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縮む日本の民主主義—地方議会の再生に向けて

ヒジノ・ケン ビクター レオナード【Profile】

[2018.05.25]

日本の高齢化と人口減少が進む中、過疎に悩む多くの地方自治体で、議員の「なり手不足」の問題が顕在化している。今年3月、政府が設置した専門家研究会は、町村議会の在り方を多様化するよう提案した。提案は待ち望まれていたものだが、あくまで第一歩にすぎない。草の根の民主主義を復活させるには、さらなる抜本的な変革が必要だ。

危機にある地方議会

日本では政治家が不足している。小規模な市町村の多くでは住民の高齢化と人口減を背景に、地方選挙に立候補する人が減り続けている。直近の2015年統一地方選挙では、全ての町村議会議員のうち、約5分の1(21.8%)の議員が無投票で当選した。また、小規模町村の首長選挙では、43.4%が対抗馬のいないまま無投票で決着した。こうした政治的競争の欠如は、議会構成の多様性のなさをさらに高める。町村議会議員は平均年齢が60歳以上で、その90%が男性である。なり手がいないため、高知県大川村は昨年、議会を廃止して村総会の設置を検討することを明らかにした。

地方における民主主義が十分に機能しない状況下で、日本の各自治体は行政運営をより効率化するよう、強い圧力にさらされている。2000年以降、分権化改革により地方政府の権限・役割が拡大する一方、中央からの財政支援は減っている。高齢化で社会福祉コストが上昇する一方、税収は減少している。社会に大きなインパクトを与えた2014年のある報告は、日本の自治体の半分に当たる896自治体が今後数十年のうちに過疎化によって「消滅」するリスクがあると警告した。

こうした高齢化自治体を再活性化するため、安倍晋三首相率いる政府は「地方創生」のスローガンの下、各地域でイノベーションと自立に向けた取り組みを拡大するよう呼びかけている。自治体は成長をもたらし、住民を引き寄せる独自の計画を考案するよう求められ、その取り組み度合いが中央政府の交付金継続と直結している。

税収をめぐる競争は「ふるさと納税」制度の拡大によって、さらに激化した。この制度は自分が選んだ自治体に寄付をした人々の税を控除するもので、自治体は地元の牛肉やクラフトビールといった豪華な返礼品を提供することで、寄付金集め競争を繰り広げている。2017年には、前年の倍となる過去最多の250万人がこの制度を利用した。

地方政府、とりわけ最も小規模な自治体はこうして、人口と経済の縮小、人的・物的・財政的資源をめぐる競争、自治拡大という、自らの存続にかかわる複数の難しい課題に直面している。そして、その自治体をリードしていくべき首長や議員の「なり手不足」が、その困難を倍加させている。その意味で、地方民主主義プロセスの改革をめぐる議論の必要性は緊急性を増している。

「専門型」と「拡大型」:2つの選択肢

総務省が設置した専門家研究会が今年、地方議会の立候補者を増やし、多様性を高めるための二つの提案をした。

最初の案は議員を少数(5人程度)にし、議員報酬を増やし、フルタイム政治家による専門型議会を目指す。この案ではまた、多様な民意を反映できるよう、無作為で選ばれた住民による審議機関が設けられ、重要な議案について(議決権はないものの)議員とともに議論する。

もう一つの案は政治参画の障壁を下げ、議会の定数を増やすことを目指す。議員の報酬は少なく抑える一方、日中に仕事を持っている人々も参画できるように、議会は夜間や週末に開く。この案では、他の自治体の公務員や、地元の町、村から事業を請け負っている経営者なども議員となることが許される。利益相反を防止するため、こうした拡大型議会は契約締結や財産処分については議決権を持たないようにする。

これらの提案は待望されている変化へのきっかけとなるものの、対処すべきいくつかの重要な問題が未解決のまま残っている。

それでも残る首長との権力不均衡

日本の地方行政制度では、地方議会は主として、行政当局の予算案や政策決定を監視、チェックする一方、自ら政策措置を提案するものとされている。問題は「専門型」と「拡大型」のいずれが活力のある議会をもたらすかだ。地方政治の現在の権力分配枠組みでは、首長だけが予算編成の権限を持ち、政策を立案、遂行するために役所の圧倒的に大きな資源を使える。この構造的不均衡は、二つの案のいずれにおいても拡大する可能性がある。

最初の専門型議会案は理論上、個々の議員が行政の監視に多くの時間をかけることを可能にするものの、この少数の議員グループが、首長と緊密な同盟関係を結んでしまう可能性も同じようにある。彼らは独立した監視機関としてより、非常に強力な首長を支えるアドバイザーとして行動するかもしれない。

また、この案で設置がうたわれている審議機関に議員が耳を傾ける保証もない。審議機関は拒否権を持たない。対話集会や住民投票など、住民の意見を聞く日本の多くの制度と同様、多様な意見は表明されるかもしれないが、必ずしも聞き届けられるとは限らない。

パートタイム議員による拡大型議会という第二の案は多様性を高めるかもしれないが、十分な機能を果たせなくなる恐れがある。立法機関は大きくなればなるほど、力が弱まる傾向がある。とりわけ、この案で恐らく想定されているように、組織に属さない無所属議員で構成される場合はなおさらだ。雑多な多数のパートタイム議員たちの間で、必要な連携や人的・物的・財政的資源のプールが行われなければ、行政の監視と政策イノベーションを実現するのは難しい。拡大型議会の権限が縮小されることを考えると、権力バランスはさらに首長の方に傾くだろう。

さらに、いずれの案においても議員を選ぶ細かいルールは明らかにされていない。現在のような自治体全体を一つの選挙区として複数の議員を選ぶ大選挙区制度では、議員は狭い地域の意見を代表することに力を集中し、自治体全体にとって有益な政策問題に注意を向けない恐れがある。一方で、小選挙区を新たに導入した場合、地方議会においてしばしば唯一の反対派となっている共産党などの小政党候補には不利をもたらしそうだ。

最後に各地方自治体がそもそも、それらを採用するかどうかという問題がある。自治体は二つの議会のあり方のいずれかを選ぶか、あるいは現状を維持するか。既存の議会が大幅な規模縮小や競争拡大、報酬引き下げに同意するとは考えにくい。制度的惰性の力は強い。今回の報告が公表された直後から、市町村議会の全国団体が報告に強く反発していることが明らかになっている。この種の改革が経験した参考事例として、英イングランドで地方自治体に首長を直接選出するチャンスが与えられた際、ごく一部の自治体しかそれを採用しなかったことがある。

さらに重要な点として、今回の案は982の町村議会(人口で全国のわずか10%程度)を対象としたもので、残る813の市議会(および都道府県議会)の地方民主主義をどう立て直すかという、より大きな問題は手つかずのままだ。小規模自治体と同様、これら比較的大きな自治体の多くも、圧倒的優位にある首長、選挙における競争の不足、多様性の欠如によって活力を失った議会という問題を抱えている。

国民は長い間、地方議会の仕事ぶりに懐疑的な目を向けてきた。言論NPOや早稲田大学など多数の調査で、有権者は地方議会が自らの役割を果たせず、能力と多様性に欠け、何をしているかを住民に十分伝えていないと感じていることが明らかになっている。地方議会選挙の投票率は50%以下に急落、2014年衆議院選挙の52%さえ下回った。議会の規模縮小と報酬引き下げを求める声も高まっている。

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  • [2018.05.25]

京都大学法学部准教授。専門は政党政治、地方自治と民主主義。1977年生まれ。米ウェズリアン大学卒業後、英フィナンシャルタイムズ紙東京支局特派員などを経験。その後英ケンブリッジ大学大学院東アジア研究科で学び、日本研究で博士号を取得した。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科准教授を経て2014年から現職。著書に『日本のローカルデモクラシー』(芦書房、2015年)、"Local Politics and National Policy: Multilevel Conflicts in Japan and Beyond." (Routledge, 2017).

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