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偽装結婚してまで日本に来るフィリピンパブ嬢の悲しい現実

中島 弘象【Profile】

[2018.03.30]

日本にやってくるフィリピン人は風俗関係で働こうという女性が多く、最近は偽装結婚での不法入国が増えている。彼女たちは危険を冒してまでなぜ日本にやってくるのか。フィリピンパブで働く女性を取材するうちに結婚してしまったルポライターが、日比関係のゆがんだ現実を伝える。

かつては興行ビザで来日

「日本に来るために偽装結婚した」

一人のフィリピン女性が、自分が偽装結婚して日本に来たことを話してくれる。

彼女は、2010年に日本人ブローカーの仲介で、日本人男性とフィリピンで結婚した。だがその結婚は、真実の結婚ではなく、日本で働くビザを取るための「偽装結婚」。言葉も通じない、見ず知らずの日本人男性と日本に来るために結婚する。日本に来て働く先は、「フィリピンパブ」だ。

今、彼女のように偽装結婚して日本のフィリピンパブに働きに来る、フィリピン女性が増えている。

日本にフィリピン女性が増えたのは1980年代後半ごろ。彼女たちはダンサーや歌手といったパフォーマンスをするための「興行」の在留資格(以下、興行ビザ)で来日していた。

90年代初めに興行ビザで来日したフィリピン女性は、日本に来るまでのことをこう言う。

「日本に来るためにフィリピンで歌やダンスの猛練習をする。寮に住み込みで毎日朝から夜まで」

日本に来るために、フィリピンで歌や踊りの試験に受からなければならなかった。だが厳しい試験に受かって日本に来ても、実際に与えられたのは、短いスカートに胸元の開いたセクシーな衣装を着て、日本人男性相手に酒を飲み、手をつなぎながら談笑し、一緒にカラオケを歌うといったホステスの仕事だった。

ホステスとしての接客は資格外活動だったが、興行ビザによるフィリピン人の入国者数は毎年数万人規模で、2004年には過去最高の8万2741人ものフィリピン人が興行ビザによって入国した。こうして、フィリピン女性が日本人男性を接客する、フィリピンパブが全国各地にできた。

ところが、フィリピンパブが日本に根付いて、20年近くたった04年、米国務省は「世界の人身取引に関する年次報告書」で、興行ビザが人身取引の原因になっていると指摘した。これを受けて日本政府は、05年に興行ビザ発給の規定を変更。実質、フィリピン女性のフィリピンパブへの出稼ぎの道を閉ざすことになり、フィリピン女性を確保できなくなったフィリピンパブの多くは廃業を余儀なくされた。

偽装結婚で女性を確保

今残っているフィリピンパブの多くは、興行ビザ規制以前に入国し、その後日本に定住しているフィリピン女性を雇っている。しかし、新たに若い女性を入れなければ、ホステスが高齢化していく。そこで一部のフィリピンパブのオーナーやブローカーは若いフィリピン女性を確保する手段として、日本人男性と結婚をさせて、就労制限のない「日本人の配偶者等」の在留資格を取得させるようになった。こうして、フィリピン女性が偽装結婚して日本に来る流れができた。

彼女たちは日本に来るために、ブローカーと契約を交わす。契約内容はブローカーによって異なるが、多くの場合、期間は3〜5年。給料は月6万円(1年ごとに1万円ずつ上がる)。休みは月2回。同じ店で働くフィリピン人ホステス同士でも、ブローカーとの間に契約があるホステスと、ブローカーとの間に契約のないホステスの待遇の差は歴然だ。契約のあるホステスは「タレント」などと呼ばれ、契約のないホステスは「フリー」などと呼ばれる。

タレントには売り上げノルマやペナルティーが課せられる。店が指定した日に指名客がいなければ5000円罰金。店外デートである同伴をしなければ5000円罰金。ひどいブローカーになると毎週、体重測定を行い、体重が増えると罰金を科す。少ない給料で働く彼女たちにとって、ペナルティーが増えると給料がもらえないどころか、借金を背負わされることもある。

日本で住む場所も決められる。狭く、古いアパートにフィリピン女性たちが2、3人で共同生活することが多いが、中には偽装結婚摘発対策として、偽装結婚相手と一緒に住まわせられることもある。当然、拒否することはできず、見知らぬ「夫」と一緒に住まなければならない。外出は禁止され、店と家の間は車で送迎。家にいるか確認するために、突然ブローカーがやって来る。

フィリピンパブの給与システムは、売り上げに応じて、日給月給が変動する店が多い。フリーのホステスなら月平均30万円ほど稼ぐが、タレントは売り上げを多く上げても給料は契約で決められた固定給だ。

店から払われる給料は一度ブローカーに渡る。給料が30万円あるとしたら、ブローカーは、タレントへの給料6〜8万円、偽装結婚相手への報酬5万円、家賃や光熱費約8万円などの経費を払った残りが懐に入る。タレント1人につきブローカーには、10万円ほど入ることになる。だが、1人のブローカーが何人もタレントを持っていることが多く、若く人気のあるタレントは売り上げをさらに多く上げるため、実際はもっと巨額を手にしていると見ていいだろう。

毎日、家と店の往復の日々。売り上げが上げられなければブローカーから「フィリピンに帰す」と脅され、常に売り上げノルマ、ペナルティーなどのプレッシャーに耐えなければならない。

「タレントは毎日ストレス。家にいても常に誰かといないといけないし、店に来てもらうために、お客さんと連絡も取らないといけない。気が休まる時がない」

そんな厳しい契約の中働いていても、ブローカーから一方的に契約期間を延ばされることも、売り上げを上げていても突然、契約の途中で国に帰されることもあるのだ。

こうしたフィリピン女性が何人いるか、正確な数字は分からない。真実の結婚か偽りの結婚か、分かるのは、周りにいるごく一部の人たちだけなのだ。彼女たちがどこでどのように働いて、暮らしているかは表に出てこない。助けを求めたくても、自分が犯罪行為を犯してしまっているため、誰にも相談できない。だからブローカーは自分の都合のいいように、彼女たちに契約を押し付けることができる。そしてブローカーも、暴力団関係者から、一般の日本人、フィリピン人とさまざまだ。

搾取され、自由を制限されている彼女たちは、人身取引の被害者と言ってもおかしくない。しかし、運悪く捕まってしまえば、罰せられる。多くの場合、フィリピン女性は強制送還されるが、彼女たちを搾取し、生活を制限してきたブローカーが司法上の制裁を受けても、自由になると、再びフィリピン女性を偽装結婚させて連れてきて、同じように彼女たちから搾取するのだ。

契約が終われば自由になれる

それでも日本に来るフィリピン女性は多い。日本に来る理由の多くは、フィリピンの家族を支えるためだ。

フィリピンでの生活は、今にも壊れそうなボロボロの家。家にはトイレもシャワーもない。食事は1日1食、食べるのが精いっぱい。食べ物をもらうために親戚の家でメイドとして働く。学校にも通えない。そんな生活を何とかしたいと思っている時に、日本行きの話が舞い込む。

「日本に行くのはチャンス。このチャンスを逃したら、もうチャンスはない。契約が厳しくて、自由がなくても、それは日本に来るために通らないといけない道。契約が終われば自由になれる」

契約が終わりフリーになれば大きな額が稼げる。兄弟姉妹を学校にも通わせることも、メイドを雇うことも、大きな家を建てることもできるのだ。

日本でもつらいことばかりではない。化粧品や服を買っておしゃれを楽しんだり、フィリピンにはない雪を初めて見て感動したり、彼氏ができればブローカーの目を盗んで外出をする。ブローカーとも信頼関係ができれば、ある程度の自由は認めてくれる。

「かわいそうだなんて思ってほしくない。自分で選んで日本に来た。ブローカーも悪い人ばかりじゃない」

誰も貧しさから抜け出すチャンスを与えてくれなかったフィリピンで、チャンスをくれたのはブローカーだけなのだ。

そして契約が無事に終わった後、日本で出会った日本人男性と結婚し、子供を産み、日本で暮らすことを選ぶフィリピン女性も増えている。

最後に、彼女たちが偽装結婚しなければならない背景に、両国の経済格差があるのは言うまでもない。また、日本政府が長年、興行ビザによってフィリピン女性を受け入れ続けていたにもかかわらず、2005年のビザ発給規定の変更で規制を強化するというチグハグな行政対応の問題も指摘しておきたい。

ここで偽装結婚の規制、摘発を強化したところで、ブローカーはまた違う方法でフィリピンから女性を連れてくるだろう。女性の確保が難しくなれば、契約の長期化や、逃げられないように今よりも自由を制限するなど、彼女たちをさらにひどい状況に追いやるだろう。

一度出来上がってしまった、フィリピンから日本への女性の出稼ぎの流れを止めるのではなく、なぜ彼女たちが偽装結婚してまで日本に来なければならないのかということに目を向け、彼女たちが合法的に、ブローカーとも対等に働くことができる環境を作ることが先決だと、私は思う。

バナー写真=歓楽街イメージ(PIXTA)=編集部注:写真は本文の内容とは関係ありません

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  • [2018.03.30]

ルポライター。1989年愛知県生まれ。中部大学大学院修了。会社員として勤務する傍ら、フィリピンパブを中心に取材や執筆活動を行う。著書に、フィリピンパブで出会ったフィリピン女性と、交際から結婚するまでの体験を書いた『フィリピンパブ嬢の社会学』(新潮新書、2017年)がある。

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