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元外交官が明かす天皇陛下海外訪問の意味——池田維・霞山会理事長に聞く

野嶋 剛 (聞き手)【Profile】

[2018.07.20]

池田 維

池田 維IKEDA Tadashi一般財団法人霞山会理事長、立命館大学客員教授。1939年生まれ。東京大学法学部卒業後、外務省に入り、中国課長、アジア局長、官房長、オランダ大使、ブラジル大使などを歴任。2005年から08年まで日本台湾交流協会台北事務所代表を務めた。著書に『激動のアジア外交とともに―外交官の証言』 (中央公論新社、2016年)などがある。

天皇陛下は2019年4月30日、その30年を超える在位期間を終え、退位の日を迎える。この間、皇后陛下と共に海外を訪れた回数は19回に達する。本来は親善・交流を趣旨とする天皇陛下の海外訪問だが、その訪問先の多くは、日本の戦後処理や戦争責任、戦没者の追悼といった「戦前」に関わる場所も多かった。天皇陛下がその身を削るように海外に訪れたのはなぜなのか。オランダ大使や外務省アジア局長として天皇陛下の海外訪問に深く関わった池田維・霞山会理事長に「皇室外交」の舞台裏を聞いた。

戦前の清算の意味を持つ「ABCD」4カ国訪問

野嶋 天皇陛下の1992年の中国訪問の時、池田さんは外務省アジア局長の任にありました。その後、駐オランダ大使として天皇陛下の初のオランダ訪問にも関わっています。中国とオランダという第二次大戦で日本が戦った2つの国への訪問は特別な意義があったと思われます。

池田 天皇陛下は多くの国を訪れていますが、戦前の清算という意味で、中国とオランダは重要な国だったと思います。日本が第二次大戦で戦った相手は一般に言われるように「ABCD」でした。Aのアメリカ、Bのイギリスは、昭和天皇が公式訪問を行っています。Cの中国とDのオランダには、昭和天皇は公式訪問を行っておらず、天皇陛下の代に残された形になっていました。

野嶋 天皇陛下の中国訪問は、当時から今日に至るまで、賛否両論いろいろな議論が出ています。98年の江沢民(こう・たくみん)・中国国家主席の訪日での宮中晩餐(ばんさん)会では、江沢民主席が声高に歴史問題を取り上げて日本を批判し、日本側に大きな衝撃を与えました。

池田 実は、2000年のオランダ訪問最終日の朝、天皇陛下が私に対して「池田さんは、中国訪問の時はいろいろ働いてくれましたね。(私の)中国訪問は、良かったと思いますか」と尋ねられました。天皇陛下から、そのような質問があることは大変珍しいことです。

私は「行っていただいたことは良かったと思います。当時の宮沢内閣の決定でした」とお答えしました。この会話は、ずっと胸の中に秘めていましたが、平成の時代が間もなく終わるいま、訪中から20数年間を経過しており、公に知ってもらってもいいことではないかと思って語るようにしています。あの宮中晩餐会のこともあり、そういう陛下のご質問になったのではないかと思いました。

野嶋 1992年当時、中国の外相だった銭其琛(せん・きしん)氏が著書の中で、天安門事件後の対中制裁の包囲網を打破するために、天皇陛下の訪中を利用したと受け取れるような記述を、自身の回顧録(2003年出版)の中で書いていますね。

池田 しかし、当時は欧米諸国に天皇訪中が良くないという意見はなく、当時の日本の雰囲気でも、治安への不安を議論はしても、訪問の意義自体を否定する意見はなかったように思います。もともと天皇陛下の訪中は、中国政府からの長年の要請があって実現したものです。銭其琛氏の発言は確かに不適切で外交上非礼であり、私自身それを知った時、憤りを感じました。もちろん、中国の中にも陛下の訪中についてはいろいろな評価があったのでしょう。ただ、中国にも最近注目すべき動きがありました。天皇陛下の退位に絡んだ質問で、外交部報道官から天皇訪中について「中日関係発展のために積極的な貢献をされた」という発言がありました。これまで総括的に中国がこの件にコメントしたことはなく、天皇退位に当たり、中国は公式な立場として天皇訪中についてその歴史的な意義を認める結論を定めたのでしょう。

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  • [2018.07.20]

ニッポンドットコム・シニアエディター。ジャーナリスト。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。1992年、朝日新聞入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長等を歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)等。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛

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