政治に影響与える放送作家—TV局の“黒子役”のはずが

社会

テレビ局で仕事をする放送作家の影響力は増す一方だが、案外知られていない。バラエティ、あるいはニュースを扱う情報番組の裏には必ず〝黒子役〟の放送作家がいる。彼らはどんな人たちで、何を考えているのか、その収入はどうなのか。

テレビ局で仕事をする放送作家の影響力は増す一方だが、その仕事の中味は案外知られていない。トークや芸能の話題、視聴者参加コーナーなどで構成するバラエティ番組、あるいは政治や事件事故のニュースを扱う情報番組の裏には必ず〝黒子役〟の放送作家がいる。局の製作者の意向を先取りして番組作りのアイデアを提供し、企画書を作って台本にする。

スマホで情報を得るのが当たり前の当節、若年層の活字離れや高齢社会で新聞は読者を徐々に減らしているが、民放テレビは無料の媒体の強みで、まだまだ家庭への浸透力を保っている。そのテレビ業界で働く放送作家は外側からは見えないブラックボックスの中にいて、歌舞伎の黒子同様、仕事の実態はよく分からない。どんな職業なのか、どんな人がなるのか、何を考えているのか、その収入はどうなのか。

日本のテレビ番組の制作はキー局と呼ばれる東京の日本テレビ、TBS、テレビ朝日、フジテレビが中心で、規模はずっと小さいが大阪の準キー局も行っている。これらの局は約2千億~数百億円の収入を得ていて、日々の番組で猛烈な視聴率競争をしている。1%で視聴者百万人といわれ、競争の勝者には膨大な宣伝広告料が入る。

高視聴率を取る番組作りに手法はあるのか。一流大学出の秀才は総務・人事の管理部門に向いているが、番組作りには流行の先端に敏感で、知識は雑学でもよく、失敗を恐れない、実行力のある軟派の人間が重宝される。

筆者は1980年頃、キー局の制作現場を取材し、ある放送作家の一群を知った。彼らは「パジャマ党」といい、当時、コント風の番組や素人を出演させる番組を民放各局で持ち、〝視聴率100%男〟と勇名を馳せたコメディアンの萩本欽一の陰の知恵袋だった。

その頃すでに放送作家はかなりの人数がいたが、最初に登場したのはテレビが続々と開局した1950年代だ。青島幸男、大橋巨泉、永六輔らが放送作家のパイオニアで、彼らは学生時代からテレビ・ラジオ局に出入りしていた。知名度が上がるとタレント活動もし、後に青島は東京都知事、大橋は国会議員になり、作詞家でもあった永は有名人として政治的な発言をし、そろって権力批判側にいた。

戦後日本の言論界、報道界は反権力が主流で、彼らの立ち位置もその一翼にあった。それはともかく、青島らテレビ草創期の放送作家の社会的成功は後進の大いなる励みになったはずだ。パジャマ党の面々もそうだが、年を経て後進に席を譲り、小説家や脚本家、芸能プロの経営者になっている。AKB48やNMB48など女性アイドルグループのプロデュースで有名な秋元康も放送作家の出身だ。テレビを踏み台に栄光をつかんだ先輩の道を目指す若者が少なくないのも当然だろう。

大学を卒業しても一般企業への就職を嫌うような人間がこの仕事につく。放送作家はテレビ局で仕事を始めても、局との雇用契約はないフリーランスの仕事だ。

番組に何本も企画書を出し、制作担当のディレクター、プロデュサーに採用されれば台本を書く。月額300万~400万円の高額報酬のある者もまれにいるが、20万~30万円で働く者が圧倒的に多い。不安定な労働環境だが、本人も局側も待遇の変更に関心がないようだ。自分の才能だけが頼りで、優秀な後進が現れればポストを取って代わられる。

そんな放送作家が、森友・加計問題などで騒がしい最近、政治を論じる情報番組で注目されている。政治について幅広い知識もなければ、取材の経験もない者もいる。そんな彼らは主に新聞雑誌から情報を得て台本を書くのだが、その台本が番組にもろに反映されることになる。コメント役にはタレントや芸能人が〝庶民の代表〟として出演し、渡された台本に書かれた意見を自分の意見のごとく述べることになる。昨今そんな番組が各局にあふれ、コメンテーターを務めるタレント、芸人をたくさん見かける。納得する発言もあれば、本業でもないのにそれを喋らされてと気の毒になる場合もある。

〝庶民の目線〟で制作し、視聴するのがテレビの常識だから、タレント、芸能人の政治コメントも「あり」なのだ。

だが、「しかし」と思う。複雑怪奇な事柄を簡略化し、笑いにまぶして語り、その見方を〝ながら視聴〟で耳にする。その危うさは知っておいていいだろう。放送作家は黒子としてそうした番組の台本を作り、コメンテーターの振付役をしているのだ。

テレビ局の中で弱者の地位にある彼らは政治を、社会をどう考えているのか。否応なく近い将来、彼らは自分の信条を明らかにせざるを得ない。放送作家はテレビ局では弱者だが、番組を通じて強者になりえる。今の世の中、黒子であれ振付師であれ、その正体は白日の下にさらされることになる。

文・朝田 冨次

バナー写真:PIXTA

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