脚本家が語る最新版『デスノート』の意味

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『デスノート』は、世界中に熱狂的なファンが多い漫画。今年米国でも同作を原作にした続編映画が上映される。サイバーテロを研究する筆者が、脚本を担当する真野勝成氏に、21世紀の世界情勢を盛り込んだ最新作の意味について聞いた。

世界を席巻する『DEATH NOTE』

2016年10月、日本で最も人気のある漫画の一つである『DEATH NOTE』の最新映画が公開された。06年に上映された2部作の続編となる今回の映画『デスノート Light up the NEW World』は、日本の興行収入ランキングで初登場第1位を獲得している。

03年から3年にわたり少年漫画誌「少年ジャンプ」(集英社)で連載されていた『DEATH NOTE』は、名前を書けばその人物を殺せるという、死神によって人間界にもたらされた「デスノート」を巡って話が複雑に展開する。その類いないオリジナルなストーリーは、世界的にも評価が高い。前回の映画2部作は世界で60の国・地域で公開され、世界中に熱狂的なファンを獲得している。

そして最新作も、世界70の国・地域で公開される予定だ。すでに公開されているタイ(11月3日)やシンガポール(11月10日)では、初登場で新作興行ランキング1位に輝いた。

今回の『デスノート Light up the NEW World』では、前2部作から10年後の世界が描かれる。これまでの3冊ではなく6冊のデスノートが世に放たれ、サイバーテロリストの登場など新たな物語が繰り広げられる。シンガポールの大手英字紙ストレーツ・タイムズは、ストーリーは「慌ただしい」としながらも、「話が展開するにつれ、引き込まれていく」と評している。

しかもこの『DEATH NOTE』は、17年に「Netflix」でハリウッド版の実写映画が放映される予定になっている。映画『ブレア・ウィッチ』などで知られるアダム・ウィンガードが監督を務めることが発表されており、死神リュークの声はハリウッド俳優のウィレム・デフォーが演じるという。

筆者に脚本協力の依頼が

とにかく世界的にも話題の『DEATH NOTE』だが、今回脚本を担当したのは、人気TVドラマ『新参者』『相棒』などを手掛ける売れっ子脚本家の真野勝成(まの・かつなり)氏だ。各地で『DEATH NOTE』の最新作が公開される今、著者は真野氏に改めてインタビューする機会を得た。普段はほとんど取材に応じない真野氏に『デスノート』への思いから漫画やコミックとの関わり、そして脚本家としてのキャリアについてまで話を聞いた。

(撮影=郡山 総一郎)

実は著者は、サイバーテロが登場する『デスノート Light up the NEW World』で脚本のリサーチに協力している。

そもそも、最初に真野氏からこの続編映画の脚本について協力依頼があったのは、2015年初頭のこと。当時、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)で客員研究員としてサイバー安全保障と国際情勢の関係についての研究を進めていた著者は、旧知である真野氏からの依頼を快諾し、休みを使って真野氏とさまざまな角度から議論をした。

著者がまず知りたかったのは、もはや日本のみならず世界中で注目を集める『DEATH NOTE』の脚本を担当するに当たって、「日本の漫画エンターテインメントを背負う」というプレッシャーはなかったのか、ということだ。

その問いを単刀直入にぶつけると、真野氏はプレッシャーよりも「嬉しい」感情の方が大きかったと話し始めた。「僕は単純に映画を見るのが好きで、世界中の映画を見てきました。だから世界で公開される映画の脚本を書けたことは単純に嬉しいです。世界中の人が自分の書いたセリフに感動してくれる可能性があるわけですから。プレッシャーもありますが、監督をはじめ日本を代表するスタッフが集まっていると思いますし、ハリウッドのアメコミ映画級のエンターテイメント映画になっていると思います」

とはいえ、もちろん超人気漫画である原作で、すでに2本の映画が大ヒットしている作品の新作を作り上げる難しさは否定しない。真野氏は、「厳密に言うと今回の映画はストーリーもキャラクターも漫画に描かれたことはありません。10年前の映画版の続編です。ですが世界観や設定は原作に沿っています。10年前から生き残っている人物も死神も出てきます。全く新しいものを作るという意識はなく、原作をしっかりと理解した上で、地続きとなるストーリーを作ろうと心掛けました。だから新しい登場人物は前作の主人公の影響を濃厚に受けて、人生を決定づけられています。それは伝説化している原作への敬意です」と語る。

サイバーテロリストがデスノートを手にしたら…

そもそも、原作が描かれた15年近く前には、世界の景色も今とは随分違っていた。少なくとも、今回の作品で鍵となる「サイバー攻撃」は、今ほど大きな問題になっていなかった。

著者も最初に話を聞いた時、正直言うと、デスノートとサイバーテロと言われてもピンとこなかった。だが当時、真野氏の頭の中では両要素が生み出す世界観がすでに出来上がっていたようだった。

真野氏は「原作が描かれた当時と今の社会情勢の違いは意識しました。インターネットとSNSの普及はその一つです。最近では、ネット上に顔と名前を晒(さら)している人は多い。これはデスノートのある世界では致命的な行為です」と言う。「またテロルというものが、以前にも増して身近になったこともあります。デスノートは名前と顔を知っていれば人を殺せるアイテムで、直接手を下さずに人を殺害できる。サイバーテロも直接手を下さないという意味で親和性があると考えました」

そしてこう続ける。「現実でも、サイバー空間では個人であっても国家と戦い得る。『非対称な戦争』と言われていますが、もしすご腕のサイバーテロリストがデスノートを所有したら、十分に国家の脅威となるのではないかと考えました。一方で、デスノートは実態のあるアイテムです。サイバー空間で、ダウンロードできない。手に入れるためには生身の人間が動くしかない。サイバー空間にとどまれば安全だったテロリストがリスクを冒して、現実の世界に出ていかなければならない。そこにドラマが生まれるというふうに考えました」

言うまでもなく、『DEATH NOTE』は少年漫画でフィクションなのだが、この「非対称な戦争」というのは、現実に今、世界の安全保障を考える上での課題になっている。現在サイバー空間では、サイバー攻撃によって非国家主体でも国家と互角に戦える世界が広がっているからだ。

日本の漫画がうける理由

日本の漫画には、決して子供だけに向けたものではない、こうした奥行きと深意がある。それこそが、『DEATH NOTE』をはじめとする日本漫画がアメリカやアジアなど海外で人気になる理由なのかもしれない。

海外で『DEATH NOTE』のような日本漫画が受ける理由について、真野氏はこう見ている。「『DEATH NOTE』で言えば、善悪の構図が複雑だからでしょうか。少年漫画の主人公が大量殺人鬼という設定はユニークです。原作の素晴らしいところです。(原作の主人公である)夜神月は世界平和を夢見る思想犯であり、追い詰める正義の天才Lはどうしても権力側の人間として描かれる。でも、現実には権力側の人間が正義ということはないし、むしろ逆もあり得るでしょう」

そもそも真野氏が脚本家を目指したきっかけは、高校時代にさかのぼる。「高校生の頃に夕方TVで再放送していた連続TVドラマ『ふぞろいの林檎たち』が面白すぎて、その脚本家・山田太一さんの作品に夢中になりました。その影響でTVドラマの脚本家になりたいと思ってきたし、今もそう思っています」

もちろん尊敬しているのは山田太一だけではない。「海外ではピーター・モーガン(映画『クィーン』など)やアーロン・ソーキンを尊敬しています。アーロン・ソーキンのドラマ『ニュース・ルーム』は、僕もジャーナリズムの世界に少しいたことがあるので、とても面白かった。日本では現実に絡む政治のネタはドラマでは扱えない雰囲気があるのですが、いつかああいうドラマを書いてみたいです。あと最近、映画で描かれたダルトン・トランボも尊敬しています。映画を見ると、いろいろな人がトランボに『この話を何とかしてくれ』と訪ねてくる。トランボは職業脚本家としてそれを何とかして面白くしていく。そういうスタンスで僕も脚本家の仕事をしていきたい」

そして真野氏は、最後にこう述べた。「今後さらに、世界に自分の書いたものを見てもらいたいという思いもある。アニメやゲームなど他ジャンルの脚本も積極的に手掛けようと思っています」

バナー写真:池松壮亮の演じる世界的名探偵が東京でサイバーテロリストと戦う(写真提供=日本テレビ)

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