17年ぶりの仏大統領訪日から見えたもの

政治・外交

2013年6月6日~8日、フランソワ・オランド仏大統領が国賓として初訪日し、安倍晋三首相との首脳会談を行った。仏大統領の国賓来日は1996年のシラク元大統領以来17年ぶりである。

中国傾斜の前仏政権姿勢を修正

日仏首脳会談の共同声明(6月7日)では、原発技術・武器開発をめぐる共同行動や、安全保障分野の連携強化という点が強調された。オランド大統領の対アジア戦略は、中国に傾斜して2008年の北海道洞爺湖サミットへの出席を除き訪日することのなかったサルコジ前大統領の路線からの転換がまず指摘できる。

来日直前の6月4日は天安門事件24周年にあたったが、中国は言論統制を一層強めるなど依然として一党独裁の強権政治を継続している。人権問題で深刻な懸念の持たれる中国に対して、大統領の出身政党である社会党から厳しい声が上がっている(『朝日新聞』2013年5月4日)中で、人権・民主主義・法の支配などの基本的価値観を前面に出し、日本重視に大きく路線を転換したという見方ができるだろう。

しかし、内部には深刻な貧富の格差を抱えつつもGDPで世界第2位に躍り出た中国と一線を画すわけではなく、経済的実利と国際正義・国際規範を前面に出す多元外交の確立を目指すという姿勢を示したものだといえる。

これに対し安倍政権としては、外交力を高めるため、EU中核国で国連安保理常任理事国でもあるフランスとの関係を再強化するとともに、「アベノミクス」による経済成長路線をグローバルな舞台で一層強化したいという思惑があった。同時に民主党政権の掲げた脱原発路線に対し、原発大国フランスとの関係強化という「外枠」を固めることで、国内の脱原発派の勢力の批判を和らげようという意図も透けて見える。さらに、米英両国に次いで武器共同開発で合意したことは、政治・安保・経済の面での関係強化を一気に進める意義を双方が見出したといえる。

日仏連携の場としてのアフリカ

日仏共同声明を発表し、固く握手を交わすオランド仏大統領と安倍総理。(写真=ロイター/アフロ)

以上の成果を残したオランド大統領訪日だが、両国関係強化の重要な場として、アフリカの存在が明確になったことも大事なポイントだ。日EUの関係強化のための場としての北アフリカ・中東地域の重要性を論じたことがあるが、アフリカ大陸は中国が近年急速にプレゼンスを増している地域である。安全保障上の重要性と経済的潜在力を備えるアフリカ大陸で、アフリカに独自の情報網を持つフランスと、アフリカ諸国から良好なイメージを持たれている日本が協力することで、日本、フランス、アフリカ諸国の三者にとって相乗効果的な利益を生み出す可能性がある。

おりしも、オランド大統領訪日の直前の6月1日~3日、日本政府は横浜で第5回アフリカ開発会議(TICAD V)を主催し、アフリカ約40カ国の首脳との二国間会議を行って関係強化を図り、アフリカにおける日本のプレゼンス拡大を図っていたところである。TICAD Vが発した「横浜宣言」には、アフリカのインフラ整備の一環としてエネルギー対策が盛り込まれており、原子力についての明示的言及はないものの、将来的な原発の売り込みへも安倍政権として道筋を付けたと読むこともできる。

また、今回の首脳会議で 出された「日仏間協力のためのロードマップ」では、フランスが2013年1月に介入を行ったマリを含むサヘル地域でのテロ対策への参画が謳(うた)われるなど、日仏が連携してアフリカでプレゼンスを高めうる要素が散りばめられている。日本のアフリカ開発への取り組みを踏まえ、オランド大統領は、6月7日の国会での演説で、アフリカを舞台とした日仏連携の必要性を強調した。

文化外交も不可欠

日本はEUとの経済連携協定(EPA)、自由貿易協定(FTA)締結を進めており、当然フランスもこの早期締結をサポートする姿勢を明確にした。また大統領は講演で、文化面での両国の関係のさらなる緊密化にも言及し、外交・安保、経済、文化における全面的な協力関係の強化への意欲を示した。日本も、文化面でマンガやアニメなど日本のポップカルチャーの需要が特に浸透しているフランスを、日本の文化外交のグローバルなパートナーの中核に据えている。

(2013年6月11日 記)

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