにリサイクル回収に乗り出すのは五輪として初めての試みだという。「環境に配慮した五輪」というメッセージが打ち出せるほか、リサイクル社会に向けた国民の関心を高めたいという狙いがある。

リオ五輪メダリストもキャンペーンに賛同

この取り組みは、2015年6月、青森県八戸市、秋田県大館市、岩手県一関市の3市が東京五輪・パラリンピック組織委員会に「使用済み小型家電から回収した金、銀、銅をメダルに活用してほしい」と提案したのが始まり。環境に配慮した材料を研究している一般社団法人エコマテリアル・フォーラム(茨城県つくば市、原田幸明会長)は16年7月、100%リサイクルした金を使い、五輪のメダル規格をクリアした「金メダルの試作品」を製作し、実現に向けた署名活動をネット上で始めた。

家庭や事業所に眠る使用済み電子機器は、リサイクルに回れば大量の貴金属、希少金属が産出ことから「都市鉱山」とも呼ばれている。10月21日には愛知県大府市と地元の至学館大学、電子機器回収大手のリネットジャパンらが発起人となり、「都市鉱山メダル連携促進委員会」が旗揚げ。レスリング女子の吉田沙保里選手ら、リオデジャネイロ五輪のメダリスト4人が記者会見に参加して「東京五輪ではぜひリサイクルメダルの実現を」と呼びかけた。

リサイクルメダルの実現を呼び掛け、記者会見した大府市の岡村秀人市長とレスリング女子の4人のメダリスト(提供・都市鉱山メダル連携促進委員会)

キャンペーンには大学生も参加。早稲田大学の学生環境NPO「環境ロドリゲス」は、都内や学内のイベントで、署名や回収活動を続けていた。

家庭に退蔵される携帯電話、パソコン

日本では2013年に「小型家電リサイクル法」が制定され、使用済みの携帯電話やパソコン、デジタルカメラ、ゲーム機などを回収・再資源化するシステムが整備された。環境省・経済産業省によると、国内で使用済みとなる小型家電は年間65万トン。すべて回収し、リサイクルに回れば28万トンの有用金属がリサイクルでき、その金額は844億円にも達する。

破砕処理、選別後の金、銀、銅を含んだスクラップ(株式会社リーテム提供)

しかし、現状の回収率はわずか7.7%。使用済みの携帯電話2億台以上、パソコン3000万台以上が家庭などで保管されたままだという。

使用済み機器の一部は現在、無許可の廃棄物回収業者に渡るケースもある。その場合は粗悪な施設で不十分なリサイクル処理が行われ、特に海外で環境被害を生むことが懸念される。

リサイクルへの意識変える“起爆剤”に

エコマテリアル・フォーラムの原田幸明会長は、「リサイクルに出した機器が実際に金メダルの材料に生まれ変われば、その行為は人々の喜びに変わる。結果が目に見えることで、リサイクルに対する市民の意識が劇的に変わることになる」と、メダル計画の意義を強調する。

リサイクル法の回収ルートに乗った使用済み小型家電は盗難防止のため、回収業者によるトレーサビリティーが整備されている。このため、「自分がリサイクルに出した携帯電話やパソコンが、どの工場で金、銀などに再資源化され、五輪でどの種目のどのメダルに使われたか追跡することも可能。これにより、日本の高い技術を世界にアピールすることができる」(原田氏)という。

早稲田大学「環境ロドリゲス」が出展した環境イベントのブースで、リサイクル材料で作られたメダルを見る親子=2016年10月8日、東京都港区

リオデジャネイロ五輪では銀メダル、銅メダルに「30%のリサイクル材料が使われた」とされるが、金メダルの金についてはリサイクルの言及はない。エコマテリアル・フォーラムは東京五輪・パラリンピックのメダル全量をまかなう資源量を金9.6キロ、銀1.2トン、銅700キロと試算。この金9.6キロを全てリサイクルでまかなう場合、携帯電話なら32万台、パソコンなら5万台が必要だと見積もっている。

取材・文:石井 雅仁(編集部)、11月16日に加筆修正

バナー写真:歴代の五輪メダルを紹介するポスターの前で、リサイクル材料で作った「金メダルの試作品」を掲げる早稲田大学「環境ロドリゲス」のメンバー

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