スペインと日本の味覚の出会い

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スペイン・チョコレートと日本の味

2月14日のバレンタインデーには、多くの人々がチョコレートを贈る。そもそもチョコレートの起源は、メソアメリカ(現在のメキシコ及び中央アメリカ北西部辺りを指し、古代文明が発達した地域)にある。アステカ帝国を征服したコルテスがカカオを本国スペインへ持ち帰り、その後欧州に広まった。

近年日本では、自分へのご褒美として高級チョコレートを買う女性も増え、フランスやベルギーのチョコレートのほかにも、スペインのチョコレートも進出している。スペインのチョコには日本の駄菓子に入っていたようなパチパチ感のあるチョコ、カレー、サフラン、黒トリュフ、テキーラ味のチョコから、日本の味を融合したしょうゆ、わさび味のチョコまである。

スペイン人と日本の味覚の出会い

スペイン人が日本の味覚に出会って新製品を開発するのは、チョコレートの分野だけではない。世界中の料理人・グルメに影響力のあるレストラン、エル・ブリのカリスマ・シェフ、フェラン・アドリアは、来日して柚子、くずなどの食材や、東京土産として有名な人形焼きなどの和菓子に触発される。それらを持ち帰った彼は、和食の技法・食材、和紙などの日本の素材を取り入れ、視覚・嗅覚・触覚(食感)を用いて味わうメニューを製作している。また昨年7月には、日本人のフードコーディネーターの協力で、岩手産酒粕のコルネット、青森産黒ニンニクのマロングラッセ、など東北の食材を使用した品も登場した。

彼の厨房には世界各国から見習いが集まる。彼の厨房、工房―と言うより科学実験室―の様子は、ドイツのドキュメンタリー映画にもなった。こうして彼の試みは各国に広まり、各地で和食にインスピレーションを受けた新しいメニューが供されるようになった。

五感の文化交流

フェラン・アドリアは、感性と味を見る能力は決して教えられるものではないと言う。つまり味覚が発達していなければ美味しいものはつくれないのだ。逆に言えば、目新しい食材も、味覚が発達している人たちの世界には受け入れられ、広がりうるのである。

今も昔も、スペイン人は未知なる味覚に果敢に挑戦し、世界に広める。世界的に活躍したスペイン出身のチェリスト、カザルスは「その土地の趣味と味わいを持った高度な音楽なら、国境を超えて世界中に聞かれる価値がある」と言ったが、味も同様であろう。

和食の中には、昆布・鰹節・シイタケのだしから出るうま味がある。日本人には、伝統的に「感性と味を見る能力」は備わっていたはずである。スシ・スキヤキで終わらない、感性で味わう日本料理の繊細さが、繊細な味覚を有する人々を通し今まで以上に世界にアピールされるのも悪くはない。(2012年1月31日 記)

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