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台湾で根を下ろした日本人シリーズ:知る喜びを分かち合う——作家・コーディネーター 片倉真理

馬場 克樹【Profile】

[2018.08.19]

片倉 真理

片倉 真理KATAKURA Mari台湾在住作家、コーディネーター。メディア取材のコーディネーションの傍ら自身も筆を執り続け、2018年4月に台湾生活19年間の集大成として、日本では初の単著となる『台湾探見—ちょっぴりディープに台湾(フォルモサ)体験』(ウェッジ)を出版。さらに深く台湾を知りたいという多くの読者からの支持を集めている。

片倉真理の作品は、自身が体感した台湾を知る喜びを読者と分かち合いたいという思いにあふれている。台湾史研究家で作家の夫、片倉佳史の取材に同行して台湾各地の伝統行事を体験し、日本統治時代の史跡や先住民族の集落を巡るうちに、自らも台湾の魅力を伝える役割を担うようになっていった。

できるだけ多くの日本語世代の人々の言葉を記録して伝えていきたい

片倉が最初に台湾の土を踏んだのは1994年。台湾の民主化が始まって間もない頃だった。その後も何度か旅行で訪れたことはあったが、台湾に本格的に拠点を移したのは、大学の合気道サークルの先輩で、97年に既に台湾に居を構えていた佳史との結婚がきっかけだった。99年のことだった。

その頃、台湾に対する知識はほぼ皆無に等しかったと片倉は振り返る。当時の日本では台湾を紹介する書籍が限られ、テレビ番組などで取り上げられることもまれだった。しかし、夫の取材に同行して台湾各地の伝統行事に参加し、日本統治時代の史跡や先住民族の集落を訪ね、現地の古老から話を聞くうちに、台湾の魅力にはまっていく。台湾を知れば知るほど、この島は新鮮な驚きを彼女に与えてくれた。

「台東の太麻里郷の先住民族の集落を初めて訪れた時のことでした。そこに住んでいたおじいさんが、半世紀ぶりに日本人に会ったと言って、流ちょうな日本語で話し始めたのです。日本語を話したい、自分たちの歴史を知ってほしいという気持ちに満ちあふれていました。さらに驚いたのは、そのおじいさんの子どもたちが、自分の親が日本語をこれだけ自在に操れる事実を全く知らなかったことでした。この世代間のギャップに疑問を思ったことが、台湾をもっと知りたい原点になりました」

日本の敗戦と中華民国による台湾の接収、二二八事件の発生とその後の白色テロの時代、戒厳令が敷かれ、学校教育の現場では日本語はもちろん、母語である現地語を話すことさえ禁じられた台湾の戦後史。こんなに日本に近く、行き来もある場所なのに自分の知らないことばかりだった。教科書では習うことのなかった歴史を、台湾各地で出会った日本語世代のお年寄りから教わることとなった。折しも陳水扁総統が誕生し、長らく封印されてきた過去をようやく誰もが語れる時代とも重なった。

「政治犯として緑島に収容されていた老人が、淡々と昔のことを語ってくださったことがありました。当事者としての深い悲しみの中にも、感情を抑え自分の運命を静かに受け入れている姿に胸を打たれました。こうした先人の知恵や経験を自分たちだけで聞くのはもったいない、より多くの方々と共有していかなければならないと、思いを強くしました」

できるだけ多くの日本語世代の人々と交流し、その言葉を記録し、より多くの人に伝えていくことが自分たちの使命ではなかろうか。既に高齢となった日本語世代の人々から直接話を聞ける時間は、それほど多く残されているわけではない。2017年、夫が「台湾を学ぶ会」を立ち上げた。日本にいる台湾に関心のある人々と、自分たちが台湾で学んだ知識や経験を分かち合うこの活動を全面的にサポートし始めたのもそんな思いからだった。

『台湾探見—ちょっぴりディープに台湾(フォルモサ)体験』の出版記念講演の様子。東京、大阪で開催され、約250人が集まった(片倉佳史氏提供)

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  • [2018.08.19]

シンガーソングライター。1963年仙台市生まれ。国際交流基金日中交流センター事務局次長、財団法人交流協会台北事務所文化室長を歴任。退職後、2013年台湾で蒲公英音楽交流有限公司を設立。「八得力(Battery)」でボーカルとギターを担当。ソングライターや俳優としても活動する。代表曲には映画『光にふれる(原題:逆光飛翔)』の主題歌で、台湾金曲奨最優秀女性ボーカリストの蔡健雅(タニア・チュア)が歌った「很靠近海(海のそばで)」がある。プロフィール写真撮影=Jonny Wei

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