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シャープ復活にみる日台企業連合の強み
東芝からPC事業を買収

湯浅 健司【Profile】

[2018.06.27]

台湾の鴻海傘下での経営再建から2年。公募増資による財務の健全化と東芝からのパソコン事業買収という「守りと攻め」の戦略を打ち出したシャープ。本格的な成長路線に復帰しようとするその姿は、強力なパートナーを持たず事業売却を繰り返す東芝と対照的だ。

守りと攻めを使い分け

シャープと東芝。かつての「家電大国日本」を象徴する2つの巨大企業が明暗を分けている。シャープは6月5日、最大2000億円の公募増資による財務の健全化と、東芝からのパソコン事業買収という「守りと攻め」の戦略を打ち出した。台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業傘下で経営再建を始めて丸2年。日台連合により本格的な成長路線に復帰しようとするシャープの姿は、強力なパートナーを持たず、事業売却を繰り返すばかりで新たな成長戦略を描けない東芝と、あまりに対照的である。

シャープは公募増資を2019年6月12日までに実施する計画。増資で得た資金で、金融機関が握っている同社の優先株を買い取る。液晶事業の苦戦で多額の最終赤字を計上した同社は、資本を増強するため、15年に主力取引銀行が持つ債務を「デット・エクイティ・スワップ(債務の株式化)」により優先株に振り替えていた。

普通株より利回りが高い優先株を買い取ることで多額の配当負担を軽減するほか、思わぬタイミングで取引行が優先株を大量の普通株に転換してしまうリスクを回避する。同時に、財務体質の改善により格付けを向上し、投資家に経営再建をアピールする。

記者会見した戴正呉社長は優先株の処理により、経営再建を本格化するための「経営の自由度が高まる」と、その意義を強調している。増資と合わせて発表したパソコン事業の買収は、その「経営の自由度」を示す、具体的な成長戦略の一つであろう。

東芝の技術者が魅力

シャープはかつて、力を入れていたパソコン事業から撤退した苦い経験がある。主力の液晶や半導体、通信に関する独自技術を生かして、「メビウス」ブランドのノート型などを販売。1990年代には、ハードディスク駆動装置とフロッピーディスクの両方を内蔵した世界最小というタイプを開発したほか、2009年には液晶パッドで手書き入力ができる製品も発売したが、いずれも大きなヒット商品とはならず、翌10年に事業撤退した。

撤退から8年。シャープはパソコン事業に再参入することになる。発表によれば、東芝のパソコン事業を手掛ける子会社、東芝クライアントソリューション(以下、東芝クライアント)を今年10月に40億円を投じて買収する。多くの消費者が慣れ親しんだ同社の「ダイナブック」ブランドを維持した上で、パートナーの鴻海が持つ強力な部品調達力と生産力をもって、収益化を急ぐ構えだ。

新聞報道によれば、戴社長はパソコン事業について「まだ外から見ている段階だが、シャープと同様の管理手法を用いれば改善はできる」「必ず黒字化できる。1~2年で黒字化して投資を回収したい」と意欲的。日台連合ならば、東芝が見切りをつけたパソコン事業も再生可能というわけだ。

シャープにとって今回の買収は、新規事業の育成という意義だけではなく、東芝クライアントの技術者も魅力という。同社は約400人のIT関連の技術者を抱えており、シャープ本体の人工知能(AI)やあらゆるモノがネットにつながる「IoT」関連事業との連携が期待できる。連携が広範囲になればなるほど、買収で投じる40億円はその金額の何倍もの効果をもたらすことになる。

シャープは今回の発表の前に、すでに本格再建への道筋を明確にしている。2020年3月期までの中期経営計画では、高精細の映像技術「8K」テレビやAI、IoTを取り入れた製品開発をその柱としている。

計画は急ピッチで進行中。昨年10月には世界初の「8K」テレビを中国で発売し、2カ月後の12月には日本でも売り出した。今年12月にはNHKが8Kの本放送を始めるのに合わせて、受信機内蔵型も投入する方針だ。「8K」テレビの販売実績は中国が先行しているが、その舞台裏では鴻海系の販売会社の活躍があるという。ここでも日台連合の成果を見ることができる。

かつて「金の卵」を産んだ事業を切り売り

一方の東芝。同社にとってのパソコン事業は、1985年に世界で初めてノート型を発売するなど優れた技術力を生かしてピーク時の売り上げは7000億円を超え、まさに花形事業だった。それが2017年度には売上高約1600億円、営業損益約100億円の赤字にまで凋落(ちょうらく)した。

東芝で黄金期のパソコン事業を牽引(けんいん)したのが、2005年に社長、09年に会長となった西田厚聡氏だ。西田氏はパソコン事業部長時代の功績をステップに、経営トップへの階段を昇り詰めるわけだが、皮肉にも東芝本体を傾けた不正会計問題の震源地もパソコン事業だった。

2015年の問題発覚後、東芝の経営は大きく傾き、相談役だった西田氏は責任をとって辞任。17年12月、失意のまま亡くなっている。もし存命であったなら、自らが手塩にかけて育てた事業がわずか40億円でシャープに売り出されることに、涙したかもしれない。

東芝の経営再建は前途多難だ。同社は6月13日、約7000億円の自社株買いを発表。昨年12月に6000億円の増資をしており、自社株買いはメモリー事業の売却益の一部を増資に応じた株主に還元する狙いだ。本来なら、メモリー事業などで得た巨額の資金は、将来の東芝を支えるような事業への投資に回すべきだろう。だが、新たな成長戦略を描けず、有効な投資先も見当たらないためか、増資に協力してくれた海外ファンドなどに戻すことになったようだ。東芝に短期の利益を求めるファンドではなく、鴻海のような支援先に寄り添って共に再建路線を歩むようなパートナーがいたならば、事態はもっと違う展開になっているだろう。

華僑ネットワークで東南アジアビジネス

ところで、シャープがモデルケースとなった日本と台湾の企業連合は、大手企業同士だけでなく、中小企業レベルでも多くの成功例がある。かつては日本側が中国本土に進出する際、台湾企業に水先案内役を頼むといった関係が多かったが、最近では、安定成長を続ける東南アジア市場の開拓で手を組む例も増えている。台湾企業は東南アジアに広がる華僑ネットワークを活用できるのが強みだ。

筆者が台湾企業の経営者を訪問した際、「日本のものづくりの思想を理解し、尊敬している」と言った声を多く聞いた。おそらく、鴻海の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長もその一人だろう。シャープ再建をよき手本として、今後、新たな日台企業連合が生まれることを期待したい。

バナー写真:東証1部に復帰し、記念写真に納まるシャープの戴正呉社長(前列中央右)ら=2017年12月7日、東京都中央区の東京証券取引所(時事)

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  • [2018.06.27]

日本経済研究センター首席研究員兼中国研究室長。専門はアジア経済。日本経済新聞社上海支局長、東京本社産業部長、グローバル事業局次長などを経て2018年より現職。

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