技術力生かし参入拡大を:急成長する中国環境産業と日本への提言

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大気汚染対策に伴い環境産業が急成長

現在、中国では、環境分野を震源地とする"産業革命"が起きている。現政権が推し進める「生態文明建設」政策がその主な原動力である。生態文明とは、環境とのバランスがとれたグリーン経済ならびに低炭素社会の実現を指す理念であり、大気汚染対策を重視している。貧困や失業など、当事者の範囲が限られた社会問題と異なり、大気汚染問題は、国民全体を脅かす「公共の敵」であるからだ。

中国の大気汚染問題は、環境基準の厳格化だけで解決できる単純な問題ではなく、都市計画から産業政策、科学技術戦略、行政改革まで、さまざまな分野を網羅した総合対策が必要になる。近年の総合対策の推進によって、相乗効果が生まれているが、本稿では、環境産業分野に絞って紹介する。

再生可能エネルギーの拡大

周知の通り、中国の場合、主要大気汚染物質SO2(二酸化硫黄)とNOx(窒素酸化物)の排出量の4割前後は、石炭火力発電・熱生産部門から来る。つまり、エネルギー分野の石炭消費量削減策の成否が大気汚染対策の鍵になる。最も効果的な方法は、石炭火力の発電割合の抑制と再生可能エネルギーの拡大である。

近年、中国は再生可能エネルギー普及に力を入れており、とりわけ、風力・太陽光発電設備の生産・設置量は大きな成長を遂げている。2012年から16年までの5年間、風力発電設備導入量は2.5倍、太陽光発電設備に関しては25倍にした。

再生可能エネルギーの普及による雇用拡大も大気汚染対策の相乗効果の一つである。海外研究機関が公開した資料によれば、2017年まで、再エネ産業従事人口が最も多い国は中国であり、388万人を超えている。世界第2位であるブラジルの89万人を大きくリードしている(図2)。これに対し、日本の従事人口は26万人にとどまり、中国の15分の1に過ぎない。

また、関連従事人口の世界シェアを見ると、太陽熱部門が83%とトップで、その後に太陽光部門の66%、風力の44%が続く。いずれも世界一位である(図3)。

図3 中国の新エネ関連雇用の世界シェア

分野 2017 (前年)
バイオマス(固体) 23.1% (24.9%)
バイオマス(燃料) 2.6% (3.0%)
バイオガス 42.2% (43.5%)
小規模水力発電 32.8% (45.0%)
太陽熱 83.0% (83.3%)
太陽光発電 65.9% (63.4%)
風力 44.4% (44.1%)

出典:IRENA, Renewable Energy and Jobs: Annual Review 2013-2018などに基づき、筆者作成

世界販売の4割占める電気自動車

自動車分野は大気汚染物質発生源の25%を占める主要な汚染発生源である。中国政府は、補助金政策を中心に、電気自動車や天然ガス自動車の普及に力を入れている。

国際エネルギー機関(IEA)の「Global EV Outlook 2017」報告によれば、2016年末まで、世界全体のEV(純電動自動車およびプラグイン・ハイブリッド自動車)保有台数200万台のうち、中国は最も多い65万台前後と世界全体の32%を占めている。専門サイトEV Salesの最新統計資料によると、17年における世界全体のEV販売台数は122万台と前年比58%増加している。122万台のうち約58万台は中国であり、全体の4割以上を占める。

17年において販売台数が最も多かった20車種のうち9車種を中国メーカーが占めているというデータもあり、巨大な国内マーケットを背景にした中国EV産業の成長ぶりが目立つ。20車種にランクインした中国車の合計販売台数が約30万台であるのに対し、日本勢(3社のみ)の合計は13万台を下回っている。

さらに、中国政府は2020年までに充電スタンド1.2万カ所、充電設備480万基を設置する目標を掲げている。16年末までのデータによれば、充電設備の国内設置量は14万基以上に達し、北京市、広東省の設置数はそれぞれ2万基を超えている。EV関連インフラ産業に関する世間の関心も高まりつつある。

さらに拡大見込まれる測定機器産業

環境規制の強化に伴う測定機器産業の発展も著しい。現行の中国の環境基準に照らした場合、少なくとも100種類以上の物質に対する測定機器の需要がある。事実、中国における測定機器の需要は、2000年の210台・ユニット/年から、17年の5万6575台・ユニット/年(前年比38.5%増)までに拡大し、16年間で280倍以上の成長を見せた。全体需要に占める粉塵(ふんじん)・煤塵(ばいじん)関連測定機器および水質関連測定機器の割合が最も高く、それぞれ、32%と34%に達している。17年度における関連機器のマーケット規模は金額ベースで1300億円以上となり、国内規制強化をきっかけに、今後、さらに拡大する見込みである。測定機器マーケットのシェアを見ると、国内企業5社が半分を占める。一方、外国企業はドイツ、イギリス、フランス、デンマークの4カ国で全体の4割以上。うちドイツだけで420億円、全体の3割を占め、日本勢の存在感は薄い。

各種環境測定機器の中で、大気質測定器マーケットは比較的に新しい分野である。実は、中国政府が、PM2.5測定インフラ構築計画を打ち出したのは2013年のことであり、2年足らずの期間において、PM2.5測定規格の決定、機器の国産化、全国1400カ所への実装を済ませている。この間、国の基準に照らし、どの製品を地域における公式設備として認定するか、認定・導入に関する判断権を委任された地方政府は、関連技術の調達や製造企業の設立・誘致に取り組んできた。少なくとも、この分野に関しては、中国環境政策に関する十分な理解と地方政府とのパイプが商機獲得の必要条件であった。

環境技術大国・日本への提言

中国の環境ビジネスに詳しい多くの専門家は、日本の環境技術・設備の中国進出について、

1)部品、材料など、特定分野の技術は強いが、中国が求める総合ソリューションのプレゼン能力は高くない2)せっかくの技術であっても現地のニーズに合わないケースが多い3)量産化ノウハウと関連国際戦略が不足している

―と指摘している。

具体例の一つとしては、蓄電池のコア技術である「化学エネルギーの電力エネルギーへの変換技術」は、日本(特にトヨタ)の技術が優れており、中国国内EV関連特許申請の数でも、トヨタが一位を占めている。しかし、現実には中国におけるEV生産・販売台数は中国メーカーが圧倒している。

急速に拡大する中国の環境産業と国内マーケットは、優れた環境技術を保有している日本の企業にとっては、大きなビジネスチャンスである。同時に、企業は中国における外資規制や技術漏洩など様々な課題に直面しており難しい側面があるのは事実だろう。しかし、中国も様々な面で変貌を遂げつつある。最近、習近平氏が宣言したように、今後、自動車分野、医療分野などにおける外資規制(現行:合弁会社の出資比率は50%以下)がなくなる見込みであり、現政権は外資導入に積極的な姿勢をみせている。

また、企業の海外進出という問題は、単に民間企業の経営戦略という問題に限定して矮小化すべきではない。日本政府は、環境技術関連業界についても単純な補助金政策にとどまらず、産学官連携など将来を見据えた、より実効性のある大きな枠組みとして再構築する必要がある。

バナー写真:排気ガスで遠くがかすむ、北京市内の道路(2017年11月5日、中国・北京)=時事通信

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