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日本車メーカー、国際戦略の要は中国のEV市場

湯浅 健司【Profile】

[2018.08.08]

世界最大の自動車市場、中国でトヨタ自動車など日本車メーカーが積極攻勢を掛けようとしている。ターゲットは電気自動車(EV)。環境対策に力を入れる習近平政権はEV産業の育成に本腰を入れており、その販売台数はすでに世界最大となっている。欧米のEV市場ではベンツなどドイツメーカーや米テスラに比べて出遅れ感がある日本勢は国際戦略の最重要地域となった中国で巻き返しを図る構えだが、欧米勢や現地のベンチャー企業も相次ぎ市場参入しており、彼らとの三つどもえの激しい競争が避けられそうにない。

トヨタは2020年に独自開発のEVを投入、日産も強気の計画

2018年4月、北京市で開催された国際自動車ショーで、トヨタ自動車は「独自開発したEVを2020年に世界に先駆けて中国で生産・販売する」と発表した。近く合弁生産を始めるガソリンエンジンの多目的スポーツ車(SUV)「C-HR/IZOA」をベースにして開発するという。

トヨタはこれまで「プリウス」に代表されるハイブリッド車(HV)を軸に電動車事業を展開しており、純粋なEVは開発の歴史こそ長いが事業化の優先順位は下の方、という扱いだった。2012年にSUV「RAV4 EV」を発売したが、販売はわずかで生産を打ち切っており、現在の販売ラインアップにEVはない。中国であえて独自開発車を投入する背景には、ここでノウハウを積んで、改めてEVの世界展開につなげるという国際戦略がある。

独自開発車を投入する前に、年内には合弁相手の広州汽車集団からSUVタイプのEVの供給を受け販売する計画だ。さらに19年には、「カローラ」「レビン」のプラグインハイブリッド車(PHV)の現地生産も始める。中国政府は同年からメーカーに一定量の「新エネルギー車」(以下新エネ車(※1))の生産・販売を義務付けることから、独自開発車の投入を待たずに電動車対策を次々と打っていく。20年までにPHVやEVなど10車種を投入するほか、電動車(※2)の中核部品の現地生産も進める考えだ。一連の事業計画について、中国本部長の小林一弘専務役員は「中国は他地域と比べて規制が厳しく、競合も激しい。EVは世界に先駆けてやっていかなくてはならない」と述べている(18年5月1日付日経産業新聞)。

ライバル、日産自動車はトヨタに一歩先んじて、EV「シルフィ・ゼロエミッション」を今年後半には中国で生産・販売する。さらに、日産自動車と中国・東風汽車集団の合弁会社が発表した中期計画によれば、同社は22年までに600億元(約1兆円)を投資し合計40車種以上を投入、うち半数を電動車にする。

日産が扱う電動車は純粋なEVのほか、「ノート」で利用しているガソリンエンジンで発電した電気でモーターを回して走るハイブリッド(HV)技術「eパワー」搭載車種も含む。22年にはこの合弁会社の販売台数の30%が電動車になるという。

EVをめぐる主な日本メーカーの動き(中国市場)

トヨタ 20年に独自開発EVを生産・販売。
日産 18年後半にEV「シルフィ ゼロ・エミッション」を生産・販売。22年までに約1兆円投資。
ホンダ 18年にEV量産モデルを合弁生産・販売。25年までにEVやPHV等20車種以上を投入。多機能型カーナビシステムなどで中国企業と協業・共同研究。
マツダ 19年に合弁先との共同開発車を発売。

EVなきメーカーは退場?

ホンダも負けていない。4月の北京国際自動車ショーでは、八郷隆弘社長が自ら登壇しEVやPHVなどの20を超す車種を2025年までに投入する計画を発表。第一弾として、長年のパートナーである広州汽車と年内に合弁生産・販売するEVの量産モデルを明らかにした。中国ではEV本体だけでなく、アリババ集団系の企業と多機能型カーナビゲーションシステムで協業するほか、自動運転の分野では画像認識の技術を持つ香港のベンチャー企業と自動運転の共同研究をしたり、インターネット検索大手、百度(バイドゥ)が進める自動運転の開発連合「アポロ計画」にも参加したりしている。

このほか、マツダも中国でのEV展開に意欲的である。合弁相手の長安汽車集団と共同開発した車を2019年に発売する計画だ。

中国で活気付く日本企業だが、逆にEVを持たないメーカーは、中国、ひいては世界の自動車市場から退場を迫られるかも知れない。スズキは2018年6月、2つあった中国の合弁会社のうち、業績不振の1社から資本を引き揚げ、合弁を解消した。同社の中国事業は小型のガソリン車が中心で、消費者の大型車志向や中国企業との競合から苦戦が続き、業界には「中国から完全撤退するのでは」との観測も出ている。インド事業が好調なスズキだが、中国でも事業を継続するならば、いずれ独自ブランドのEV投入による巻き返しを迫られるだろう。

世界市場の半数占める中国

各社が前のめりになるのは、欧米などに比べても速いスピードで中国においてEVなどの新エネ車が普及し始めているからだ。

中国汽車工業協会の統計によれば、2017年の新エネ車の販売台数は前年比53%増の77万7000台で、世界市場全体の半分を上回る規模とされる。政府から補助金があるほか、大都市では新規取得が難しいナンバープレートの手続きも新エネ車なら容易なことなどが、販売増の背景にある。補助金は20年までに段階的に減り最後はゼロになるため、今年は駆け込み需要もあって販売が一段と増加。1~6月の累計台数は2.1倍の41万2000台となっており、汽車工業協会は年間の販売台数が100万台を超えると予想している。

市場の拡大に加え、前述したように中国政府はメーカーに19年から一定量の新エネ車の生産を義務付ける政策を打ち出している。業界では「いずれはガソリン車が全廃になる」との見方もあって、メーカーは嫌でもEVなど新エネ車を生産せざるを得ない事情もある。もっとも、政府は規制だけでなく、外資には規制緩和も施している。22年までに外資系自動車メーカーの出資規制を全廃するが、EVに関しては前倒しして18年中に撤廃する。この措置を受けて、EV開発で先行する米テスラは7月10日、単独出資によるEVの開発・生産拠点を上海市に設けると発表した。

注目される中国のベンチャー企業の動向

日本のメーカーや米テスラだけでなく、欧州勢も中国市場を虎視眈々(たんたん)と狙っている。独BMWは中国の長城汽車と小型車ブランド「ミニ」のEVタイプを合弁生産するほか、2020年にはSUV「iX3」も世界に先行して発売する計画。独フォルクスワーゲン(VW)は21年までに中国の6工場でEVなど電動車の生産を始める。

EVをめぐる欧米メーカーの動き(中国市場)

米テスラ 単独出資によるEVの開発・生産拠点を上海市に設けると発表。
独BMW 小型車ブランド「ミニ」のEVタイプを合弁生産する計画。20年にはSUV「iX3」を発売。
独フォルクスワーゲン 21年までに中国の6工場でEVなど電動車の生産を始める。

そもそもEV化の動きは、環境規制が極めて厳しい欧州で普及したディーゼルエンジン車がVWの排ガス不正により信頼を失った結果、強まったとされる。欧州メーカーはディーゼル車に見切りをつけ、代わってEVに舵(かじ)を切った。そのため、EVの量産タイプではVWやBMW、仏ルノーなど欧州勢が先行しており、彼らが本気で中国に攻めてくれば、日本勢にとっては手ごわい相手となる。

欧州勢に加えて注目されるのが、中国のEVベンチャーの動きだ。中国ではEV事業に参入する新興企業が相次いで誕生している。自前の工場を持つ企業もあるが、大手自動車メーカーと提携し、自分で開発したEVを生産委託するケースは珍しくない。EVは中国が得意とするパソコンやスマートフォンのように、開発者と製造者の水平分業によって効率よく大量生産するビジネスモデルである。

彼らの多くはその実力が未知数ではあるが、例えば、上海市に本社を置くEVベンチャー、蔚来汽車の企業評価額は、米調査会社CBインサイツによれば約29億ドル(約3200億円)にも上る。高い成長性を見込んで、株主には百度や騰訊控股(テンセント)、レノボ・グループなどIT大手が顔をそろえている。株主や資本関係だけでなく、百度などは開発中の自動運転技術を蔚来汽車を通じて実用化していく可能性もある。ITとEVの融合を武器にした中国のベンチャーは、いずれは中国市場だけでなく、世界のEV市場で日本や欧米企業の前に立ちふさがる存在となるかもしれない。

部品メーカーにも訪れる商機

中国のEV市場は完成車だけでなく、部品メーカーにも商機をもたらす。パナソニックは今年3月から、遼寧省大連工場で車載用リチウムイオン電池の量産を始めた。当初は北米向けに出荷するが、年内に中国向けにも販売するとみられる。

EVの基幹部品であるリチウムイオン電池を巡っては、同社や韓国のサムスンSDIがこれまで世界市場で君臨してきたが、中国では比亜迪(BYD)や寧徳時代新能源科技(CATL)が急速に力をつけており、激しいシェア争いを展開している。パナソニックも現地生産を通じて、両社の競争に割って入る構え。電池と並ぶ基幹部品の駆動用モーター分野では、日本電産が300億円を投じて、浙江省に新工場を建設。19年から量産を始める計画だ。

技術をいかに守るか~企業に問われる戦略性

中国における完成車や部品の製造では、各社が持つ独自技術をいかに守るかという点も今後、重要なテーマとなろう。自動車業界に限らず、単独出資で事業展開する場合は技術漏えいのリスクは低いが、合弁事業ならば、どこまで中国のパートナーと情報共有するかが課題となる。中国政府が外資にEV事業を促す思惑の一つには、合弁事業を通じて、外資から先進技術を吸い上げることがあるとされる。外資規制の撤廃で完成車事業でも単独出資が認められるようになるが、これまでの中国企業との関係を考えると、いきなりパートナーと離れることは容易ではないだろう。

企業は市場での激しい競争にいかに勝ち抜くかという攻めの戦術と、技術保全という守りの戦術の両面が必要になる。欧州や米国に比べEV化が急速に進展すると見込まれ、各社の世界展開に直結する中国でのEV事業は新たな商機であるとともに、改めて各社の中国戦略の巧拙が試される場ともなりそうだ。

バナー写真:日産自動車が北京モーターショーで公開した電気自動車「シルフィ」=2018年4月25日、中国・北京(時事通信)

(※1)^ 新エネルギー車(NEV)=新型エネルギーを主たる動力システムとする自動車。つまりEV、電気モーターを主とするPHEV、燃料電池車(FCV)を指す。中国語で「新能源汽車」。

(※2)^ 電動車=ガソリンエンジンでなく電気モーターを主とする車両一般を指す。

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  • [2018.08.08]

日本経済研究センター首席研究員兼中国研究室長。専門はアジア経済。日本経済新聞社上海支局長、東京本社産業部長、グローバル事業局次長などを経て2018年より現職。

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