「国民総教養」外交

政治・外交

外交の専門家より一般の市民が優れた外交実績をあげることがよくある。市民レベルだと純粋な友情だけをベースにした交流が可能だからであろう。職業的な政治家同士だと国益第一の言動をとりがちである。

四川大地震で世界の反響を呼んだ小さな命

無垢な幼児が大いに中国のイメージアップを果たしたことが忘れられない。幼児の行動ほど素直に受けとめられるものはない。

2008年5月12日午後、四川省北部を震源地にした大地震が起きた。死者、行方不明者約9万人を出す災害になったが、夜が明けた早朝、震源地の真上近くで倒壊した幼稚園舎のがれきの下から3歳の朗錚(ろうそう)君が見つかった。腕などの骨が折れて体の節々は猛烈に痛いはずなのに、救出隊員たちに最初に口にした言葉は精いっぱいの声で「ありがとう」。散乱した板材で間に合わせた担架で運ばれていたときも幾度も「ありがとう」、さらに右腕を頭にあててしっかりと敬礼した。その敬礼する朗錚君の写真が海外にも発信され、反響を呼んだのである。3歳児による敬礼が凛々しく映り、世界中の多くの人々の胸を打った。

米中外交関係の修復に卓球チームが果たした役割が評価されてピンポン外交と称されたりしたが、中国には外交という表面に輝きをもたらすスポーツや文化などの交流を重視してきた歴史がある。英語でいう「パブリック・ディプロマシー(Public Diplomacy)」の走りだったかもしれない。中国語で「人民外交」「民間外交」または「公共外交」と読ませる。民間の役割を重視した外交理念である。

中国が日本から学ぶ「パブリック・ディプロマシー」

この点は日本から学ぶべきものがたくさんあると、中国人は思っている。3・11の未曾有の東日本大震災以来、日本人の秩序だって助け合う姿が世界に配信され続けている。災難中の略奪多発を経験する国々が多い中で日本人の「絆(きずな)文化」(「助け合い精神」)の成熟は驚きに値する。途上国を含め各国から復興への支援の手が差し伸べられて、きっちりお礼し続けているのもそうであろう。米ハリウッド映画にも主演して国際的に知られた俳優・渡辺謙さんは今年1月、世界の政治・経済のリーダーが集まる「ダボス会議」に多忙な身にもかかわらず出席し、英語で大震災への支援感謝を表明した。立派な公共外交の一端だったと思う。

中国は経済力(GDP総額)で2010年、日本を上回って世界第2位になったことを誇らしく思っている人々も多いらしいが、果たして公共外交の成熟を伴っているだろうか。国民一人ひとりが豊かになって初めてゆとりある生活が生まれ、社会への思いやり、気遣い精神が潤う。日中は古来、「衣食足りて礼節を知る」ということわざを共有してきたことをかみしめたい。(2012年6月10日 記)

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