メイド・イン・ニッポン企業

“溶岩”で都市に緑を呼び戻す奇跡の戦略——日本ナチュロック

経済・ビジネス 科学 技術

溶岩が、地球を救う! 緑化に適した素材として溶岩の可能性に着目し、柔軟なアイデアでビジネスを拡張する「日本ナチュロック」の熱き思いとは。

溶岩の魅力を伝えたい

地球温暖化、都市のヒートアイランド現象……現在の深刻な環境問題を解消するだけでなく、100年先、22世紀の地球を見つめて製品開発を行う会社がある。そう聞いて日本ナチュロックを訪れたが、現れた佐藤俊明社長の風貌は、「エコ」という言葉が持つイメージとはかなり違っていた。ブレスレットやネックレスを、二重三重に巻きつけ、まるでファッションデザイナーか俳優のような印象を与えた。

「このアクセサリーは『ナチュロック溶岩ジュエリー』という、わが社が売り出している商品のひとつです。溶岩には、実はさまざまな可能性があります。われわれは、その秘めた可能性を広く理解してもらうために、溶岩をさまざまな形に変えて商品を開発しています。このジュエリーは、溶岩をより身近に感じてもらうためのシンボル的な商品なんです」

生態系を再生させる力が溶岩にある

日本は火山国と言われる。日本の象徴である富士山も火山だ。300年近く噴火していないが、周辺にはあちこちに溶岩が転がっている。そんな富士山麓で生まれ育った佐藤社長は、20代の頃、祖父が設立した地元のコンクリート会社で働いていた。

だが、富士山周辺の施工現場を見て回る中で、疑問を感じはじめた。「富士山の麓の美しい風景に、無機質なコンクリートは似合わない」。

そこで、殺風景なコンクリートの表面に、富士山から噴出した溶岩を貼り付けることを発案した。コンクリートの地肌を溶岩で“化粧”するのだ。化粧材は溶岩に限らず、施工場所の景観に自然に溶け込む天然石でもよい。接着方法や耐久性など試行錯誤の末、溶岩や天然石とコンクリートを融合させた製品を開発し、『ナチュロック』と名付けた。ナチュラル(自然)+ロック(石)。自然に近い製品であることを意味する造語だ。

写真上:溶岩には人の手を加えずとも緑を育む力がある(山中湖畔道路擁壁)。

『ナチュロック』は当初、景観のみを意識した製品だった。ところが、施工から数年後、溶岩の部分が次第にコケや植物に覆われていくことに気付いた。予想外のことだった。そこではじめて、溶岩に緑を育む力があることを発見した。

「溶岩は、内部に無数の孔が空いていて、透水性と通気性に優れ、適度な湿度を保ち、ミネラルも豊富に含みます。噴火し流れ出した時はすべての生き物を死滅させますが、冷えて固まって長い年月を経る間に、自然にコケが生え、植物が育ち、虫が集まり、動物や人間が暮らす場所に変わります。溶岩は生態系を再生させる力があることは、地球の歴史によって証明されているのです」

溶岩は22世紀の公共事業の資材である

富士山麓にある民家。壁面にビオボードとビオフィルムを使用し、四季を感じられる家に。

とすれば、溶岩を都会の中に持ち込めば、街に生態系を呼び戻せるのではないか。そんな思いが、次々と新製品を生み出した。

薄いコンクリートボードに溶岩を埋め込み、これを既存の建造物の表面に貼り付ける『ビオボード』を開発した。さらにコンクリートを基盤材としない超薄型軽量の『ビオフィルム』が続く。これは自由なサイズに切断しやすく、曲面にも貼れる。

「これらを使えば、大規模な工事をしなくとも、今ある壁面に貼るだけで緑化ができます。10年ほど前から、愛知県豊橋市の『内山川ホタルを守る会』という住民組織と一緒に、護岸のコンクリートにビオボードを貼り付ける作業を行ってきました。今では自然に緑が育ち、水が浄化され、3000匹ものホタルが舞うようになりました。大手ゼネコンが関わらなくても、住民が一緒になって緑化ができる。ナチュロック製品は、22世紀の公共事業の資材なんです」

前例のない革新的な商品を売るために

日本の都市部では、ヒートアイランドの解決法として屋上緑化が推進されている。しかし、緑化面積を拡大するには、建物の屋上という“点”だけの作業では効果が薄い。

そこで日本ナチュロックでは、都内を流れる河川や高速道路、鉄道の“壁面”に注目。2008年には首都高速道路代々木パーキングエリアの壁面228平方メートルに、植物を植え込める植栽BOXを設けた改良品『ビオボードBOX』を設置した。その改修作業は、わずか2日で完了。これも、新たに建造するのではなく既存の壁面に貼るだけという、前例のない革新的な商品力が実現させたものだ。

「しかし、革新的な商品は、最初はなかなか受け入れられないものです。前例や実績がないため、商品としての可能性や市場価値が読みづらいのでしょう。それでも、評価してくれる人は必ずどこかにいます。実際、日本でまだあまり理解されなかった頃、イタリアで開かれた欧米主要各国が参加する世界最大規模のプレキャストコンクリート製品(現場用に事前に工場で作った製品)の国際会議『BIBM'99』で高く評価されました。また『ナチュロック溶岩ジュエリー』は、ジュエリー業界よりファッション業界で注目を集めました。熱い思いがあれば、必ずどこかにつながっていくんです」

震災の復興にも溶岩を役立てたい

日本ナチュロックは今、これまでに培った溶岩による緑化のノウハウを携え、中東の砂漠緑化事業にも乗り出そうとしている。さらに、火山噴火で被害を受けた国々で溶岩の調達を行えば、その国の人々が新たな産業を興すことにつながるとも考えている。

渋谷東急ハンズ向かい側の殺風景なコンクリート壁も、ナチュロック製品で一変させることができる。こうした緑化をスポンサーを募って行う「グリーン広告」も構想中(右写真のグリーンはCGによる合成です)。

緑化した壁面を企業の広告媒体として利用する「グリーン広告」のビジネス展開も提案中だ。新たなアイデアは尽きることがない。佐藤社長は、最後にこう強調した。

「試行錯誤の段階ですが、東日本大震災の被災地復興にも溶岩が役立てられると考えています。溶岩が地球を救う。私はそう信じています」

佐藤俊明 社長の一言
あらゆる「壁(KABE)」を変えたい (代表取締役社長 佐藤俊明)
都市には無機質な壁がたくさんあります。また人生にも仕事にも、乗り越えなければならない壁があります。壁が立ちふさがっていて先が見えないこともあります。その壁を、なんとかしなきゃいけない。さまざまな意味での「壁」を変えるのが、私の仕事だと思っています。
企業データ
  • 日本ナチュロック 株式会社
  • 住所:〒107-0052 東京都港区赤坂7-10-6 ストークビル赤坂3F
  • 代表者:代表取締役社長 佐藤俊明
  • 事業内容:
    • ・ビオトープ型環境製品の開発・製造・販売
    • ・壁面緑化に伴うグリーン広告・販売促進の提案及びコミュニケーション戦略の立案
  • 資本金:1100万円
  • 従業員数:11名
  • ウェブサイト:http://www.naturock.co.jp

取材=津田広志、二橋彩乃
撮影=松村隆史

中小企業 富士山