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イスラム教徒が安心して泊まれる宿:シャリアホテル富士山

大塚 智彦【Profile】

[2018.04.13]

日本にもイスラム教徒向けに特化したホテルが誕生した。富士河口湖町にある「シャリアホテル富士山」だ。営業的には苦戦しているというが、より多くのイスラム教徒に富士山観光を楽しんでもらいたいという同ホテルを、インドネシア在住のジャーナリストが訪ねた。

イスラム教徒の宿泊客を前提としたホテルが誕生

2020年の東京オリンピックに向けて日本を訪れる外国人観光客が年々増加する中で、イスラム教徒の来日も増えている。イスラム教徒が日本で直面するのはイスラム教の教義にのっとった食事(ハラル)やお祈り場所の確保である。外国人が多数宿泊する東京都心のホテルなどでは「イスラム教徒対応」を掲げて「安心してイスラム教徒が宿泊できる」を宣伝文句にしているホテルが増えている。しかしレストランでのハラル食提供が可能でも、イスラム教徒が求める専用キッチンで専用の料理道具、料理人による調理という厳密な意味でのハラル食の提供は一般のホテルではなかなか難しいのが現実だ。

そんな中、イスラム教徒専用に特化した「シャリアホテル」が山梨県富士河口湖町に誕生。イスラム法を意味するアラビア語「シャリア」を冠したこのホテルは、食事から設備まで全てをイスラム教徒の宿泊客仕様としている。関係者によると、日本ではおそらく今のところ唯一の施設という。

山梨県富士河口湖町船津にある「シャリアホテル富士山」は、個人の邸宅を改装した2階建てのホテルで、客室の一部からは富士山が望める好立地にある。河口湖周辺で複数の宿泊施設「富士山ファミリー」を経営する「株式会社T・S」の山下祐司常務取締役(36)によると「河口湖周辺の外国人観光客はかつて中国人が主体だったが、近年はインドネシア人、マレーシア人が増加。それに伴い食事やお祈りといったイスラム教徒の対応に課題が出てきたので、それらをクリアしてより多くのイスラム教徒の観光客に来てほしいと思い、シャリアホテルを実験的に始めることにしました」と話す。日本在住のイスラム教徒や関連団体、ハラル協会などの助言とバックアップを受けて16年7月21日のオープンにこぎ着けた。

「日本で初めてのイスラム教徒に特化した宿泊施設」として地元紙や経済紙、業界雑誌に取り上げられたり、またイスラム教徒観光客の間に口コミで広がったりした結果、オープン直後からマレーシア、シンガポールそしてインドネシアなど東南アジアのイスラム教徒がわざわざ河口湖まで足を延ばすようになったという。

ハラル認証を受けた和食が味わえる

アラビア語、英語で書かれた看板を掲げた玄関を入れば、そこが1階のレセプション。イスラム教徒聖典「コーラン」や貸し出し可能なお祈り用の絨毯(じゅうたん)や女性の装束(ムクナ)、ハラル食品の土産品などが並ぶ。レセプション横の食堂の一角にはお祈り前に手足など体を清める洗い場(ウドゥ)も設けられている。

全館無料Wi-Fi、冷暖房完備でツイン、ファミリータイプの全8室には浴衣も用意され、お祈りの方角を示す「キブラット」が天井に記されているほか、お祈り専用の部屋も用意されている。全館禁酒、禁煙である。

イスラム教徒が最も気を使う食事は完全にハラル食で調味料の(しょう)油に至るまで「ハラル認証」を受けた特別なものを使用している。朝食はご飯、みそ汁、焼き魚、湯豆腐などの日本食が可能で、昼食は四国から取り寄せる牛肉や九州産鶏肉の陶板焼きを中心に、野菜やエビの天ぷら、インドネシアの発酵大豆食品テンペなどもメニューにある。

料金は素泊まりで1泊1人5400円から。もちろんイスラム教徒以外の観光客も宿泊は可能だ。イスラム文化を理解したい日本人宿泊客も歓迎している。オープン以来、月平均で約200人が宿泊しているというが、実は大半が他の宿泊施設で予約が取れなかった一般の外国人観光客で、イスラム教徒の宿泊客は全体の約30%にとどまっている。イスラム教徒の断食月(約1カ月)にはイスラム教徒宿泊者はほぼゼロになる。

こうした現状に山下氏は「あくまでも現在は実験段階、今後さらに創意工夫を凝らしてイスラム教徒の集客につなげたい」としている。

宿泊客の平均宿泊数は2泊。河口湖周辺の観光の他に、夏は富士山登山、冬はスキー場で雪体験を楽しむ人が多いという。

観光庁を中心に日本政府が強力に推進する外国人観光客の誘致だが、シャリアホテルのような外国人観光客の宗教や文化にまで配慮した設備、対応を積極的に整備することも重要な「おもてなし」になるのではないだろうか。そうした面からもシャリアホテルが今後各地にできることを願いたい。

バナー写真=シャリアホテル富士山の外観(撮影:大塚 智彦)

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  • [2018.04.13]

ジャーナリスト。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。毎日新聞社長野支局、東京外信部、ジャカルタ支局長。産経新聞社シンガポール支局長。現在はPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動中。ジャカルタ在住。著書に『アジアの中の自衛隊』(東洋経済新報社)、『民主国家への道、ジャカルタ報道2000日』(小学館)など。

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