サイエンス・フロンティア

自前主義からオープン・イノベーションへ

経済・ビジネス 科学 技術

さまざまな公的研究機関を紹介してきたが、それらと並んで日本の科学技術を支えているのが、民間企業の研究開発部門だ。国全体の研究開発費のうち、“企業等”の占める割合は75.8%(2010年)に上っている。

国籍別の特許新規登録件数では日本がトップ

国土が狭く、天然資源にも恵まれない日本の企業にとって、技術力の高さは生命線。かつて日本製品のセールスポイントは「安くて高品質」だった。その後、各企業が研究開発に力を注ぎ、独自のテクノロジーを蓄積したことで、これに高性能や高機能という付加価値を加えることに成功した。現在、国籍別の特許新規登録件数では日本がトップの座をキープしており、日本が研究開発に力を注いでいることがわかる。また、特許などの技術使用料の輸出入を示す技術貿易収支も、90年代半ばから大きく改善している。

“何でも研究開発せずにはいられない”

日本企業の研究開発の成果の代表と言えるのが、さまざまなハイテク製品。例えば、液晶パネル、青色LED、CCD撮像素子、フラッシュメモリー、リチウムイオン電池など、現在の情報化社会を支えているテクノロジーの多くが日本企業によって開発・実用化されてきた。科学技術振興機構によれば、同機構の委託によって開発された青色LEDを利用した製品の総売上は約3兆6000億円に達している。(※1)

製造業において、日本の強みと言われているのが、材料から、電気、電子、通信、機械、生産まで、幅広い分野で高度なテクノロジーを有している点だ。新製品開発に必要な要素技術が国内で調達できることは、製品開発上の大きなメリット。電気・自動車などの製造業だけでなく、あらゆる分野の企業が研究開発に取り組んでいる。

また、来日した外国人の多くが街にハイテクが溢れていることに驚くほど、日本企業は、他国では価格とブランド勝負になりがちな日用品においてさえ常に新技術を投入し続けている。日本の企業は“何でも研究開発せずにはいられない”と言ってもよいだろう。

技術マネジメントの改善が課題

日本企業の研究開発の特徴の一つに「自前主義」がある。これは他社や既存の技術に頼らず、できるだけ多くの技術を自分たちで創り出すことで、他社との差別化を図るものだ。ただ、近年は研究開発の効率やスピードが重要となってきており、日本企業も自前主義を見直し、他社と積極的に技術交換を行う「オープン・イノベーション」への対応が必要だと言われている。

しかし、オープン・イノベーションは諸刃の剣でもある。必要以上に研究開発をアウトソーシングしてしまうと、技術力を失いかねない。これについては「要素技術の自社開発割合が高い企業ほど、技術的な新規性を持つ製品やサービスなどを実現しやすいが、その割合が75%を超えると逆に実現度が低下する」という調査結果がある(※2)。つまり、独自技術の割合は低過ぎても高過ぎてもいけない。自前主義とオープン・イノベーションの間でうまくバランスをとる経営判断が求められる。また、冒頭で述べた技術貿易収支の黒字には、海外への生産移転に伴う子会社(=身内)からの収入が多くを占めている。これからの日本企業は、自らが製品を作って売るだけでなく、他社への技術ライセンス収入を増やすなどして、技術そのもので稼ぐ必要があるだろう。

オープン・イノベーションへの対応も含め、現在の日本のハイテク企業では、単に優れた技術を開発するだけでなく、その技術からきちんと利益を産み出す「MOT」(Management of Technology)の改善が課題となっている。これには、液晶や太陽電池などの市場で、技術で先行しながら、やがて国際的なコスト競争に巻き込まれてシェアを落としたことへの反省がある。日本企業の特徴を生かした技術マネジメントの新しい形が求められている。

2012年現在、日本経済は好調とは言えないが、日本企業の研究・開発意欲は衰えてはいない。昔から、日本は経済が低調な時にこそ、研究・開発に力を注いできた。ニッポンドットコムでは、今後、日本企業におけるユニークな研究開発活動とその成果を紹介していく。

取材・文=木村 菱治

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