日本の「内向き志向」打破に動く―日米文化教育交流会議

社会

日本人学生の米国留学が減り続けていることが、日本の「内向き志向」の象徴のように取り上げられているが、この現状を打破しようという積極的な働き掛けの1つが日米文化教育交流会議(カルコン=CULCON)の最近の動きだ。

半世紀を迎えたCULCONの危機感

2013年5月17日に早稲田大学(東京)で行われた日米文化交流会議(カルコン)シンポジウム「日米関係と教育交流の発展」の討議風景

フルブライト交流計画は日本人によく知られているが、カルコン(CULCON)は意外に知られていない。1961年当時の池田勇人首相とケネディ米大統領との日米首脳会談で設置が決まったもので、翌年の第1回日米合同委員会(東京)で正式に発足した。以後、2年ごとに会合を行い、昨年で満50年を迎えた。1983年から3年にわたる日米教育の相互研究の結果は、わが国の教育界に大きな影響を与え、2001年には日本に学ぶアメリカ人留学生の大幅な増加推策を打ち出した。

カルコンの日本側最高顧問の福田康夫元首相は6月13日、首相官邸に安倍晋三首相を訪ね、2020年までに日米両国の留学生をそれぞれ倍増させる提言を手渡した。

しかし、バブル崩壊後の日本は企業の活力減退だけでなく、若者の海外留学にブレーキをかけた。5月17日に、早稲田大学で行われたカルコンの国際シンポジウム「日米関係と教育交流の発展―日米双方の留学生倍増へ向けて」では、多くの日米パネリストが繰り返し日本の留学生激減に懸念を表明した。日本から米国への留学生数は、2004年の43000人が昨年は27000人まで40%近く激減したからだ。

日本は激減し、中韓両国が増加する理由

日本人学生の米国留学は、なぜ減ったのか。パネリストの1人であるスーザン・ファー米ハーバード大教授(CULCON米国委員)は、いくつかの理由を挙げた。1つは、中国、韓国、インドなどでは国際経験があると学生のキャリアが高く評価されるのに対し、日本ではほとんど評価されない。しかも、1年以上留学すると就職活動への悪影響が出るという社会構造上の問題があると指摘した。

米国大学の学費の高さも、日本人学生が留学を敬遠する1つだが、ファー教授は「学費は高いが、米国の全学生の64%が何らかの形で奨学金やサポートを受けている」と述べ、制度的な支援策を活用すべきだと指摘した。

逆に、同じ東アジアでも中国、韓国の学生はなぜ留学に積極的なのか。特に韓国の若者のグローバル化について、ゴールドマンサックス証券会社のマネージングディレクター兼チーフストラテジストであるキャシー・マツイさんは、1997年の韓国経済危機で、多くの企業が倒産し大学生が深刻な就職難に陥っただけでなく、対外進出をしなければ生き残れなくなった韓国企業が、グローバル化のための相当な英語力を学生たちに要求したことが大きいと解説した。事実、韓国では大学入試で英語検定を必須化したのに対し、日本の大学入試にはそうした義務付けはなく、英語コミュニケーション能力不足が歴然としている。

中国も、大学生志望急増で中国国内だけでは進学ニーズをまかなえず、海外留学を志向する学生が多い。生き残りをかけた厳しい海外留学という側面も見逃せない。

留学問題は「グローバル人材の育成」問題

ノーマン・ミネタ元米運輸長官・下院議員は、シンポジウムで日米留学の低迷について「次世代グローバルリーダーの涵養の問題」と指摘し、日米人的交流の質と量を同時に高める必要性を強調した。

フルブライト交流計画は、学術、ビジネス、芸術、メディア、科学など各界のリーダーを育成し、その数は全世界で約30万人に上る。フルブライト・ジャパンは1949年以来の歴史を有し、その間に約7300人の日本人と約2500人の米国人が“フルブライター”となった。まさに、グローバルリーダー育成機会を提供してきた最大のプロジェクトだ。その精神は新世代の若者たちが競合し、相互に関心を持ち合い、グローバル社会が直面する課題に目を向かせることだと言える。だからこそ、異文化社会に生活し、勉学に励み、働くという経験が不可欠となる。

しかし、グローバル人材育成は、もはや国と国の取り決めや交流計画だけでやる時代ではない。すでに、1人ひとりがやる時代であって、若い世代は異文化交流を通じて「価値」を創造している。モノカルチャーではイノベーション(創造破壊)は起きないだけでなく、創造性をもたらす多様性(diversity)も、初めからあるのではなく作り出さなければならないものであるという強い意識が求められている。

日本の海外留学生の半数が “就職できず”に帰国

留学のもう1つの問題は、日本に留学した多くの海外留学生が就職できずに、帰国してしまうことだ。経済同友会の前原金一副代表幹事は、海外からの留学生総数は約14万人で、うち8割が中韓両国の留学生で占められ、米国からの留学は約2,000人、全体の1.4%に過ぎないと指摘した。

しかも、せっかく日本に留学したにもかかわらず、半数が就職できずに帰国、今春も3万8000人が卒業したが、国内就職が決まったのは7900人に過ぎなかったと報告した。日本企業には、インターンシップ制の利用や海外留学生の採用複線化など積極的なグローバル人材の活用方法を取り入れる必要がある。

逆に、日本人の海外留学生総数は約6万人で毎年1万人が帰国しているが、こうした人材の活用についても日本企業はより積極的に採用することを検討すべきだろう。ちなみに、最近の「海外留学生のキャリア意識と就職活動状況」調査結果(ディスコが実施。日本人留学生7,414人を対象にインターネット調査を実施。342人が回答)によると、日本人の海外留学生の35%が留学前から就職活動に不安を感じており、留学後に就職活動をして改めて苦労を感じた留学生は34.3%に上ることが浮き彫りになっている。

(2013年6月6日 記)