縮む日本の民主主義—地方議会の再生に向けて

社会

日本の高齢化と人口減少が進む中、過疎に悩む多くの地方自治体で、議員の「なり手不足」の問題が顕在化している。今年3月、政府が設置した専門家研究会は、町村議会の在り方を多様化するよう提案した。提案は待ち望まれていたものだが、あくまで第一歩にすぎない。草の根の民主主義を復活させるには、さらなる抜本的な変革が必要だ。

危機にある地方議会

日本では政治家が不足している。小規模な市町村の多くでは住民の高齢化と人口減を背景に、地方選挙に立候補する人が減り続けている。直近の2015年統一地方選挙では、全ての町村議会議員のうち、約5分の1(21.8%)の議員が無投票で当選した。また、小規模町村の首長選挙では、43.4%が対抗馬のいないまま無投票で決着した。こうした政治的競争の欠如は、議会構成の多様性のなさをさらに高める。町村議会議員は平均年齢が60歳以上で、その90%が男性である。なり手がいないため、高知県大川村は昨年、議会を廃止して村総会の設置を検討することを明らかにした。

地方における民主主義が十分に機能しない状況下で、日本の各自治体は行政運営をより効率化するよう、強い圧力にさらされている。2000年以降、分権化改革により地方政府の権限・役割が拡大する一方、中央からの財政支援は減っている。高齢化で社会福祉コストが上昇する一方、税収は減少している。社会に大きなインパクトを与えた2014年のある報告は、日本の自治体の半分に当たる896自治体が今後数十年のうちに過疎化によって「消滅」するリスクがあると警告した。

こうした高齢化自治体を再活性化するため、安倍晋三首相率いる政府は「地方創生」のスローガンの下、各地域でイノベーションと自立に向けた取り組みを拡大するよう呼びかけている。自治体は成長をもたらし、住民を引き寄せる独自の計画を考案するよう求められ、その取り組み度合いが中央政府の交付金継続と直結している。

税収をめぐる競争は「ふるさと納税」制度の拡大によって、さらに激化した。この制度は自分が選んだ自治体に寄付をした人々の税を控除するもので、自治体は地元の牛肉やクラフトビールといった豪華な返礼品を提供することで、寄付金集め競争を繰り広げている。2017年には、前年の倍となる過去最多の250万人がこの制度を利用した。

地方政府、とりわけ最も小規模な自治体はこうして、人口と経済の縮小、人的・物的・財政的資源をめぐる競争、自治拡大という、自らの存続にかかわる複数の難しい課題に直面している。そして、その自治体をリードしていくべき首長や議員の「なり手不足」が、その困難を倍加させている。その意味で、地方民主主義プロセスの改革をめぐる議論の必要性は緊急性を増している。

「専門型」と「拡大型」:2つの選択肢

総務省が設置した専門家研究会が今年、地方議会の立候補者を増やし、多様性を高めるための二つの提案をした。

最初の案は議員を少数(5人程度)にし、議員報酬を増やし、フルタイム政治家による専門型議会を目指す。この案ではまた、多様な民意を反映できるよう、無作為で選ばれた住民による審議機関が設けられ、重要な議案について(議決権はないものの)議員とともに議論する。

もう一つの案は政治参画の障壁を下げ、議会の定数を増やすことを目指す。議員の報酬は少なく抑える一方、日中に仕事を持っている人々も参画できるように、議会は夜間や週末に開く。この案では、他の自治体の公務員や、地元の町、村から事業を請け負っている経営者なども議員となることが許される。利益相反を防止するため、こうした拡大型議会は契約締結や財産処分については議決権を持たないようにする。

これらの提案は待望されている変化へのきっかけとなるものの、対処すべきいくつかの重要な問題が未解決のまま残っている。

それでも残る首長との権力不均衡

日本の地方行政制度では、地方議会は主として、行政当局の予算案や政策決定を監視、チェックする一方、自ら政策措置を提案するものとされている。問題は「専門型」と「拡大型」のいずれが活力のある議会をもたらすかだ。地方政治の現在の権力分配枠組みでは、首長だけが予算編成の権限を持ち、政策を立案、遂行するために役所の圧倒的に大きな資源を使える。この構造的不均衡は、二つの案のいずれにおいても拡大する可能性がある。

最初の専門型議会案は理論上、個々の議員が行政の監視に多くの時間をかけることを可能にするものの、この少数の議員グループが、首長と緊密な同盟関係を結んでしまう可能性も同じようにある。彼らは独立した監視機関としてより、非常に強力な首長を支えるアドバイザーとして行動するかもしれない。

また、この案で設置がうたわれている審議機関に議員が耳を傾ける保証もない。審議機関は拒否権を持たない。対話集会や住民投票など、住民の意見を聞く日本の多くの制度と同様、多様な意見は表明されるかもしれないが、必ずしも聞き届けられるとは限らない。

パートタイム議員による拡大型議会という第二の案は多様性を高めるかもしれないが、十分な機能を果たせなくなる恐れがある。立法機関は大きくなればなるほど、力が弱まる傾向がある。とりわけ、この案で恐らく想定されているように、組織に属さない無所属議員で構成される場合はなおさらだ。雑多な多数のパートタイム議員たちの間で、必要な連携や人的・物的・財政的資源のプールが行われなければ、行政の監視と政策イノベーションを実現するのは難しい。拡大型議会の権限が縮小されることを考えると、権力バランスはさらに首長の方に傾くだろう。

さらに、いずれの案においても議員を選ぶ細かいルールは明らかにされていない。現在のような自治体全体を一つの選挙区として複数の議員を選ぶ大選挙区制度では、議員は狭い地域の意見を代表することに力を集中し、自治体全体にとって有益な政策問題に注意を向けない恐れがある。一方で、小選挙区を新たに導入した場合、地方議会においてしばしば唯一の反対派となっている共産党などの小政党候補には不利をもたらしそうだ。

最後に各地方自治体がそもそも、それらを採用するかどうかという問題がある。自治体は二つの議会のあり方のいずれかを選ぶか、あるいは現状を維持するか。既存の議会が大幅な規模縮小や競争拡大、報酬引き下げに同意するとは考えにくい。制度的惰性の力は強い。今回の報告が公表された直後から、市町村議会の全国団体が報告に強く反発していることが明らかになっている。この種の改革が経験した参考事例として、英イングランドで地方自治体に首長を直接選出するチャンスが与えられた際、ごく一部の自治体しかそれを採用しなかったことがある。

さらに重要な点として、今回の案は982の町村議会(人口で全国のわずか10%程度)を対象としたもので、残る813の市議会(および都道府県議会)の地方民主主義をどう立て直すかという、より大きな問題は手つかずのままだ。小規模自治体と同様、これら比較的大きな自治体の多くも、圧倒的優位にある首長、選挙における競争の不足、多様性の欠如によって活力を失った議会という問題を抱えている。

国民は長い間、地方議会の仕事ぶりに懐疑的な目を向けてきた。言論NPOや早稲田大学など多数の調査で、有権者は地方議会が自らの役割を果たせず、能力と多様性に欠け、何をしているかを住民に十分伝えていないと感じていることが明らかになっている。地方議会選挙の投票率は50%以下に急落、2014年衆議院選挙の52%さえ下回った。議会の規模縮小と報酬引き下げを求める声も高まっている。

なぜ政党中心ではないのか

こうした基本的に見通しの暗い状況の中で、一つの希望が持てる動きは、地方レベルでの健全な政党間競争の必要と役割について、より真剣な議論が出てきていることかもしれない。

日本の地方政治の大きな特徴は政党同士の競争が比較的に弱く、それに伴って、政策綱領の選択肢と有権者に対するアカウンタビリティが不足していることにある。町村レベルでは議員の88%が無所属(ただ、その多くは自民党系の保守派)で、市議会でも63%が無所属となっている。大都市の議員の多くは党の候補として出馬するにしても、彼らは選挙や議会で一つの党として、いつも効果的に連携して動くわけではない。これらの候補は同じ党の看板を掲げているにもかかわらず、自治体全体のための統一綱領を提示するのではなく、基本的に自分の個人的資質と特定の狭い支持層との結び付きによって票を得ている。

その元凶は無秩序な選挙制度にある。現在の制度では、地方自治体は2議席から20議席までのさまざまな規模の複数議席選挙区か、全体を単一の選挙区とする大選挙区(そうした選挙区で最大のものは東京の世田谷区で、50議席を数える)のいずれかに分けられる。有権者は多くの候補の中から1人を選び、1票を投じる。そうした複数議席選挙区は1996年に廃止されるまで、日本の衆院選でも採用されてきた。だが、この制度は汚職につながりやすく、個人中心の選挙が派閥をもたらし、過度の利益誘導型支出や戦後の政権交代のなさの原因になっていると批判された。

専門家たちは、同様の欠点を持つ地方の選挙制度の在り方を以前から指摘してきたが、中央省庁がようやく彼らの主張に耳を傾けようとしていることは朗報と言える。2017年7月、政府が設置した地方議会に関する別の研究会は、比較的大きな都道府県や大都市について、比例代表制の採用を提案した。

比例代表制のメリット

比例代表制の採用は政党が政策を掲げて選挙運動を行い、政策を策定、立法化することにつながる。政党同士の競争が明確になることで、たとえ対立による政治の行き詰まりのリスクがあるにせよ、行政をよりしっかり監視するようになるだろう。個人が独自に選挙運動を展開するのに比べ、選挙運動が連携して行われるため、選挙コストも下がるだろう。有権者は何十人もいる候補者一人ひとりのバックグラウンドを比較する必要がなく、はるかに容易に自らの投票行動を選択することができる。

議員の側も、政策の策定、首長を監視する人的・物的・財政的資源を同じ党のメンバー間で分担することができ、議会はより活性化するだろう。自治体をまたいだ党の結び付き、中央の党組織からの支援もまた、選挙運動および政策ノウハウにおいてスケールメリットをもたらすだろう。

政党政治はもちろん、とりわけ地方レベルでは、リスクなしというわけにはいかない。地方政治が全国組織に従属し、地方の自治を損ねるとの批判もある。

総務省の研究会では議論されなかったものの、地方政党の自立を確保するため、地方政党助成金制度を導入してもいい。地方議会議員には既に、目に見える結果をほとんど出していないもかかわらず、政策調査のための補助金が支給されている。これらを新たな政党助成金の原資とすべきだ。

地方でも必要な政治的競争

地方レベルでの政党政治推進がもたらし得るもう一つの利点は、新党や野党が社会によりしっかり根を下ろすのを容易にするかもしれないことだ。野党勢力はこれまで、地方の自民党と同党系の保守派の支配に対し、地方にプレゼンスを確立することができないできた。全国レベルと結びついた地方での活発な競争は、全国的な政党間競争の強化に貢献するだろう。

地方選挙制度に関する研究会報告は、残念なことに、政党政治は町村、さらには小規模の市にさえ、おそらく適していないのではないかとの見解を示している。

つまり、政党は「対立的」で、社会的分断と利益衝突がほとんどない地方の自治体には適していないというのである。だが、われわれはこうした想定を見直してみる必要がある。

最も小規模な村でさえ、自らの存続にかかわる決定的選択に直面している。そうした選択を迫られる際には、政党によって組織され、持続的に展開される政治的競争が役立つのではないだろうか。また、政党政治は健全な地方行政にとって逆効果だという想定もすべきではない。北欧諸国ではすべてのレベルの選挙で比例代表制を導入し、地方行政は十分に機能している。これらモデルとなる民主主義国では、最も小規模なコミュニティでも政党間競争が代表(議員)選出の多様性と高い参画率をもたらしている。

役割を果たせる改革に向けて

日本は1990年代、政治をつくり変えようとする一連の取り組み(選挙制度改革から分権化まで)を行ったが、その結果は功罪半ばだった。日本の政治は過去20年間、あまりにいじくり回しすぎて劣化したという人々もいる。

この間に学んだ苦い教訓は、ばらばらの措置では、政治制度を機能させるのに役に立たないばかりか、むしろ害になるということだ。

選挙制度は衆議院では変更されたが、参議院や地方議会では以前のままで、安定した野党勢力の形成を阻んでいる。分権化は実行されたものの、財源の移譲は不十分で、地域格差の拡大をもたらしている。首相と内閣の役割は強まったが、参議院の権限は手付かずで、「逆転国会」では審議の行き詰まりにつながった。こうした過去の経験で欠けていたのは、これらすべての制度がいかに密接に関連して機能するのかの十分な理解と、包括的改革を実施するための政治的意思だった。

地方議会改革に万能薬はない。だが、議会をやみくもに拡大することで、十分な数の候補者と多様性を確保することばかりを重視するのは、もっと重く考えるべき構造的な諸問題を無視することになる。

今回の総務省研究会が提唱しているように、複数の改革の選択肢の中から自治体に選ばせるのは、民主的なやり方に見えるかもしれない。だが、日本の各地で別々のルールがスピードもさまざまに導入されれば、制度的な不整合を引き起こす恐れがある。どのような道を選ぶにせよ、国民はいかなる包括的改革が必要かについて、もっと十分に情報を与えられ、納得する必要がある。

原文英語。バナー写真:高知県大川村の議会維持対策を話し合う村と県の幹部ら=2017年12月1日。人口400人の同村では同年6月、議員のなり手不足の不安から、議会に代わる「村総会」の設置検討を村長が表明した (時事)

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