安倍長期政権の確定と野党再編の加速

政治・外交

総選挙の結果、与党の自公は引き続き合わせて議席の3分の2を確保した。しかし、安倍政権は盤石となったものの、今後、極めて大きく、多岐にわたる政治課題がクローズアップされることになる。

「1強」と野党のひ弱さ

2014年12月14日に実施された衆議院の第47回総選挙は、「1強多弱」という日本の政治状況を追認し、安倍晋三首相による長期政権への道筋をつけて終わった。野党の選挙準備不足を突いた「奇襲解散」は、覇権的手法ではあったが、政治の根本が権力闘争であるという前提から見れば、正攻法であり“王道”の選択だったと言える。

一方、野党は“ひ弱さ”を露呈した。3年3か月の民主党政権の失政の後遺症はまだ回復せず、第3極の諸政党も「総崩れ」となった。共産党の躍進が目立ったが、これも野党の主軸を欠いたことに起因する。野党再編は必至であり、リーダーシップ、覇気を欠いた民主党の海江田万里代表の落選は、その号砲に他ならない。

「野党よりまし」という選択、不評政策の連続 

安倍内閣は第1次、第2次内閣を通じた在任期間が1000日を超え、戦後の歴代内閣で7番目の長さとなっている。今後4年政権を担当することになれば、歴代3位の小泉純一郎元首相(1980日)を超え、2位の吉田元首相(2616日)、そして大叔父である戦後最長の佐藤栄作元首相(2798日)に迫ることになる。

また、保守合同(1955年)以来、20回行われた総選挙で、自民党が290議席超の圧勝をしたケースは5回ある。池田勇人(議席296)、中曽根康弘(300)、小泉純一郎(296)、安倍晋三(294)と今回の291議席だ。安倍首相は2回も圧勝したことになり、自民党にとっては大変な記録と功績を残したことになる。

長期政権、戦後の歴代内閣

1 佐藤栄作 2798日 6 岸信介 1241日
2 吉田茂 2616日 7 安倍晋三
3 小泉純一郎 1980日 8 橋本龍太郎 932日
4 中曽根康弘 1806日 9 田中角栄 886日
5 池田勇人 1575日 10 鈴木善幸 864日

しかし、「1強多弱」による長期政権化を手放しでは喜べない。野党が初めから政権交代の旗を掲げることなく行われたこの総選挙は「現政権は野党よりまし」という消極的な信任投票の色合いが濃く、しかも、その前途には経済成長、財政再建の実現、安保体制の強化、原発再稼働など“不評政策”が目白押しだからだ。連立与党は、選挙で「信任を得た」としているが、個別の政策への“白紙委任”ではなく、政策論争のなかった選挙戦のために課題の局面リセットができなかった。

懸念される沖縄の「台湾化」「香港化」

その懸念材料の1つが、沖縄県全4区の選挙区で、非自民候補が全勝したことだ。共産党にとっては実に1996年以来、18年ぶりに小選挙区で議席を獲得するという快挙となった。安倍政権は、沖縄の敗北を“誇大化”させないよう対応しているが、14年11月の沖縄県知事選挙でも、米軍普天間基地の移設に反対する候補に自民党は敗れているだけに、安全保障体制、日米同盟関係に対する大きな影響は避けられない。

沖縄選挙区の結果

翁長雄志・沖縄県知事が応援 安倍政権が支援
赤嶺政賢(共産)-当選 1区 国場幸之助(自民)
照屋寛徳(社民)-当選 2区 宮崎政久(自民)
玉城デニー(生活)-当選 3区 比嘉奈津美(自民)
仲里利信(無所属)-当選 4区 西銘恒三郎(自民)

注)自民党の国場、宮崎、比嘉、西銘の4氏は比例で当選。

2015年は戦後70年にあたる。長い米国による占領下時代、復帰後の日本の安全保障政策における戦略的基地化の中で、沖縄県民は保革共存で、「オール沖縄」の“ノー”という意思を安倍政権に突き付けた。現在でも日本における米軍専用施設面積の73.9%が沖縄県内にある(ただし、三沢、横田、厚木、横須賀、岩国、佐世保など自衛隊との共用施設を除く。これらを含めると米軍使用施設の約22.6%になる)。

仲井真弘多(ひろかず)前県知事は既に、普天間基地の名護市辺野古への移設のための埋め立てを承認しており、法的には粛々と手続きが進められることになるだろう。しかし、今回の選挙結果はそれに大きな疑問符を付けた。実際に埋め立てができるかどうか、原発立地が住民の猛烈な反発で10年、20年にわたって進捗しない状況と酷似してくる可能性が強い。

一部には、「沖縄独立論」さえささやかれ始めている。その可能性は極めて薄いと思うが、昨今の沖縄情勢を見ていると、なぜか沖縄県が「中国に対する台湾」あるいは「中国内における香港」のように見えなくもない。予断を許さぬ状況だと言える。

日本政府は、沖縄問題をあまりにも情緒的に、場当たりで対応してきたのではないか。民主党・鳩山政権が「最低でも県外移設」とリップサービスしたことだけが、こじれの原因ではない。沖縄県の選挙結果はそのことを物語っている。

財政再建論議こそ次なる課題

選挙の起点となった消費税増税を2017年4月まで1年半延期する決定は、アベノミクス推進のためにはやむを得ない決定だった。

しかし、この決定は、財政再建問題の深刻さを今後、再び大きく前面に押し出すことになるだろう。日本の国債などの公債残高は既に、国内総生産(GDP)比220%という危機的な状況にある。消費税増税を1年半先送りするだけで、予定していた計画より約7.5兆円の税収減を覚悟しなければならない。いくら景気が回復したとしても、これだけの規模の税収が一気に増えるとは思われない。社会保障政策と密接にかかわるだけに、財政問題の処理は早ければ早いほど良い。

少なくとも、自民、公明両党は10%への増税の際、「軽減税率」を導入することで合意しているが、調整は簡単ではないだろう。自民党内には財政規律派が多く、財務省の力も侮れない。安倍首相は総選挙前の8党首討論会で、「大義なき総選挙」と質問されて、財務省や自民党増税派の封じ込めのための解散だったことを“告白”している。

軽減税率問題では、公明党が連立与党内の「野党」的立場に立つことは避けられないだろう。すでに、自公協力は15年を迎え、今は蜜月関係にある。しかし、財政再建という困難な問題を目の前にしたとき、自公の協力関係が不変だとは思われない。

カバー写真=開票会場で会見する安倍首相(提供・時事)

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