新しい祭りの行方:「YOSAKOI ソーラン祭り」の現在

矢島 妙子【Profile】

[2017.11.27]

1992年に高知県のよさこい祭りと北海道のソーラン節を組み合わせた「YOSAKOIソーラン祭り」が始まって以降、全国各地に広まり、年間200カ所以上で開かれる国民的イベントになった。よさこいを通して、現代日本の祭りとは何かを考える。

世界を巻き込む「よさこい」の踊り

1992年に始まった「YOSAKOIソーラン祭り」は、2017年で26回を迎えた。北海道札幌市で毎年6月に、嗚子(なるこ)という楽器を手にして、「ソーラン節」を取り入れた曲で踊る祭りである。北海道大学の学生の発案で、高知の「よさこい祭り」を参考にして創られたものであり、鳴子を持ち「ソーラン節」が入っていれば、衣装や曲などは自由である。現在の開催期間は6月上旬から中旬の5日間で、水曜日に始まり日曜日に終わる。第1回は10チーム、約1000人の参加であったが、ここ数年は270チーム前後、約2万7000人が参加する。この祭りをきっかけにして、全国で多くの「よさこい系」祭りが誕生している。「よさこい系」祭りとは、原則として嗚子を持ち、地元の民謡などを取り入れて踊る祭りをいう。踊り子たちは地元の祭りだけでなく、他地域の「よさこい系」祭りにも遠征する。鳴子と民謡というルール以外、あとは何でもいいという、極めて自由度の高い祭りで、自分たちでゼロから創る“創作踊り”である。これを数十人から100人を超える人々が1チームを構成して、複数の会場を移動して踊る。

また、国内だけでなく海外においても、ガーナやブラジルなどで「よさこい」の踊りの祭りが開催されており、その他の国で踊りの活動をしている人々もいる。「YOSAKOIソーラン祭り」では、札幌市を中心に道内外はもちろん、海外からも、これまで中国、シンガポール、オーストラリアなどから参加があり、17年は台湾とロシアが参加した。本家の高知では、高知市を中心に県内外から参加するが、これまで海外チームの参加はなかった。しかし、高知県が16年から、海外で「よさこい」の踊りの活動をしている外国人や日本人を「よさこいアンバサダー」と認定し、高知の「よさこい祭り」に招待することとした。17年にはヨーロッパ連合チームが本祭に初出場した。スウェーデン、イギリス、オランダ、ポーランド、スペイン、フィンランド、リトアニア、ブルガリア、スイスからの参加者で、これにサポート役として日本が加わった20人で踊った。

踊りで地域性を表現する

「YOSAKOIソーラン祭り」の踊り子は他チームとの差異化を求めて、地域性(ローカリティー)を表現した踊りをすることが多い。他のどこにもないものは、その“地域”である。この祭りには「ソーラン節」を取り入れるというルールがあるために、漁業に関する表現が多く見られる。内陸部である札幌市のチームも、振り付けに網を投げたり引いたりする仕種(しぐさ)や波を表現する動きを取り入れている。その他、地元の歴史や伝説などを基にした踊りや音楽、衣装や小道具(嗚子や旗など)で地域性を表した踊りをする。全体的にスピード感のある激しい踊りが多い。

グローバル化が進む現在、グローバル化は「空間の消滅」といわれることもある。しかし、人々のアイデンティティーの確立にはローカルな固有性が必要であり、ローカルはグローバルの影響力に対抗するものとして重要である。札幌市のチームの場合、回を重ねていくごとに、表現するものに苦労するようになる。札幌は明治以降の新しい都市で、その歴史性には限界がある。何とかテーマを見つけながら続けているチームもあれば、漁業というテーマで演じ切るチームもある。忠実に自分たちの地域性に基づいた踊りを創作しても、あるいは、漁場ではないものの「ソーラン節」ということで拡大して漁業性を“演出する”踊りになっても、どちらにもアイデンティティーは確立されて、オリジナリティーのある踊りになっている。

時代に合わせて新たなチームが形成される

一般チームは、従来の地縁や血縁、社縁などにとらわれない人々が集まって形成される。各チームには踊りの“型”ができており、それに同調した人たちが集まってくる。ただし、中心となるのが地域住民、あるいは大学生というチームもある。人数や資金の不足で参加を断念するチームが出てくる一方で、チーム同士で組んで新しいチームを作ったり、片方に吸収されたりする動きもある。時代に合わせて新たな集団形成がなされ、参加したい、続けたいという意思があれば、それを成しうる多様な受け皿がある。

ここ数年、祭りの参加人数がほぼ同じで変動がない。それは、「祭り」として定着してきたともいえるが、最近では地域チームや一般チームは踊り子の集まりが悪くなっている。迫力ある踊りをするのに必要だといわれる100人を切るチームも多い。特に地域チームの問題点は、地域住民中心だと年齢が高くなるにつれて踊れなくなる人が出てくることである。また、家庭の事情(結婚や出産・育児、親の介護)や転勤など仕事の都合で離れていくこともある。参加条件で地域を限定してはいないが、他地域からの希望者や、あるいは若い踊り子が常に都合よく入ってくるわけではない。また、市町村合併で地域の範囲や呼び方が変わったりすると、“地域”としての求心力が急激に低下する場合もある。

中核を担う学生チーム

一方、大学生たちは、こういった問題とはほぼ無縁で、チームには常に20歳前後の若者が存在して、毎年踊り子は補充されている。100人を超すチームも多く、学生チームが祭り全体の参加人数を保ってくれている。学生チームは、メンバーは必ず流動するが、サークルとして大学から認められている場合が多く、その活動のなかで、“型”は伝わっていく。

「YOSAKOIソーラン祭り」は大学生が始めた祭りということで、北海道内の学生チームの参加はもちろん、道外の学生チームの参加も多く、特にこの10年ほどは関東の大学の参加が増加している。学生チームは人材に困らず、時間が比較的あるために練習時間も取れ、費用さえ準備できれば遠征にも行きやすい。大学生はさまざまな地方から集まってきており、それぞれの出身地の「よさこい系」の祭りに仲間とともに参加して盛り上げ、郷土文化の発展に貢献もしている。また、大学生たちは自分のチームだけでなく、大学の垣根を越えた合同チームも作っている。合同チームとして、北海道学生合同チーム「北人(きたびと)」、東京学生合同チーム「東京学生 生っ粋(きっすい)」、関東学生合同チーム「おどりんちゅ」がある。学生チームは持続可能性が高く、今や、祭りの大きな牽引(けんいん)力となっている。

踊り子は自分たちの祭りだけでなく、他地域の祭りも継承させる

物事は始めるよりも、続ける方が難しい。新しいスタイルの祭りと言われた「YOSAKOIソーラン祭り」は2017年には26回目を迎え、その歴史も四半世紀を超えた。回を重ねるごとにチームは毎年の踊りのテーマに苦労し、人員は大学生頼みのところもある。ただ踊り子たちは苦労しながらもさまざまな工夫をして踊りを創作し続けている。従来、芸能(踊り)は、その地域における伝統性や正当性が重要であり、それが価値の拠(よ)りどころであった。しかし、演出されたものであっても、その型が継承されていけば、それがやがて伝統性や正当性を持つことにもつながる。このようにして、踊り子たちはそのチームのみならず、「YOSAKOIソーラン祭り」という祭り全体を支え、継承している。また、他地域に遠征することで、「よさこい系」祭り全体を支え、継承させているのである。

バナー写真=第25回「YOSAKOI ソーラン祭り」に初参加した熊本のチーム=2016年6月11日、札幌市中央区で(写真:毎日新聞/アフロ)

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  • [2017.11.27]

明治大学・法と社会科学研究所客員研究員。文学博士。専攻は、文化人類学・民俗学。主に都市祝祭を中心に研究している。1998年より「よさこい」に関する調査・研究を始め、2006年、名古屋大学大学院にて博士号取得。主著として『「よさこい系」祭りの都市民俗学』(岩田書院、15年)がある。

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