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日仏友好160年を越えて:フランスは東アジアにどう向き合うのか

上原 良子【Profile】

[2018.10.16]

新しい日仏関係とは?

2018年は日仏友好160周年にあたる。1858年にフランスと日本は日仏修好通商条約を調印した。鎖国政策を捨て、ようやく国際社会に組み入れられたばかりの日本にとって、フランスは日本の近代化の良きモデルであった。そして今日、両国は安定したパートナーシップを築くに至っている。では今後、どのような関係を求められているのであろうか。

フランスを訪れるたび、その歴史の深みの一方で、常に革新を求める姿勢に驚かされる。近年印象的であったのは、マルセイユであった。マルセイユは私の好きな町であるが、残念ながら移民と失業、犯罪の町という負のイメージをまとってきた。ところが近年、港湾地区は大規模再開発により、有名建築家による高層ビルや、古い港湾施設もリノベーションを経て再生し、大型客船の観光客でにぎわう町に変貌しつつある。地中海都市という新しいアイデンティティを得て、マルセイユがグローバルな海運拠点を目指し、しかもその終着点として、上海を目指しているのである。

ダイナミックに変容する東アジア。確かに日本の経済はゆるやかに低落している。しかしより広域の視点で見ると、中国を頂点とする東アジアは、今後世界のセンターとなるであろう。その中で日本は多様なイデオロギーを持つ個性的な国々の中で、西欧諸国と同じ価値と規範を共有する数少ない国である。そのため今後、日仏両国の戦略的な関係はますます重要性を帯びるのではないだろうか。

東アジアのアンビバレントな状況

東アジアの難しいところは、安全保障の構図と経済の構図が錯綜(さくそう)しているところであろう。

安全保障の面では、複雑な緊張関係を内包している。北朝鮮は核の廃絶をめぐる米国との応酬、さらに韓国との関係改善など、今後も駆け引きが続くであろう。またロシアも太平洋シフトが指摘されており、今年の夏、習近平主席の出席のもと、冷戦後最大規模の軍事演習を実施してそのプレゼンスを誇示した。何より中国も海洋進出など強硬路線を歩んでいるが、領土問題においても強硬姿勢を崩さず、近隣諸国の反発を招いている。そして日本もこれらの国々と様々な懸案事項を抱えている。

近年、いずれの国もナショナリズムが高まり、国際的な規範よりも、国益や自国の国内情勢が優先され、相互に猜疑(さいぎ)心を招いている。もちろん、こうした要因がすぐさま紛争を引き起こす可能性は低いであろうが、東アジアの偶発的衝突がグローバルなリスクにつながらないよう、国際社会全体で努力する必要があろう。

一方、経済的な結びつきは活性化しており、経済的相互依存状況が東アジア全体の成長をもたらしている。確かに、日本は欧州諸国同様、工場の海外移転や産業の空洞化により製造業は低迷し、深刻な産業再編を余儀なくされている。しかし中国を頂点とした東アジアは今後さらにヒト・モノ・カネ・情報が国境を越えて流通し、巨大な経済圏を形成するであろう。低迷する日本であるが、少なくとも新たなセンターとなる東アジア圏の一翼に位置することは間違いないだろう。今後の課題は、こうした東アジアにおいて新しい役割と立ち位置を見いだすことであろう。

アジアへの海のルート

フランスおよび欧州諸国にとっては、マルセイユの事例を持ち出すまでもなく、成長する東アジアへのルートを確保することの重要性は言うまでもないだろう。ここで問題となるのは中国の習近平主席が提唱している一帯一路構想である。陸とともに、海のシルクロードにおいても、中国の借款等により港湾施設の拡充など大規模なインフラ整備が進められている。とはいえこうした中国の覇権主義的な進出は、先進国からも、また現地からも新たな植民地主義の再来ではないかと懐疑的な視線を投げかけられている。

中国からの資金援助によるインフラ整備は確かに魅力的であるが、これにより中国の帝国主義的な支配に組み込まれるのではないか。もしくは将来中国が内向きになったとき、投資が途絶え、支援を受けた国は負債を抱え、低迷するのではないか、と様々な憶測を呼んでいる。もちろん、ここには合理的な判断以前に親中か、反中かといった好みの問題も強く反映されている。

しかしながら中国という要素と切り離して、この構想の意義を考えると、長期的に東アジアが世界経済の極となるとすれば、少なくともこうした物流ルートの確立は国際公共財となりうる。加えて、欧州連合(EU)がモーダルシフトとして掲げるように、気候変動問題という点でも海路の活性化は不可欠である。マルセイユの港湾設備の刷新はまさに先駆的である。実際、日本も中国と米国を結ぶ最短ルートに位置していることから、近年海運の取り扱い量が急増している。

アジアの海における国際的な規範の確立

近年、安全保障のリスクと経済成長が同時並行で進行する東アジアで求められているのは、インフラの整備とともに、国際的な規範の確立ではないだろうか。北朝鮮問題のみならず、領土問題、海洋のヘゲモニー等、中国と近隣諸国はこれからも対立しながら調整を重ねるであろう。力のみが支配するのではなく、公正かつ対等な関係の確立、ルールによる解決、これらのインフラへの自由なアクセスを確立し、繁栄を生み出し、相互の信頼と協調関係による空間を構築することは、アジア諸国にとっても、フランスにとっても、そして中国にとっても長期的な財産となり得る。

米国が自国ファーストを叫び、中国との貿易戦争を繰り広げる今日、リベラルな国際規範は危機にひんしている。東アジアにおいては、日本はフランスをはじめとする西欧諸国と価値の共有が可能な数少ない国家の一つである。トランプ大統領の米国が様々な摩擦を引き起こす中で、今こそ、西欧諸国と東アジアの民主主義国は緊密な協力により、国際的な規範と自由を守るために尽力することが求められているのではないだろうか。

なかでもフランスの関与は極めて重要であろう。フランスは、良くも悪くも太平洋に足がかりを持っている。その上で、さらに太平洋国家というアイデンティティを持ち、さらにグローバルな国際秩序を主導することを望むのであれば、ぜひ新しい秩序形成に尽力してはどうだろうか。その際、日本はフランスの善きパートナーとなるであろう。

バナー写真:日仏友好160周年に当たりフランスを訪問し、ベルサイユ宮殿でマクロン大統領の出迎えを受けられる皇太子さま=2018年9月12日(時事)

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  • [2018.10.16]

フェリス女学院大学国際交流学部教授。1965年福岡生まれ。専門はフランス国際関係史。1989年東京女子大学文学部史学科卒業。1994年パリ第一大学大学院現代国際関係史DEA修了。1996年一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。吉田徹編『ヨーロッパ統合とフランス、偉大さを求めた1世紀』(法律文化社、2012年)、田中孝彦・青木人志編『〈戦争〉のあとに/和解と寛容』(勁草書房、2008年)等に、ヨーロッパ統合やグローバリゼーションにおけるフランスの政治・外交に関する論考を発表。

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