SNS

最新記事

ニュース

More

台湾を愛し愛された新聞記者

栖来 ひかり【Profile】

[2017.10.28]

9月17日の朝、驚きのあまり動けなくなった。フェイスブック上で、とある友人に宛てられたメッセージを見つけたからだ。内容は「ご友人の皆様へ。中川博之様が、今朝早く台北市内にて交通事故のため、ご逝去されました」から始まる一文だった。

中川さんと私は、その3日後に共通の友人と3人で食事をする約束をしていた。つい一昨日まで、LINEやフェイスブック上でもやりとりをしていたではないか。信じられない気持ちでいっぱいだった。悪い冗談だと思った。

日台の各界から葬儀に参列

中川さんは、九州で販売される「西日本新聞」に所属する記者だった。2016年の9月から台北支局長として赴任し、ちょうど1年目が過ぎた頃に事故は起こった。9月17日未明、故郷の熊本県と宮崎県との合同県人会のために集まった帰り、中山北路上の横断歩道ではないところを横切った中川さんは、街路樹が植えられた二つの中央分離帯のうち、一つ目を越えたところでタクシーにはねられた。警察からの連絡を受け、日頃から中川さんと親しかったアートディレクターの岡井紀雄さんが台湾大学病院に駆け付けたときは、ほぼ即死の状態だったという。

「穏やかな顔をしていたので、落ち着いて寝ているんだと思いました」と言って岡井さんは、中川さんとのLINEを見せてくれた。翌日の晩に中川さんが好きだった温泉に一緒に行く約束をするやり取りがあり、その下に警察から連絡を受けた岡井さんのメッセージが続いていた。

「事故に遭われたみたいですが、大丈夫ですか」「今から台大病院に向かいます」

岡井さんのメッセージが「既読」になっていないことに気付き、胸が苦しくなった。なぜならそこに「既読」の文字が付くことは、この先もずっとないからだ。

台湾で、100メートル以内に横断歩道がある場合、道路を横切ると、交通違反になる。事故相手のタクシー運転手は、これまで無事故無違反だった。現場の辺りを日常的に運転する友人の話によると、「信号につかまりたくないから特にスピードを上げる」という危険な場所だった。現場で献花をする際、怒りと涙が込み上げてきた。「どうしてこんなところを渡ったの?中川さん」。直前まで一緒にいた熊本県人会の方は「多少お酒は入っていたが、特に酔っていたようには見えなかった」と話した。

9月20日の早朝、台北の第二殯儀館で葬儀が行われた。お子さん5人を含むご家族と西日本新聞本社の方々が福岡県より来台された。台湾における日本の大使館に当たる「日本台湾交流協会台北事務所」の沼田幹男代表をはじめ、日本人会や台北東海ロータリークラブ、県人会、記者クラブなど多くの団体・個人の参列があり、台北市観光局の簡余晏(かんよあん)局長も顔を見せた。日常的な業務の他、面白いテーマを探して積極的にさまざまな会や団体に顔を出し、人脈を作った中川さんの葬儀には、わずか1年という駐在期間にも関わらず、100人近い参列者が集まった。泣いている人も少なくなかった。優しく愛嬌(あいきょう)があって気前が良く、おとこ気にあふれる中川さんは、たくさんの友人に恵まれ、慕われていたと思う。

この記事につけられたタグ:
  • [2017.10.28]

台湾在住ライター。京都市立芸術大学美術学部卒。台湾人男性と結婚し、2006年より台湾在住。一児の母。日本の各媒体に台湾事情を寄稿している。著書に『在台灣尋找Y字路/台湾、Y字路さがし』(2017年、玉山社)『山口,西京都的古城之美』(2018年、幸福文化)がある。 個人ブログ:『台北歳時記

関連記事
その他のコラム

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • ニッポンドットコム・メディア塾 —ジャーナリストを志す皆さんに
  • シンポジウム報告