テロ組織の残虐はイスラム法に違反する

政治・外交

日本人ジャーナリスト後藤健二氏殺害より以前に、エジプト人女性政治活動家が銃撃され死んだ。どちらもイスラムに違反する残虐行為だ。哀悼の意を込めたエジプトからの報告。

エジプト人政治活動家と日本人ジャーナリストの死

1月の最終週、日本人ジャーナリスト後藤健二氏と、エジプト人政治活動家のシャイマー・アッサッバーグ女史が亡くなった。二人とも自由を守って迎えた死であった。

私はシャイマー女史を悼んでカイロ郊外の大テントで営まれた弔問に訪れたのち、このコラムを書いている。シャーデリーヤ・ハーミディーヤ・モスクの弔問テントにやってきた弔問客はみな、驚愕と悲しみの真っただ中にいた。
彼女は、エジプト1月25日革命4周年記念にあたり、前日の24日、カイロ中心部のタハリール広場にある犠牲者の碑に花を供えるために向かう途中、襲撃者不明の銃弾によって殺された。彼女の死は、後藤氏が非人道的な野蛮なやり方でのどを掻き切られたことを思い起こさせた。

後藤氏は、ファハミ・エジプト外相の言葉を借りれば、イスラムの教えに反する、忌まわしく、残忍かつ野蛮な方法で殺害された。また、オバマ米大統領は、彼は勇敢にシリア国民の惨事を外の世界に伝えようとしていたと声明で哀悼の意を表している。

なぜ後藤氏は自ら死地に向かったのか

苦々しく問う者もいるだろう。

シャイマー女史をデモ行進へと向かわせたものは何だったのか? たとえそれが平和的なデモであったにしても、カイロ中心部のタハリール広場は暴力とテロの脅威で満ち満ちていたというのにである。

同様の疑問は日本人ジャーナリストにも何度も向けられる。

後藤氏をシリアの地獄へと向かわせた動機は何だったのか?

これらの質問を、シャイマー女史、そして後藤氏に向かって繰り返す人は、“困難を探す仕事”とも言われるジャーナリストという仕事の本質を知らないし、理解していないことは明らかだ。

後藤氏自身が、テロ組織ISILの本拠地であるシリアのラッカへ向かい、拘束され、殺害される数ヶ月前に、記録に残している。

「これからラッカに向かいます。何が起こっても、責任は私自身にあります。シリアの人たちに何も責任を負わせないでください。シリアの人々は過去3年半に渡り、もう十分苦しんできたのですから。」

在日エジプト人女性の願い

シャイマー女史の弔問に向かう前、フェイスブック上で後藤氏への哀悼の言葉を読んだ。在日エジプト人女性が次のように書いていた。

「(ISILは)2人目の日本人捕虜を殺害し、日本の悪夢が始まった、日本人を見つけ次第、殺すと安倍首相を脅迫している。神(アッラー)よ、どうか、私たちを奴等からお救いください。どうか、傲慢な奴等のいない世界になりますように」

また、息子の殺害の報を聞き、後藤氏の母である石堂順子さんは次のように衝撃を述べている。「悲しいことに、健二は旅立ってしまいました。あまりにも無念な死を前に、言葉が見つかりません。帰ってくるかもしれないと思っていたのですが、このニュースが届きました。生きて戻ってくることを願っていたのですが、叶わなくなりました。」

イスラムとは無関係な犯罪行為

Dar Al-Ifta Al-Missriyyah(エジプト宗教布告機関)付属の異端監視部門は、最新レポート第11号「殺害・・・テロ組織における“おろそかにされた宗教的義務”」で、ISILの殺害を正当化する信条について、次のように述べている。

「最大の悲劇は、ISILと呼ばれているテロ組織が、アラブ人や外国人の捕虜、支配地域内の住民に対する醜い犯罪行為を正当化するため、イスラムにその理由を見出そうとしていることにある。ISILが殺害の思想の根拠とするものは、イスラムにおいて最初に忌まわしい殺害を行ったハワーリジュ派(※1)の教理に典拠している。」

レポートはアラブやその他の諸国における斬首の歴史について触れ、「斬首は、様々な人種や文化において人類が行ってきた古くからある行為である。この非人道的な行為は、(イスラム以前の)ジャーヒリーヤ時代にアラブの一部でも知られていた。しかし、イスラムにおいては、異端者の頭を落として運んできたとか、斬首を命じたというような、預言者ムハンマドの言行は全くない。テロ組織ISILが殺害、殺戮、遺体の切断のために採っている信条のようなものは、イスラム法には定められていないのである。」

このように、イスラム法上では、後藤氏や湯川遥菜氏に対して行ったような斬首は犯罪であり、禁止されている。世界中のアラブ人とイスラム教徒は、ISILによるこのような野蛮な行為はイスラム的にも犯罪であるという点で一致しており、彼らの非道な行為を非難している。

駐日アラブ大使会議も非難

アラブとイスラムの政治的立場を正確かつ簡潔にまとめて、駐日アラブ大使会議が声明を出している。

湯川氏が殺害された直後には、次のとおりの声明を発出した。

「駐日アラブ大使会議は、『イスラム国』を名乗る組織が日本人2人の人質の1人を殺害した野蛮な犯罪を非難する。

我々は、イスラム教とその崇高な原則の名においてこのような野蛮な行為を行うことに疑問を呈する。この行為が人道や倫理の原則にもとるからというだけでなく、イスラムは自殺や不正行為の禁止、捕虜や避難民の保護を呼びかけているからである。

また我々は、アラブ・イスラム諸国の多くの人々と好意的で素晴しく人間的な態度で交流してきた友人である日本国民の1人が、このような犯罪に遭遇したのは不条理である。」

さらに、後藤氏が殺害された直後に発表された声明は、次の通りだ。

「駐日アラブ大使会議は、いわゆる『イスラム国』による日本人ジャーナリスト後藤健二氏の卑劣かつ残虐な殺害を最も強い言葉で非難する。

我々は、後藤氏のご家族、大切な人々やご友人に心からの哀悼の意を表すると共に、この悲劇的な事態にあって、駐日アラブ大使会議は日本と誠実に連帯していくことを表明する。

また、この度の問題に対する日本の冷静かつ整然とした姿勢を高く評価する。駐日アラブ大使会議は、日本が過去数十年間に人道支援を通じて、中東地域の経済、社会開発問題やプロジェクトに果たしてきた貢献に対して、中東諸国全てが共通の謝意を示している。

また、全てのアラブ連盟加盟国が、イスラムの原則が呼びかけている寛容、平和と共生を推進するため、日本と協働していくとの決意を改めて強調する。」

カバー写真=日本人2人を殺害したISILに反対し、日本との連帯の想いを表す集会で、ろうそくを灯すヨルダン人たち=在ヨルダン日本国大使館前にて、2015年2月2日(ロイター/Aflo)

(原文アラビア語)

(※1) ^ 正統カリフ第3代オスマーンと第4代アリーの頃に多数派(後のスンナ派)より分かれたイスラムの一派。信仰やイスラムの理念に即した行動を重視し、逸脱したイスラム教徒は不信仰者と宣告(タクフィール)され、同胞と見做さない。また、不信仰者に対するジハードを推奨している。

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