日本と中南米音楽

文化

数年前、東京・渋谷のミュージック・ショップで、メキシコ人歌手、ホセ・ホセのベストアルバム(2枚組CD)をたまたま見つけた。正直なところ私は彼の歌のファンではないが、あまりに場違いに思えて買ってしまった。もし私がアメリカに住んでいたなら、「歌のプリンス」と称される彼のアルバムを見つけるのはたやすい。というのもアメリカではメキシコやスペイン語圏出身者の人口が非常に多く、5000万人を超えるからだ。しかし日本では事情が違う。

中国、韓国に次ぐ中南米出身者数

法務省のデータによると、2012年時点で日本に住む外国人は、全人口のほぼ1.5%にあたる約200万人。その内訳は、中国人32%、韓国人27%、フィリピン人10%で、外国人10人の内7人がこれら3カ国の出身者ということになる。中南米出身者は13%で25万3千人。ブラジルの19万人を筆頭に、以下ペルー4万9000人、ボリビア5200人、アルゼンチン2700人、コロンビア2250人、メキシコ1900人、パラグアイ1800人の順になっている。

結論からいえば、数の上で我々中南米出身者は、必ずしもアメリカにおける“力のあるマイノリティー”ではないが、その存在は重要である。日本在住の外国人の中では、中国人、韓国人に次ぐ3番目に位置する。つまり、渋谷の店でホセ・ホセのCDに出くわすというようなことも珍しいことではないのである。

しかし、現実には日本のミュージック・ショップは、たかが25万人程度の需要を満たすためにCDは売らない。中南米の人気歌手、例えばフアン・ルイス・ゲーラ、カエターノ・ベローソ、ソーダ・ステレオ、フリエタ・ベネーガスなどのCDは、日本のCDショップではなく、別のルートで買う人が多い。つまり、店に置いているCDは、明らかに日本人向けということになる。

カラオケ楽曲に多い、スペイン語オリジナル曲

日本における外国音楽について語るときには、少し注意が必要だ。この国には、外国音楽を、日本人アーティストによる音楽と区別するための「洋楽」という言葉がある。厳格な意味からすれば、そこにはアメリカやイギリスはもちろん、その他の地域の例えばタンゴ、サルサ、ボサノバというような音楽まで含まれているが、大多数の日本人にとって洋楽といえば、マイケル・ジャクソンやビートルズのような英語音楽を意味する。大きなミュージック・ショップに行けば実感できる。洋楽のセクションはとても広いが、中南米の音楽はごくマイナーな「ワールド・ミュージック」という一角に置かれている。つまり、中南米音楽というのは「選り抜きの人」だけが立ち寄るセクションにあるというわけだ。

しかしながら、ポルトガル語にせよスペイン語にせよ中南米の歌は日本のあちらこちらに広がっている。歌の題名や発祥は知らないにしても、多くの日本人がこれまでに何度か聞いたことはあって、気に入っている人もいるかも知れない。

例えば、日本のカラオケに置いてある歌の本をめくってみれば、スペイン語の歌をたくさん見つけることができる(ポルトガル語は非常に少ない)。「マカレナ」(スペインの歌であって中南米の歌ではない)やトリオ・ロス・パンチョスのボレロからリッキー・マーチンのスペイン語バージョンやシャキーラまである。少々大げさかも知れないが、私のように日本に住む中南米人が日本人の友人とカラオケに行ったとき、こうした歌を歌わされるはめになるのは間違いないだろう。

グロテスクな「マツケン・サンバ」

また、CMでも「イパネマの娘」、「ラ・バンバ」、「花祭り(ウマウアケーニョ)」、「コーヒー・ルンバ」のような中南米の歌がよく使われている。これに加えて興味深い現象は、いかに多くの日本人ミュージシャン達が中南米音楽を演奏したり、それを日本風にアレンジして演奏しているかということである。

最も成功している例としては、ボサノバを歌う小野リサであろう。別の面白い例では、サルサの世界に進出したオルケスタ・デ・ラ・ルスが挙げられる。最後に非常に珍しいケースとして、ベネズエラの民族音楽を演奏する東京大学の学生グループであるエストゥディアンティーナ駒場がある。事情通には彼らの演奏技術は海の向こうのミュージシャンに劣らぬほどの腕前である。

しかし、「マツケン・サンバ」のような実に恥ずかしいようなものもあった。歌うのは時代劇で有名な俳優、マツケンこと松平健。マツケンがほとんどあり得ないギンギラの侍衣装をまといサンバのリズムで歌い踊るのだが、ポルトガル語とスペイン語がごちゃまぜになっている。ジョークとしては非常に面白いかも知れないが、個人的には全くグロテスクな混交でしかない。しかし、まあ、蓼(たで)食う虫も好き好きということかな。

(2013年7月25日 記、原文スペイン語)

音楽 中南米