日韓新政権の東アジア外交戦略

政治・外交

いつの時代、どこの国でも、新しい政権の誕生は、国内政策にせよ、外交にせよ、新しい政策を打ち出す良い機会だ。

しかし、新政権同士の場合は各々の政策方向がずれたり、相手国の意図ややり方について誤解が生じて、摩擦を生起することもまれではない。

日本と韓国で新政権が誕生するにあたり、誤解や摩擦を回避して日韓関係を安定的軌道にのせるためにどうすべきか。

冷静さが求められる「歴史認識問題」

第一に両国政府が注意すべき点は、「過去」あるいは韓国側のいうところの「歴史認識」問題の取り扱いであろう。

両国の指導者は、頭と心の双方において、歴史問題を「外交的」な問題とすること自体が、ある種の歴史認識問題であることを認識する必要がある。その上で、歴史認識の問題を二国間の問題(ISSUE)として取り上げること自体の是非やその取り上げ方について、冷静な「認識」を持つことが何よりも大切である。政治指導者自身が、この問題をめぐって感情的になるようでは、摩擦は増幅するだけである。

また、歴史認識の問題は、現状認識や未来展望と無関係に論ずることはできないという「認識」を両国の指導者が共有する必要がある。現在と未来の政策に反映される保証がなければ、「歴史認識」について理解しあうことに政策的意味は乏しいからである。

その上で、両国はこの問題の外交的処理にあたって、各々の国の内政から切り離す努力をすべきである。そうした努力の一環として、日本側は、過去の問題についての「妄言」を慎み、日本側の謝罪と反省を明確に表明した、いわゆる村山談話を常に原点とすべきである。

他方、韓国側は、慰安婦問題も含め、過去にまつわる問題を外交問題とするのであれば、いつ、どこで、誰が、問題を日本側と議論することが適当かを、十分慎重に判断しなければならない。

多角的戦略互恵関係の重要性

しかし、こうした配慮だけでは、日韓両国は「過去」を完全に克服できないであろう。よく唱えられることは、未来志向型発想、青少年交流などである。しかし、中期的には、日韓両国が東アジアにおける外交戦略を共有する(少なくとも相互の戦略を深く理解しあう)ことが必要である。

その場合、北朝鮮に対する当面の戦略について、日米韓三国の戦略をすりあわせることも重要であるが、むしろ、東アジア全体についての中期的な展望と戦略についての議論を深めることが大切である。特に、台頭する中国をどう取り扱うかについて、いわゆる第三トラックを含めた政策対話を深める必要がある。

加えて、朝鮮半島の(南北の統一といった長期的展望に至るまでの)中期的展望について、日韓の間はもちろん、米国や豪州を含んだフォーラム、あるいは、日中韓三国フォーラムをも活用した戦略対話を深めるべきである。

そうした対話と並行してとるべき具体的戦略としては、何よりもまず、日韓経済連携協定(EPA)の締結について首脳同士が合意することである。また、石油備蓄、新エネルギー開発、海洋開発(海洋牧場など、漁業資源開発を含む)、食糧安全保障対策としての食糧備蓄、防災対策(原子力安全政策を含む)などについてのハイレベル政策協調も実現すべきである。そのための具体的方策のひとつとして、日韓閣僚会議の活性化を図るべきである。

多角的戦略互恵関係を日本と韓国が築き上げることができれば、両国は「過去」を克服し、竹島をめぐる問題を「戦略的」観点から処理することにつなげることができるであろう。

東アジアにおいて外交の多元化を促進

次に、経済連携とも関連して、日本は東アジアにおいて外交の多元化を促進すべきである。すなわち、政府は外交の主たる担い手ではあっても、唯一の担い手ではないことを、韓国に十分認識せしめるべきであり、またそれを自ら進んで実行すべきである。すなわち、NGO、NPO、市民団体、知識人などが、問題によっては主たる政策的対話の主であってよいという考えを日韓両国そして東アジア全体において一層広めるべきである。このように外交を「多元化」することによって、各種の問題がいたずらに「政治問題化」する可能性を軽減し、その影響を極小化することに役立つからである。

さらに市民団体やNPO同士の交流、連携の促進、とりわけ、環境、福祉、ジェンダー、教育、多文化共生などの分野での連携は、日韓両国においてこれらの社会問題を検討するにあたって、国際的観点を導入することに役立つであろう。

以上すべてを実現するにあたって、その基本的前提となるべきことがある。それは、両国の新政権が、相手の政権を十分「認知」し、尊重することである。そのためにも、政治指導者同士の信頼感を醸成することが重要である。事実、最近の日中、日韓関係の摩擦の一つの原因は、政治指導者同士の「不信」にあったといっても過言ではない。その意味で、日韓首脳会談を早期に実現すべきである。

(2012年12月25日 記)

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