解散総選挙の跫音(あしおと)

政治・外交

「どうすれば再選できるか」を優先する議員心理

税と社会保障の一体改革について、自公民の3党が与野党の垣根を乗り越えて協力し、必要な法律を国会で可決させた。その際に、野田首相と谷垣自民党総裁の間で「近いうちに」解散総選挙を行うという約束が交わされた。「近いうちに」が具体的に何月何日なのかをめぐって、政界では様々な観測がなされている。

現在の衆議院の任期は来年の8月までである。「近いうちに」がいつであれ、あと1年以内に総選挙が行われる。選挙が近くなると、どうすれば再選できるかを最優先に考えるのが国会議員である。とりわけ現行の小選挙区制では、選挙区で1人しか当選できない(厳密に言えば、比例代表部分に重複立候補すれば、小選挙区で敗れても惜敗率競争で勝ち上がる可能性はある)ので、周到な選挙戦略が必要である。そこで、自分の所属する政党では勝てる可能性が無いと判断すれば、離党して新党を作ったり、他の政党に移ったりする。

例えば沖縄では、前回の衆議院選挙では自民党は全滅し、4区のうち2区で民主党候補が勝った(他は、国民新党と社民党)。ところが、今や普天間基地移設問題などについて野田政権に反旗を翻して、民主党代議士2人が離党し、1人は国民の生活が第一に移り、1人は無所属となった。沖縄では、民主党衆議院議員は現在ゼロである。今年6月の沖縄県議選では、民主党は壊滅的に敗北し、民主党の看板では選挙での勝利はおぼつかないという判断を、沖縄の政治家が下すのは当然である。

沖縄県から消えた民主党議員(小選挙区選出議員の所属政党の変化)

 議員2009年8月総選挙2012年8月現在
1区 下地 幹郎 国民新党 国民新党
2区 照屋 寛徳 社民党 社民党
3区 玉城 デニー 民主党 国民の生活が第一
4区 瑞慶覧 長敏 民主党 無所属

 

維新の会をめぐる各党の思惑と政界再編への期待

マニフェスト違反で、支持率の低下が顕著な民主党を離れようとする議員の第一の受け皿が、民主党から分かれて小沢一郎氏が発足させた国民の生活が第一であり、またその友党である新党きづなである。第二が、今や国民の人気が高い橋下大阪市長の率いる大阪維新の会である。この政治団体が、衆議院選挙に候補者を立てれば、民主党、自民党の二大政党に反感を抱く有権者の票を大量に獲得する可能性がある。

二大政党以外の中小政党も、みんなの党に代表されるように、この大阪維新の会との連携を真剣に模索している。安倍晋三元総理も、維新の会と協力し、再び権力の座に就くことを考えている。小沢一郎氏は、維新の会との協力を軸に、イタリアで成功したような中道左派連合「オリーブの木」構想のような政権を考えている。

このような動きは、民主党や自民党に所属する議員にも微妙な影響を与えており、とくに両党の党内反主流派は、時期と条件さえあえば、離党して新しい政治集団に参加することも考えているようだ。しかし、問題は小選挙区制である。第三極が勝つという確信が無ければ、二大政党から離れて選挙を戦うのは、候補者にとってはリスクが高すぎる。

しかしながら、民主党政権の機能不全、谷垣自民党の自己改革努力の欠如による支持率の低迷は、有権者に二大政党に代わる政治勢力への期待を高めさせている。その期待が総選挙で形になれば、日本の政界は再編成されるであろう。

(2012年8月26日 記)

 

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