不安抱え安倍首相3期目へ:来夏の参院選が関門

政治・外交

自民党総裁選に勝って安倍首相は、最後の任期3年に突入した。残された課題は、レームダック化する恐れは、そしてポスト安倍は―。時事通信解説委員が展望する。

第4次安倍改造内閣がスタートした。9月の自民党総裁選で連続3選を果たした安倍晋三首相は、戦前も含めた歴代最長の首相在職期間を視野に入れ、山積する内政・外交の課題に取り組む。ただ、総裁選の地方票で伸び悩み、直後に行われた沖縄県知事選では政権が全面支援した候補が惨敗した。来年最大の政治決戦となる夏の参院選に向け、「選挙の顔」として陰りも見える中で求心力を維持していくのは容易ではない。内閣改造では、総裁選で首相を支持した各派閥から入閣待機組を大量に起用し、失言などのリスクを抱え込んだ。野党側はくみしやすしと手ぐすねを引いており、10月下旬に召集予定の臨時国会が首相にはいきなり正念場となる。

閉塞感から石破氏が善戦

石破茂元幹事長との一騎打ちとなった総裁選で、首相陣営からは当初、トリプルスコアでの圧勝を狙う強気の声が上がっていた。現職首相に挑戦状をたたきつけた石破氏の政治力をそぎ、自民党内の「安倍1強」状態を維持したまま、自衛隊明記を柱とする憲法改正への取り組みを加速させるためだ。

結果は首相553票に対し石破氏254票。国会議員票では首相が82%を得票したものの、地方票では55%と伸び悩んだ。石破氏の得票数は、陣営が目標としていた200票を大きく超え、自民党内では「大善戦」との見方が広がった。都道府県別にみると、地方票で石破氏が首相を上回ったのは地元の鳥取など10県。地方票でも石破氏を圧倒して3期目の政権基盤を磐石にしようとした首相陣営のもくろみは見事に外れた。

完敗なら今後の政治生命にも響きかねないとささやかれていただけに、石破氏は「ポスト安倍」候補として一定の存在感を示した形だ。もっとも、石破氏の善戦が同氏の地力によるものとみるのは早計だろう。森友学園や加計学園をめぐる問題で首相が説明を尽くしていないとの批判は、各種世論調査でもなお根強い。加えて、総裁選期間中には石破派の斎藤健農水相(当時)が首相支持の議員から閣僚辞任を迫られたと明かしたことに象徴されるように、首相陣営による締め付けがクローズアップされた。首相の政治姿勢や、安倍1強の下で党内に漂う閉塞(へいそく)感への不満が、今回の投票結果に表れたというのが冷静な見方だ。

与党惨敗に終わった沖縄知事選

9月30日投開票された沖縄県知事選は、最後の任期3年を船出したばかりの首相の出はなをくじく結果となった。

米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設を推進する政権が全面支援した候補が、立憲民主党、共産党など国政野党の支援を受けた新人で、県内移設に反対する前自由党衆院議員の玉城デニー氏に8万票の大差を付けられて敗北。 政権は表向き、敗因を「候補の知名度不足」と説明する。だが、選挙戦で菅義偉官房長官や自民党の二階俊博幹事長ら政権幹部が何度も現地を訪れててこ入れしたほか、公明党も支持母体の創価学会が組織をフル回転し、総力戦で臨んだ。

そのあげくの惨敗だけに、与党内には「ダメージは大きい」(閣僚経験者)と動揺が広がった。知事選と同様、参院選の1人区で野党が候補を一本化して対抗すれば、自民党の苦戦は少なからぬ選挙区で予想される。

「沖縄ショック」は、直後の10月2日に行われた内閣改造・自民党役員人事にも影響を及ぼすことになる。

論功行賞人事で失言リスク

首相は人事について「しっかりとした土台の上に、多くの皆さんに活躍のチャンスをつくる」と説明し、第2次安倍内閣発足時から交代していない麻生太郎副総理兼財務相や菅官房長官の留任を改造前から明言していた。一方で、当選回数を重ねながら閣僚経験のない自民党内の「待機組」処遇に関しては、国会での答弁能力などを重視して慎重に人選する構えだったという。起用した閣僚に失言や政治資金などの問題が持ち上がり、政権の足を引っ張る事態となることを懸念、手堅い布陣で参院選までの国会を無事に乗り切る狙いからだった。

しかし、改造内閣の顔触れからは、総裁選で首相を支持した各派への論功行賞の色合いがにじむ。麻生派4人、首相の出身派閥である細田派と二階派、岸田派は各3人、自主投票となった竹下派からは衆院側で首相を支持し留任した茂木敏充経済再生担当相ら2人がそれぞれ起用され、主流派閥に強く配慮する人事となった。首相は石破派からも当選3回の山下貴司衆院議員を法相に抜てきし、党内融和も演出。派閥均衡型となったのは、沖縄県知事選の惨敗で参院選への不安が与党内で増幅する中、ポストを求める各派の意向に逆らって「適材適所」の人事を貫けば、首相自身の求心力が低下しかねないことを恐れたためだ。

だが、派閥への配慮は、同時にリスクも抱えたことを意味する。今回、初入閣は安倍政権で最多の12人で、そのうち山下法相以外の11人にはベテランの待機組が目立つ。初入閣の一人、柴山昌彦文部科学相は就任記者会見で、教育勅語を現代的にアレンジすることは「検討に値する」と発言し、早くも釈明に追われる事態に。桜田義孝五輪担当相も、原発事故をめぐる過去の自身の発言について会見で陳謝した。

内閣改造を「見飽きた顔と見慣れない顔をかき集めたインパクトのない布陣」(小池晃共産党書記局長)と酷評する野党側は、財務省の決裁文書改ざん問題で責任を問われながら続投した麻生氏のほか、答弁が不安視される初入閣組を国会論戦で徹底追及する方針。首相は改造内閣発足に伴う記者会見で「あすの時代を切り開く全員野球内閣」と胸を張ったが、与党内からは「予算委員会を乗り切れるのか」との声すら漏れている。

消費増税に懐疑的な見方も

首相は、残り任期3年の内政面での最重要課題に全世代型の社会保障制度改革を掲げ、「今後3年間で成し遂げる」と強調する。65歳以上の継続雇用に向けた制度改正が柱で、政府は2019年夏に3カ年の工程表を閣議決定する方針。雇用制度を含む社会保障改革はアベノミクスの三本の矢のうち、成果が乏しいと指摘される成長戦略に位置付けられる。

ただ、異次元の金融緩和は確かに円安・株高をもたらしたものの、2%の物価上昇目標は達成されず、デフレ脱却を宣言できずにいる 。19年10月には消費税率10%への引き上げを控えるが、これまで2度にわたり延期した首相が予定通り増税するのかどうか、懐疑的な見方は現在も与党内にくすぶる。

「拉致」「北方領土」打開見通せず

外交面も不透明感が増している。首相はトランプ米大統領やプーチン・ロシア大統領との個人的信頼関係を基礎に、日米同盟の強化や北方領土問題の打開を目指してきた。

だが、トランプ政権は事実上の自由貿易協定(FTA)とも言われる物品貿易協定(TAG)交渉入りを日本にのませ、市場開放圧力を強める。プーチン氏は9月、首相も出席した国際会議の場で唐突に「年末までに前提条件なしで平和条約締結を」と提案。平和条約締結は北方四島の帰属問題解決が前提とする日本政府に、領土問題棚上げを示唆する発言で揺さぶりをかけた。安倍政権での解決を目指す北朝鮮による拉致問題も、首相は金正恩朝鮮労働党委員長とのトップ交渉による打開を探るが、現時点で北朝鮮側が応じる気配はない。

早期の改憲国会発議は困難か

首相は10月2日の会見で、臨時国会に自民党の憲法改正案提出を目指す意向を表明した。しかし、レガシーとして狙う改憲についても、公明党が「国会外で何か先行して持ち込むことは、憲法についてはあまりふさわしいやり方ではない」(山口那津男代表)と、自民党との事前協議を否定。このため首相は3日、臨時国会では自民党が3月にまとめた9条への自衛隊明記など4項目の条文案の「説明」にとどめる考えを示し、早くも後退を強いられた。

来年は統一地方選や参院選といった政治日程に加え、天皇陛下の退位-新天皇即位など皇室行事も控えることから、自民党側では参院選前の国会発議は困難との見方が拡大している。

ポスト安倍:キーワードは「世代交代」

今回の自民党役員人事では、首相が衆院当選6回の加藤勝信前厚生労働相を総務会長に抜てきしたことが党内の関心を集めている。加藤氏は竹下派ながら、首相の信頼が厚く、第2次安倍内閣発足以来、官房副長官や閣僚として重用され続けてきた。ポスト安倍候補には石破氏のほか、総裁選出馬を見送り首相支持に回った岸田文雄政調会長、改造で留任し、看板政策の全世代型社会保障改革担当も兼務することになった茂木氏らが挙げられるが、加藤氏はそこに割って入った形だ。首相が退任後も党内で影響力を保持するため、細田派ではない加藤氏をあえて総裁候補に育てようとしているとの見方も出ている。

もっとも、次の総裁選のキーワードが「世代交代」となるのは確実。その観点からは、今回、その動向が最後まで注目され、投票直前になって石破氏支持を明かした小泉進次郎衆院議員は、次期総裁選が3年後であれば、「本命」となる可能性が十分ある。昨年8月の就任以来、精力的に外国を飛び回り、得意の英語で各国外相らとの会談を重ねる河野太郎外相も、ポスト安倍への意欲を隠さない。

「終わりの始まりという感じだ」。政権浮揚に必ずしもつながらなかった今回の人事について、政府関係者からはこんな感想も漏れる。首相はあと3年、レームダック化を食い止め、後継候補への影響力を残しつつ有終の美を飾れるのか。参院選の戦いに全ては懸かっていると言える。

バナー写真:自民党総裁選挙で3選を果たし、一礼する安倍晋三首相(中央)=2018年9月20日、東京・永田町の同党本部(時事)

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