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スナックとそうでないもの

谷口 功一【Profile】

[2018.07.05]

スナックとは何か

筆者は昨年、サントリー文化財団の研究助成を受け『日本の夜の公共圏 スナック研究序説』(白水社)という本をものした。刊行後、さまざまな場所でスナックとは何かということについて講演もしてきたが、今回はその一端を「スナックとそうでないもの」という観点から紹介したいと思う。

スナックとは何かと聞かれたら、いつも回答はだいたい同じで、ママ(マスター)がいて基本はカウンター越しに水割りをつくるなどして対面接客し、席料(セット料金)として日本全国おおむねどこでも3000円くらいで飲むことができる店である。

セットの中にはお通し(ママお手製のものだったり乾き物だったりといろいろ)と氷やミネラルウォーターなどの割りモノが含まれている。ハウスボトル(お店のボトル)で時間制の飲み放題ということもあるが、ボトルを入れてキープすれば、それがある限り基本のセット料金でずっと飲めるという感じである。キャバクラなどと違って「指名」はなく(ママ一人だけでやっている店なら、そもそも指名など原始的不能なのだが)、ママや隣り合った客同士で話したり、カラオケをしたりしながら楽しむ場所である。

スナックの「定義」というものは実は存在しない。最大公約数的には、深夜酒類提供飲食店の届出のもと営業している業態の一つということになるのだが、先に述べた通り接客は基本的に「対面」であり、他の水商売のようにお客の横に座って接客することは基本的にない。主たる規制法令は「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風適法)」であり、この中で接客については「接待行為」という概念の下、厳しい規制が行われている。

このようなスナックという業態は、前回の東京オリンピックが開催された1964年に前後して生まれたものである。国際的な大イベントがある時の通例として、当時も風俗浄化運動が行われたのだが、その際、酒類提供店の深夜営業に対して規制がかけられたのに対抗して、酒だけではなく「軽食(スナック)」も出すので…という規制の抜け道として登場したのがスナックだったのである(食べ物を出す店は深夜営業できた)。

ただ、このスナックが、いつどこで最初にできたのかは分からない。キャバクラの発祥が、1982年の5月に池袋東口にできた「New我我」(株式会社レジャラーズ)であるとハッキリと分かっているのとは対照的である。ちなみに、このキャバクラ発祥の経緯などについては、倉科遼によるキャバクラ王・新冨宏の物語『夜を創った男たち』(実業之日本社)などを参照すると面白いだろう。

バー、キャバクラ、ガールズバーとの違い

特に都心で講演をしていると、スナックとバー、キャバクラ、ガールズバーなどとの違いは何かと聞かれることも多いのだが(地方だと当たり前のことなので、まずこのような質問は出ない)、まずバーとの違いは「酒」と「会話」の“主従関係”である。バーでは酒の銘柄が主にあり、それを味わうことが主目的であって、バーテンダーや他の客と話すこともあるが、それはあくまでも“従”である。また、バーにもチャージ(席料)がかかる場合はあるが、あっても1000円程度であろう。要するにバーは酒を楽しみに行くところであって、スナックのように会話を楽しみに行くのが大前提の場所ではない。「白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり(若山牧水)」的な状態が基本の場所なのである。

次にガールズバーだが、これは法的な意味での業態としてはスナックと同じ「深夜酒類提供飲食店」の届けのもとで営業しているものである。スナックとの大きな違いはまずカウンターの中の店のスタッフであり、基本的にママはおらず、20代の女性がほとんどであるように思われる。また、料金もチャージの上に自分や店の女性が飲んだドリンク代(ショット売り)がかかり、女性のドリンクが売り上げ(支払い)に占める割合がスナックよりも大きい。スナックとの最も大きな違いは、ガールズバーが後述のキャバクラ寄りの業態であり、より「色」を売りとする要素が濃い点だろう。

最後にキャバクラだが、これは法的にもスナックとは全く異なったものであり、風適法上の風俗営業の許可を取って営業している店である。この許可を取ると、深夜酒類提供飲食店では許されていなかった「接待行為」が可能となり、端的にいえば、客の隣に座って接客することができるようになるのである。料金はおおむね時間帯による時間制で、これに指名料(本指名、場内指名)などがかかる。ハウスボトル(飲み放題)もあるが、人によっては高価なボトルをキープする場合もある。ちなみにママはいない。

さらにこの先にはいわゆる銀座などにあるクラブが存在するのだが、これについては説明しだすとキリがないので、ご興味のある向きはドラマ『黒革の手帖』などを想起しつつ、簡にして要を得た『夜の銀座の歩き方最強ガイド』(花椿通著、リヨン社)などを参照されるとよいだろう。

地方に息づくスナック文化

最後に付言しておかなければならないが、地方都市に行くと、看板に「スナック」とうたってはあるものの、隣に座って接客している場合も多々ある。これは風適法上の風俗営業の許可を取った上でスナックと名乗り営業しているものなのだが、ジャンルとしては「ラウンジ」と呼ばれるべきものである。ラウンジにはママもいるので、その点がキャバクラとの大きな違いだが、指名も基本的にない。従って、キャバクラよりは大いにスナック寄りであるものの、スナックよりも少し華美で横についての接客が可能な店と思うとよいかもしれない。ある程度の規模の地方都市でもキャバクラが一軒も存在しない街があるが、そういう街にはだいたいスナックと名乗っているラウンジがあるものである。

先に都心でだけで「スナックとバー、キャバクラ、ガールズバーの違い」について聞かれると書いたが、その点、スナックは地方でこそ豊かに根付いた文化なのかもしれない。見知らぬ土地でも、旅すればいつも快く地元のコミュニティへと迎え入れてくれるのがスナックという存在であり、都心ではほぼ失われつつある、ゆかしい日本の夜の文化が、地方でこそ息づいているのである。

この他にも、かつては、グランドキャバレーやサパークラブなどさまざま夜の業態が存在したが、夜の商売の栄枯盛衰は世のならい。消え去るものは忘れ去られて日々に疎くなりゆくもので、スナックもいつか「それ何だっけ?」となる日も来るだろうが、ここに些(いささ)かなりとも記しとどめおくものである。

バナー写真=長崎県長崎市の飲食街「思案橋横丁」(時事通信フォト)

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  • [2018.07.05]

首都大学東京法学部教授。1973年、大分県別府市生まれ。東京大学法学部卒業、同大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。日本学術振興会特別研究員(PD)を経て現職。専攻は法哲学。著書に『ショッピングモールの法哲学』、編著として『日本の夜の公共圏』(いずれも白水社)など。「スナック研究会」代表。

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