中国流モノづくりに見るフットワークの軽さ

科学 技術・デジタル

2018年6月27~29日、上海で世界最大級の携帯電話関連展示会「Mobile World Congress」(MWC)が開催された。会場となった中国は5G(第五世代通信)の商用サービスを世界で最初に展開すると発表している。模倣品天国と先進技術が同居するこの国で何が起こっているのかリポートする。

5Gの恩恵を最も受ける技術の一つが自動運転。各種通信機器とセンサーの塊である。電気自動車の普及とともに、自動車製造のノウハウを持たない企業も参入しやすくなった。

5Gとは

中国で2019年にも始まる5G前期サービスでは、6ギガヘルツ(GHz)以下の周波数が使用される。5Gの定義は「秒速10ギガビット(Gbps)の通信速度」「つながりやすい」「遅延が少ない」である。中国の5Gサービスは通話系ではなく高速データ通信と予想されており、沿岸主要都市の限られたエリアで提供されると思われる。

Datang Telecom Technology & Industry Groupが展示していた無線方式の火災報知器や煙探知機。広大な国土を有する中国は世界最大のIoT機器の実験場だ。

必要とされるハードウエアは、5Gの周波数に対応した基地局、遅延低減のため基地局間を高速で結ぶサーバー、そして5Gに対応した携帯電話などの通信端末である。ハードウエアは5G対応の集積回路(IC)を積んでいる必要があり、現時点でその量産に近いのは米クアルコム(Qualcomm)のみだ。

レノボが展示していたAIサーバーの基板。中身の主な電子部品に中国製が登場するのはもう少し先になりそうだ。

ファーウェイの5G基地局設備。

国産技術なしでも世界初の5G商用サービスへ

5Gに必要な先進技術やハードを見る限り、中国が自前で調達できるものはない。もし実際にハードウエアのふたを開ければ、内側の部品はほぼ全て外国産と思われる。世界最大の人口を抱える中国だが、GoogleやFacebookなどが使えないなど事実上の情報鎖国状態が続く国では人材も育たず、これに伴う新技術の開発も然(しか)りである。

必要な人材は常識外の報酬で集め、減価償却など経済ルールを度外視して工場を建て、他国ではあり得ない廉価で売る。中国のこのやり方では先進国へのキャッチアップ止まりとこれまでみられてきたが、最近の中国は技術の寄せ集めによって世界初のサービスを始めるまでになった。

走りながら直す中国流製品開発

日本のあるスマートフォン(スマホ)メーカーによると、製品の設計から量産までの所要期間は約1年半。一方、中国はこれを半年でやってのける。先進国では不具合や懸念点を出し尽くしてから量産となるが、中国は走りながら直すスタイルのようだ。こちらの方が方向転換しやすくフットワークが軽く見えるのは事実である。

今回、製品を一般向けに公開した大手中国系スマホメーカーは予想より少なく、ファーウェイ(Huawei Technologies)、ヴィーヴォ(Vivo)、レノボ(Lenovo)、中興通訊(ZTE)くらいであった。ワンプラス(One Plus)、北京小米科技(シャオミ=Xiaomi)、オッポ(OPPO)などは招待者のみの会合を周辺のホテルや特設会場で開いていた。今回は、一般公開されていた新型スマホ数種類の見聞に基づき、最新のトレンドを概観し中国の技術力、その世界市場における競争力の実態と将来性について展望してみたい。MWCに出品された2社の製品を見てみよう。

スタイリングの変化を先取り

昨年発売されたアップルのiPhoneXは、ディスプレイを筐体(きょうたい)(※1)前面に広げ、上部中央に顔認証センサーやカメラを収めるノッチ(切り欠き)を設けていた。高級機の象徴の如く多くのスマホメーカーがこのスタイルを踏襲しているが、世界のトレンドは、この切り欠きの幅が次第に狭くなって最後は消え、筐体前面すべてがディスプレイになるというものだ。

▷ヴィーヴォ= NEXは切り欠きなしの新デザインを取り入れている。自撮りカメラは必要な時に筐体上部に飛び出すようになっている。有機ELパネルを搭載し、DRAMは8GB、写真や動画を保存するフラッシュメモリーは256GBといずれもスペック(製品仕様)の面で世界最高峰の水準にある。価格も約800米ドルで、これまで中国スマホが足場を築けなかったプレミアム価格帯に製品を投入できるようになった。

Vivoが発表した新型スマホ「NEX」。上方に飛び出す8MPフロントカメラが特徴。

▷ファーウェイ= 世界で初めて筐体背面に3つのカメラを搭載した「P20 Pro」を展示していた。背面カメラは40メガピクセル(MP)のメインカメラ、8MPの望遠レンズに加え、20MPのモノクロカメラを搭載した。モノクロカメラは照明を落としたレストランなど暗い場所で被写体の輪郭を鮮明にとらえることが可能で、より美しい写真を撮影できる。カメラの性能を評価する欧州系の第三者機関DXO MARKによるランキングでもトップを獲得した。

しかしながら、3眼で自動的に美しい画像が取得できるのだろうか。筆者は、写真の美しさは3つ目のカメラではなく、40MPの世界最大の画素数を持つカメラのお陰と考える。暗い場所で撮る写真が全てというわけでもなく、白黒カメラの効能は健康・医療分野におけるマイナスイオンなどの存在と同じように“疑似科学”の領域と感じている。3眼の本当の目的は、差別化が難しいスマホにおいて、外観の違いをアピールすることにあったと思う。

モバイル業界の動向象徴する存在へ

筆者はこれまで折に触れて話題の中国メーカーのモバイル機器をモニターしてきた。その結果、かつてはその他大勢集団の代表であった中国製スマホが、現在ではモバイル業界の動向そのものを象徴する存在となりつつあると認識している。

本稿の結論は、中国は「模倣の段階」から、「新機軸を打ち出す段階」へ移行したということである。世界初の着想はアイデア倒れで終わるものがあるかもしれないが、MWCで見た限りでは今の中国には失敗を次の推進剤とする勢いがある。

世界最大の人口を抱えるということは、世界最大の実験場を持つことも意味する。億単位のユーザーの厳しい目にさらされる製品ほど強いものはないだろう。

アグレッシブな人材獲得、政府の手厚い資金援助、作りながら改善する独特なモノづくりの価値観など、中国特有の環境が現在のスマホビジネス繁栄の背景にある。出来上がったスマホは賛否両論が巻き起こるような製品ではあるが、新機軸を打ち出しているのも事実であり、結果的に新規性に富む製品が多く生まれる土壌となっている。

ごく最近まで、模倣が多いことなどを理由として中国の技術力を低く評価する傾向が日本にはあったが、いまや中国はモノづくりの分野では世界の先頭集団に入った。今後はマラソンの如く続く長期の競争を最後まで走り続けられるかに注目したい。

バナー写真:携帯電話/OPPO日本参入第1弾「R11s」(2018年1月)=時事通信

(※1) ^  筐体(きょうたい):携帯電話、パソコン等で機械や電気機器等のメイン部品を収納している外箱のこと。フレームを含めた外装を指す。

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