日米に橋をかける日本の新たな取り組み=「未来へのカケハシ・イニシアティブ」とは何か=

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安倍首相が強調した日米の人的つながり

2015年4月28日、バラク・オバマ米大統領とミシェル夫人は、ホワイトハウスの「サウスローン」に詰めかけた支持者の前で、安倍晋三首相と昭恵夫人を温かく出迎え、首相夫妻の訪米について「両国民をつなぐ友情と家族の絆を祝う」と歓迎した。両首脳は数時間後、日米共同ビジョン声明を発表した。この中で、両首脳は日米両国が繁栄および安全、グローバルな課題への取り組みに貢献していくためのビジョンを述べた上で、「日米両国の前進の重要な柱として、特に若い世代の間の人的交流を積極的に推進する」ことをうたった。メディア報道や論評の多くは、通商、国防、歴史的和解に関する重要な発表に集中していたが、安倍首相が重要な柱として“人的つながり”を強調したことを見逃してはならない。

「未来へのカケハシ・イニシアティブ」に30億円

実は、両首脳は2014年の共同声明で非常に多くの人的交流の項目を挙げていた。しかし、15年の日米会談の新ファクトシートでは一握りの取り組みに絞り込まれた。具体的には、2011年3月11日の東日本大震災直後に創設された米国官民パートナーシップの「TOMODACHIイニシアチブ」、長い歴史をもつ日米文化教育交流会議(CULCON)による最近の「チームアップ」イニシアティブと国際交流基金を通じた支援プログラム、そして日本政府が新たに乗り出した「未来へのカケハシ・イニシアティブ」である。安倍首相の訪米を機に日本政府は、「カケハシ・イニシアティブ」の新しい取り組みに最大30億円の支援を決めている。

次世代の日米交流、人材育成を見据えた政策

カケハシ・イニシアティブは、3つの主な要素から成る。まず、次世代の日米関係を見据えた交流である。この分野のプログラムには、カケハシ・プロジェクトに基づく日米間の高校生・大学生の相互派遣、および日本の若者の米国でのインターンシップが含まれている。安倍首相は、そうした短期派遣がきわめて有効で、さまざまな若者に日米関係を紹介するうえできわめて重要であることを理解している。多くの若者が初めて日本や米国を訪れ、人生を変えるような経験をし、互いの国への関心を深めることの重要性をよく認識している。

首相夫妻がロサンゼルスで、カケハシ・プロジェクトの資金提供によるプログラムの参加経験者数人と懇談したのには、短期交流の重要性を示したいという首相の特別な思いがあったからだ。私の所属する米日カウンシルは、2014年にこのプロジェクトにおける日米学生200人の相互訪問について提携した。すでに参加者数人がこれらの短期派遣を通じて新しい関心をもつようになり、専攻や研究、職業選択を変えている。

安倍首相はロサンゼルスで学生時代を過ごした経験がある。一方、同市のエリック・ガルセッティ市長は高校時代、東京で留学生生活を体験した。首相がロサンゼルスを再訪し、市長が留学生時代の楽しい思い出を披露して首相を歓迎するというのは、学生交流事業の価値を示すのにまさにうってつけであった。

2014年の「TOMODACHIイノウエ・スカラーズ」(カケハシ・プロジェクトの一環)に参加中の日米の大学生。(写真提供:ロヨラ・メリーマウント大学「TOMODACHIイノウエ・スカラーズ」)

カケハシ・プロジェクトのさまざまな交流事業に参加したロサンゼルス地域の元参加者らと懇談する安倍首相夫妻。

米国の日本研究者育成、日本語教育拡充も

カケハシ・イニシアティブの2番目の要素は、日米関係における相互の専門知識の蓄積と専門教育の奨励である。この分野のプログラムには、日本人研究者育成、米国主要大学における日本研究支援、日本語教育、大型美術展の共催などの文化・芸術交流が含まれる。

さらに、このイニシアティブには、各界の米国人リーダーを日本に招いて日米関係を紹介しようという事業もある。これは、成果を上げている米議会議員と日系米国人リーダーの招聘事業を活用し(米日カウンシルは外務省と共催で「在米日系人リーダー訪日(JALD)プログラム」を実施している)、その対象を他の重要で多様な経歴をもつ若手リーダーにも広げようというものである。

首相はハーバード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、スタンフォード大学など主要大学を訪問し、高等教育機関を重視する姿勢を示した。また、昭恵夫人は、バージニア州にある日本語集中プログラムの実施校と、ジャパニーズ・バイリンガル・バイカルチュラル・プログラム(JBBP)を開設しているサンフランシスコの2つの公立小学校の1校を訪問した。

ジャパニーズ・バイリンガル・バイカルチュラル・プログラムを開設しているサンフランシスコ統合学校地区の2つの小学校のひとつ、ローザ・パークス小学校を訪問する昭恵夫人。(写真提供:在サンフランシスコ日本国総領事館のH.モリカワ氏)

また、昭恵夫人はボストン美術館を訪れ、日本関連の展示を視察した。安倍首相はワシントンDCで、フリーア美術館とアーサー・M・サックラー・ギャラリーに寄付を行うと発表した。また、ロサンゼルスでは過去の招聘プログラムで日本を訪問した多くの日系米国人リーダーらと懇談し、より多くの米国人リーダーに日米関係の重要性を広めたいという首相の熱意を示した。

草の根の多様な交流も拡大

日本政府は、カケハシ・イニシアティブの3番目の重点領域を「草の根の多様な交流」と名付け、日本と明確なつながりをもつ3つのグループが関わるプログラムを組んでいる。

その中でも、最も慎重な扱いを必要とするのは、POW(prisoners of war)、すなわち第二次世界大戦中の米国人元戦争捕虜とその家族たちである。長すぎる時を経て、日本政府はようやくこの特別な米国人グループと向き合うようになった。彼らは、第二次世界大戦の悲惨な体験以降、日米の特別な友好関係がどこまで深まったかを象徴する存在となっている。

日本政府が関わりを深めようとしているもうひとつのグループは、在日米軍に所属したことのある米軍関係者である。これには、日本での任務を終えて米国に帰還した多数の関係者が含まれる。一般に彼らとその家族は、遠く離れた日本で過ごした期間、地域社会から温かく迎え入れられたという非常によい思い出を持っている。

3番目の対象分野は、語学指導等を行う外国青年招致事業(JET)の元参加者の拡大するネットワークである。私自身の経験では、このグループは関与の点から最もダイナミックで重要なネットワークのひとつである。JETプログラムの元参加者は米国に帰ってからも、地方のコミュニティでの生活を通じて知った日本に非常に強い愛着と関心をもち続けており、その後も日米関係に貢献できる機会があれば率先して参加する傾向が強い。2011年3月11日の大震災では、元JET参加者からの支援の輪が一気に広がった。昭恵夫人はワシントンDCの訪問中、数人の元JET参加者らと懇談し、彼らを励まし、その意見に耳を傾けた。

ワシントンDCで元JET参加者らと懇談する昭恵夫人。(写真提供:日本大使館)

多様性こそが、戦略的価値

一言でいうと、安倍首相の訪米は、新しいカケハシ・イニシアティブに集約され、人的つながりに対する安倍政権のアプローチをよく体現したものとなった。これは、日米両首脳が日米協力に関するファクトシートで取り上げた日米の人的つながりを強化するための他の主要な取り組みと一体を成している。これらの取り組みとは、日米関係に重要な若い次世代リーダーを育成する「TOMODACHIイニシアチブ」、および、大学レベルの学術機関の戦略的パートナーシップを通じて日米の学生交流の質と量を高めようという「チームアップ」などのCULCONの活動である。

カケハシ・イニシアティブ自体は範囲が広く、短期派遣や綿密な学術・研究プロジェクト、草の根交流などのまったく異なる要素を含んでいる。しかし、このイニシアティブの多様性を、焦点が定まらないとみるべきではない。設計者は、米国人が初めて触れ、刺激を受け、学び、最後にはプログラムの参加者や指導者として継続的に関与するようになるまで、継続的な経験を通じて関与するよう一連の戦略的活動を発展させてきたのである。

米日カウンシルは、人的つながりを通じた日米関係の強化を使命に掲げる組織として、安倍首相のアプローチを称賛している。実際、日米同盟関係を強固にし、その強さを未来世代へと受け継いでいくのは、基本的な人と人とのつながりである。

(原文英語。6月24日記。バナー写真: 2015年4月28日、バージニア州のグレートフォールズ小学校を訪問する昭恵夫人とミシェル夫人。©ロイター/アフロ)