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老舗の本質(下)
中国と日本で考えてみた

漆嶋 稔【Profile】

[2018.08.14]

<(上)から続く>

日本では創業100年以上の老舗企業は京都だけでも1000社以上あり、中国全体とほぼ同じである。日本にも内乱や戦争があったはずなのに、なぜこれほど多いのか。その謎を探ってみる。

世界最大の老舗企業国家は日本

創業1000年以上の企業は、四天王寺建立の金剛組(578年)、華道茶道教授業の池坊華道会(587年)など7社ある。東京商工リサーチによれば、2016年12月現在創業200年以上の企業は全国で約3000社という。創業100年以上の企業になると3万社以上あり、都道府県別で見ると、東京4000社弱、大阪2000社強、愛知県2000社弱、京都1000社強などとなっている。

ちなみに、創業200年以上の企業の各国別データを見ると、第2位ドイツ800社強、第3位オランダ200社強、第4位フランス200社弱なので、日本は世界最大の老舗企業国家であるといえよう。また、企業寿命については、以前日経ビジネス誌(1983年11月4日号)が「企業30年説」を唱えていた。企業の大半は創業者の力量次第なので、人間が精神的肉体的に存分に活躍できる時期を考えると、30年説というのは妥当と思われた。だが、昨今の激変する情勢を考えれば、現在は10年ほどに縮んでいるのかもしれない。

市街戦を避けてきた

ご多分に漏れず、日本にも戦乱や内乱は幾度もあった。それにもかかわらず、これほど古参企業が多いのは何か特別な背景があるはずである。(上)で見た通り、中国では戦乱が起きれば、都市部の老舗はそれまでに蓄えた資産を収奪され、経営者や有能な管理職も殺害されるか、四散してしまうので、老舗はなかなか生き残れないのである。

一方、日本史を見てみると、大規模な戦いの場所にはある特徴がある。例えば、日本の戦場といえば、当初は山城攻略のために山岳地帯で行われ、その後は「川中島の戦い」、「長篠の戦い」、「関ケ原の戦い」などのように、三角州や谷間または街道などが多くなり、田畑は少ない。なぜならば、田畑を荒らすと農民に怒られるし、米など農作物も取れなくなるので自らの首を絞めてしまうからだ。また、市街戦をやれば、家屋敷や金銀財宝などの戦利品も燃えてしまい、焼け出された人々から恨みも買うので、戦禍に巻き込むことを避けたのである。

実は、危うく日本史上最悪の市街戦になる瞬間もあった。それは幕末期に行われた江戸無血開城である。旧幕府軍の勝海舟が明治新政府軍の西郷隆盛との交渉の結果、旧幕府軍は一定の条件を付けて江戸城を無抵抗で新政府軍に明け渡すことになった出来事である。この交渉が成立した背景にはさまざまな要因があるが、重要な要因の一つは、民衆を戦禍に巻き込まないようにしようとした戦国時代以来の考え方を二人が共通認識として持っていたからと言われている。

以上の通り、日本に老舗が数多く存在する要因の一つは、大規模な市街戦が避けられてきたからではないか(ほぼ唯一の例外は、第二次大戦に起きた日本本土空襲であろう)。

常連(取引先)の存在

だが、たとえ外的環境が良好でも、本来企業経営とは難しいものだ。加えて、日中を問わず、事業承継は常に難問である。たとえ初代が有能であっても、二代目、三代目はどうであろうか。また、世襲を考える老舗は多いであろうが、子女が適任とは限らない。さらに、天災や取引先の破綻など、自分の裁量だけでは手に負えないことも多く、運に左右される面もある。

老舗は後継者の発掘や育成に努め、次の代は「先代が残した大切なものを次に残さねば」と奮起し、その次の代が「俺の代でつぶしてはならぬ」と一層努力する。そのような老舗には応援団(先代からの常連や長年の取引先)が控えているものだ。店主は常連の言葉を咀嚼(そしゃく)しながら、先代に追い付き追い越そうとする。例えば、老舗料理店のカウンターの隅に座っている常連客が後継者の若い店主にボソッと次のような感想を述べる。

「美味しかったね」

「ありがとうございます」

「でも、なぜ最後に西瓜を出したの?」

「お口に合いませんでしたか?」

「今は冬だからな。僕は季節も食べたいんだ」

「市場で珍しく手に入ったもので」

「そういう考え方もあるが、旬のものが好きな人もいることを忘れんでくれ」

「分かりました」

常連や取引先は若い世代を自分の子どもや孫のような目で見て、先代以上に成長することを期待している。老舗側はそれを謙虚に受け止めている限り、いよいよ寿命は延びるであろう。だが、「老舗」の看板にあぐらをかき、尊大に構えていると、早晩応援団から見放され、長くは持たないかもしれない。

老舗の本質

始めるのは簡単でも、継続していくのはまことに難しい。旧職場の銀行では、「会社は三日、三カ月、三年が存続の山場である」と教えていた。老舗とは運命の女神に好かれた「継続は(魅)力なり」の具現化であり、その企業を取り巻く環境が平和で安定している証拠なのである。

バナー写真:「天下泰平や五穀豊穣(ほうじょう)を祈願する大阪・四天王寺の年始行事「どやどや」(2017年1月14日、大阪市天王寺区)=時事通信

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  • [2018.08.14]

翻訳者。1956年宮崎県生まれ。神戸大学卒業。三井銀行(現三井住友銀行)上海支店を経て独立。訳書に『決定の本質I、II』『孫子 戦争の技術』『馬雲のアリババと中国の知恵』(以上、日経BP社)、『FRB議長』(日本経済新聞出版社)、『経験学習によるリーダーシップ開発』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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