「亥年」の参院選、安倍首相は乗り切れるか:2019年政治展望

政治・外交

2019年最大の政治決戦、参院選の行方は? 憲法改正への動きはどうなっていくのか? ベテランの政治記者が解説する。

2019年は、参院選と統一地方選が12年に一度重なる「亥年」だ。自民党総裁の残り任期が3年を切り、最長でも21年9月までの在任となる安倍晋三首相は、悲願の憲法改正へ道筋を付けるとともに、戦後積み残されてきた北方領土問題や北朝鮮による拉致問題の解決を目指す。

重要課題に腰を据えて取り組むために不可欠な政権の求心力を首相は維持できるのか。全ては19年最大の政治決戦である参院選の行方に懸かっている。

2007年は歴史的惨敗

亥年の参院選は、直前の春に行われる統一地方選で地方議員や支持団体がフル回転する反動で選挙活動が鈍り、組織力に頼る自民党や公明党には不利と言われている。第1次安倍政権下で迎えた前回2007年の参院選で、自民党は年金記録漏れ問題などで世論の厳しい批判を浴び、37議席と惨敗。結党以来初めて参院第1党の座を失い、民主党(当時)を中心とする野党が参院で多数派となる「衆参ねじれ国会」が生まれた。安倍首相は自身の健康問題も重なり、2カ月後に退陣に追い込まれた。

参院議員の任期は6年。18年の通常国会では、参院定数(現在は242)を6増やす改正公職選挙法が成立した。参院は3年ごとに半数が改選されるため、19年の選挙では改選議席が従来の121から124に3増える。選挙後の参院定数は245(うち非改選121)で、過半数は123となる。自民党の現有議席は123(改選67、非改選56)で、単独過半数を何とか確保している。

今回改選を迎える議員が前回戦った13年の参院選は、自民党が現行制度で最多となる65議席を獲得して大勝。ねじれ国会が解消された。当時31あった改選数1のいわゆる「1人区」で、同党は29勝2敗と野党を圧倒した。

だが、安倍政権への追い風を背に大量当選を果たした当時と現在では、自民党を取り巻く空気は大きく変わった。最近の各種世論調査で内閣支持率は一時期より持ち直しているものの、森友学園や加計学園の問題などで首相に対する世論の視線は依然厳しく、不支持率と拮抗している調査も散見される。このため19年参院選への自民党の危機感は強く、現有議席から一定程度は減らすとの見方が党内では支配的だ。自民、公明の両与党と日本維新の会など改憲に前向きな勢力を合わせ、改憲発議に必要な3分の2以上の議席を維持するのも高いハードルと言える。

野党候補一本化も焦点

参院選の勝敗を左右するのは、合区を含めて32ある1人区での戦いだ。安倍政権との対決姿勢を強める立憲民主党など主要野党が、1人区でどこまで共闘できるかも焦点となる。16年の参院選で、当時の民進党や共産党は全ての1人区で候補者を一本化して臨んだ。その結果、東北6県のうち秋田を除く5県、三重、大分、沖縄など計11選挙区で勝利し、共闘の効果を一定程度実証した。

今回も野党は、自民党に対抗するため一本化を目指す考えでは一致している。しかし、民進党から分裂した立憲と国民民主党の確執や、野党間での相互推薦・支援を求める共産党との関係がネックとなり、調整はほとんど進んでいない。それでも野党がばらばらに戦っていては勝算が見込めないのは明らかで、最終的にはほとんどの1人区で野党候補は一本化される公算が大きそうだ。

「北方領土」解散でダブル選?

首相は2019年1月にロシアを訪問し、プーチン大統領と北方領土問題を含む平和条約締結交渉に臨む。同年6月の大阪での主要20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせたプーチン氏の来日で、条約交渉の大筋合意を目指す構えだ。両首脳は、平和条約締結後の歯舞、色丹2島引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎に、条約交渉を加速させることで一致している。

首相は国後、択捉両島を含めた4島の帰属問題解決を優先する従来の立場から、歯舞、色丹の「2島先行返還」に軸足を移したとみられており、交渉が詰めの段階に入れば日本世論の動向にも神経質にならざるを得ない。

このため与野党には、首相が19年の通常国会終盤で、領土問題の解決を大義名分に衆院解散・総選挙に踏み切り、夏の参院選との同日選に打って出るのではないかとの観測も浮上している。

改憲発議、参院選前困難に

首相は2018年12月、臨時国会閉幕を受けた記者会見で、20年の改正憲法施行を目指す考えを改めて示した。もっとも、当初掲げた臨時国会での自民党の改憲条文案提示という目標は、与野党の対立が激化した影響で断念を余儀なくされた。憲法論議に関わる主要ポストに充てた側近議員らの言動が野党の反発を買ったという事情もあるが、改憲に慎重な公明党が様子見の構えを崩さなかったことも大きい。

自民党は、改憲の国会発議に向けた戦略を仕切り直す方針。ただ、1月召集の通常国会は、3月下旬までは19年度予算案の審議が最優先される。4月以降も統一地方選や、天皇陛下の退位-新天皇即位といった重要日程が立て込んでいることを考慮すれば、参院選前の憲法改正発議は極めて難しい情勢だ。参院選後の可能性は残るものの、改憲に前向きな勢力が3分の2を失えば、首相の悲願実現は一層遠のくことになる。

バナー写真:臨時国会閉幕を受け、記者会見する安倍晋三首相=2018年12月10日、首相官邸(時事)

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