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リーマン・ショックの再来はあるか
忘れた頃にやって来る国際金融危機:渡辺・国際通貨研究所理事長に聞く
[2018.08.28]

2008年9月15日、米リーマン・ブラザーズの経営破たんを機に世界の金融市場は麻痺状態に陥った。あれから10年。同じようなパニックに襲われる恐れはないのか。国際通貨金融問題の当局者でもあった渡辺博史氏に聞いた。

渡辺 博史

渡辺 博史WATANABE Hiroshi公益財団法人国際通貨研究所理事長。東大法卒。1972年大蔵省(現財務省)入省。宮沢喜一蔵相秘書官。為替政策、国際金融制度、途上国支援などの国際関係業務を所管する国際局長、財務官(2004~07年)を務め、07年退官。日本政策金融公庫副総裁、国際協力銀行総裁などを歴任し、16年10月より現職。

繰り返される金融危機

国際金融危機は周期的に繰り返されるという認識を常に新たにしなければならない。油断したときに次の危機は迫ってくる。リスクはどこにあるのか、どうすれば防止できるのか、世界の金融当局は常に緊張感をもって監視しなければならない。

リーマン・ショック級の国際金融危機は再発するものだと常に心掛けておかなければならない。危機は起きないと錯覚した途端に次のほころびが生まれくる。

実際、国際金融危機は定期的に起こっている。1987年10月19日のブラックマンデーでは、ニューヨーク証券取引所で株が大暴落した。97年のアジア通貨危機は、タイ、インドネシア、韓国がIMFの管理下に置かれただけでなく、日本の98年の金融危機を誘発し、そして、ロシア、ブラジルの通貨危機へと波及した。そして、米国のサブプライム住宅ローンバブルの崩壊がきっかけとなって、2008年にリーマン・ショックが起きた。これまで、おおよそ10年ごとに危機が起こっている。この周期性を軽んじてはいけない。

ある社会心理学者から10年の周期に合理性がある、と聞いたことがある。それは金融の世界に限らず、人間は悪い記憶は早く忘れたがる傾向があるため、その記憶は5年間程度しか残らない。一方、良い記憶は、もっと長く10年間程度保持される。危機後の5年程度は「あの時、ひどいことがあった」と自粛するが、それから次第に警戒感が失われ、再びリスクテークに走るという説明だった。

しかも金融危機の規模は、次第に大きくなる傾向がある。世界の国内総生産(GDP)の伸びをはるかに上回るペースで世界の金融総資産や取引高は、幾何級数的に増大している。GDPの伸びとのギャップからだけでも、金融市場で危機が起こり易くなっていることを説明することは可能だろう。

金融監督当局・中央銀行は、常に市場のオーバーシュートやその原因を点検しなければならない。ある市場に規制を掛けたからといって、市場がバブル化する可能性を排除したことにはならないことにも留意しなければならない。

そのいい例が仮想通貨に対する規制だ。金融庁が資金決済法を改正し、仮想通貨を扱う業者を資金決済業者として監督するという体制を作った。世界で初めて、日本が法律上、仮想通貨業者を登録し、仮想通貨を定義した。ところが、これにより当局が認知したという誤った情報を世間に広めてしまった。

今年、2018年は前回の金融危機から10年の節目だ。しかし、金融を発火点に世界経済が悪くなる兆候はみえない。なぜか。欧州では11年のギリシア財政危機や欧州で最大級の銀行の経営危機問題があり、緊張感が持続している。いわば悪い記憶が消えないまま現在に至っているわけだ。このように悪い記憶を覚醒させるような問題が起こっている時は、世界的な危機は生じない。

次の危機の芽は仮想通貨

10年前の2008年に世界の国際金融の専門家の間で10年ごとに危機が起こるなら、2018年に起こる危機の対象は何かと議論したことがある。その時の結論はカーボントレード(二酸化炭素排出権の取引)のバブル化だった。現在、幸いにしてこの取引はバブル化していない。

その最大の理由は2011年の東日本大震災にある。国内の全ての原子力発電所の発電を停止させた地震がなかったならば、当時、欧州で猛烈な取引が始まっていたカーボントレードが日本でも起こり、米国でも過熱しただろう。米国は供給、需要の25%以上のシェアを占めている。トランプ大統領が、地球温暖化対策の国際的枠組みであるCOP21協定から離脱を宣言した瞬間、25%分の欠落が生じ、取引は暴落に暴落を重ねる大混乱を招いたことだっただろう。

それでは、10年後の2028年に何が起こるのだろうか。まだ、本格的に分析してはいないが、その候補として仮想通貨が挙げられる。仮想通貨の価格は乱高下しており、安定した決済手段としては使えるものではない。投機商品として位置付けるなら問題はないが、少なくとも金融システムの中に取り入れるのは危険この上ない。

金融機関に対する保有制限は、必須と考えている。危機の芽はあらかじめ摘んでしまわなければならない。個人、あるいは企業が保有・売買するだけなら何ら問題は生じない。しかし、金融機関が保有していると当日の資金ショートが起こる可能性を排除することができない。

現在、バーチャルカレンシー(仮想通貨)、あるいはクリプトカレンシー(暗号通貨)という用語が使用されているが、すでに20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では「カレンシー」という用語の使用をやめようという方針案が示されている。カレンシーという言葉が人々に信頼感を与え過ぎるため、クリプトアセット(暗号資産)と名前を変えることが、日本が議長国となる次のG20の課題となっている。

仮想通貨は危険なので全面禁止すべきだという意見もあるが、私自身は、禁止する必要はないと考えている。新たに出てくる仮想通貨を全て禁止することができない以上、取引においてリスクのある資産であることを認識させるような仕組みづくりを優先して整備すべきだろう。

いま世界のどこにリスクがあるか

金融システムが脆弱(ぜいじゃく)で、かつ金融資産が拡大し続けている国の金融危機リスクが高いと考えている。典型的なのが中国とインドだ。この両国の脆弱性はなかなか改善できないとみている。危機が生じたときに「止めるシステム」が存在しないという構造的な欠陥がある。2050年ごろに米国と中国とインドの3か国合計のGDPは世界の35~40%を占めるとみられている。その時までに今の脆弱なシステムを抱えている中国とインドが危機を乗り越えているとみるのは楽観的に過ぎるだろう。加えて、米国もトランプ大統領のような人物が2050年に再び現れないとは限らない。

中国、インドの最大の問題は国のGDPは大きくなるが、1人当たりGDPが少ないという点にある。1人当たりGDPが多い国は、1人当たり保有金融資産が多い。金融ショックへの耐性は明らかに1人当たり金融資産が多い国の方が強い。1人当たり金融資産が少ないと価格変動が個人の消費を直撃し、生活基盤を脅かしてしまう。最近の南米の高インフレと社会の混乱をみれば明らかだ。

トランプ大統領のリスクを防ぐのは、米国人のグリーディ(貪欲)精神だ。グリーディだからこそ、数字の上では極めて合理的な判断をする。トランプ大統領の政策は、短期的にはともかく長期的には米国人が損を被ると国民は分かり始めている。グリーディな経済界が秋の中間選挙の後からトランプ大統領にブレーキを掛け始めるとみている。

中国の隠れ不良債権は膨大

中国が抱える金融リスクは、何といっても多額の不良債権だ。銀行の貸出残高は2363兆円(143.7兆元。オンバランスの人民元貸出と外貨貸出の合計。2017年末時点)を超えている。また、シャドーバンキング残高の統計はないが、両者を合わせると少なくとも民間信用残高は2900~3000兆円を超えると推計される。

中国の銀行監督委員会が公表する銀行貸出の不良債権比率は1%台半ばだが、日本の金融庁の自己査定基準に正確に対応させれば、少なくともその10倍以上はあるとみている。日本の当局が公表した不良債権額は90年代の前半に3兆円だったが、結果的に100兆円を超えた。当局の公表の数十倍にも膨れ上がることもありうるとみるのは半ば常識と言えよう。

仮に銀行貸出のうち不良債権比率を公表数字の10倍の10%台半ばとすると、不良債権額は350兆円を超える。中国のGDPは81.5兆元(2017年末時点)、円ベースでは約1335兆円だが、GDP比でみると26%にもなる。日本も500兆円のGDPに対して不良債権は100兆円だったので20%程度だった。中国ではそれを超える可能性がある。これにシャドーバンキングの焦げ付きを加えると、その処理のインパクトは計り知れない。信用収縮は想像を超えるものとなるだろう。

さらに、中国にとって頭の痛い課題がある。それは中国政府が2016年、懸念材料として挙げていた地方政府の赤字問題だ。33の特別市と省のうち、10の地方政府が債務超過に陥っているという。地方財政が赤字化した原因は銀行とともに進めた膨大なインフラ整備投資とその資金調達にある。このため、赤字解消は銀行の不良債権処理と同時に進める必要があり、その処理は複雑化している。

銀行の不良債権の処理と地方政府の財政処理、この2つが中国にとつて最大の課題であり、その影響は世界の金融市場に跳ね返る可能性がある。処理の仕方によっては、中国の米国債売却から金利が上昇し、中国国内の金融収縮によって世界の金融がタイト化するという悪いシナリオとなりかねない。2025年ごろから黄色信号がともるとみている。

取材・構成 : ニッポンドットコム シニアエディター桑原 稔

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