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デザイン力で、日本、そして世界を元気にする——アッシュコンセプト 

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デザイナーとユーザーの間に立ち、現代的でセンスのよいデザイン雑貨を次々生み出すアッシュコンセプト。「あったら楽しい」ものづくりが、不況の時代を明るく照らす。

デザイン力で売上を10倍に

「デザイナーのアイデアに命を吹き込み、商品化し、販売する」。それがアッシュコンセプトという会社の仕事だ。製品はどれも、見た瞬間に思わず顔がほころんでしまう楽しいデザインのものばかり。お湯を注いだカップ麺のフタをかわいいポーズで押さえてくれる人型フィギュア、水はねをデザイン化したカラフルな傘立て、滑りやすいはずのバナナの皮の形をしたドアストッパー……。これらユニークな生活用品は、『+d(プラス・ディー)』というブランド名で世界中で販売されている。

2002年、『+d』ブランド第1号として誕生した製品が、動物型のシリコン輪ゴム「アニマルラバーバンド」だ。用途は通常の輪ゴムと同じだが、ゾウやキリンなど動物の形をしており、何度使っても元の動物の形に戻る。最初にその愛らしさに目を留めたのは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のミュージアムショップだった。以来、ニューヨークのグッケンハイム美術館、ロンドンのデザイン博物館など数多くのショップでも扱われ、今では約30ヵ国以上で販売されている人気商品だ。

自身の経験から「デザインをうまく活用できれば、 企業は確実に変わる」と話す名児耶氏。その声は力強い。

代表の名児耶秀美(なごや・ひでよし)氏は、美術大学卒業後、100年以上続く老舗の生活用品メーカーに勤務した。品質にこだわりを持つ会社だが、デザイン力が弱い。そう感じた彼は、自らデザインをしながら、企画開発室を新設し、デザインスタッフの増員など、会社の変革に取り組んだ。その結果、売上は10倍以上にはね上がった。 デザインには人を動かす大きな力がある。自らの経験からそう確信した名児耶氏は、デザインを活用して世の中を元気にしたいと考えた。そして、新たに立ち上げた会社が、アッシュコンセプトなのだ。

思いやり深い130%のものづくり

「デザインとは造形の格好良さや美しさのことだと思われがちです。それも確かに大事ですが、それだけならアートも同じですね。アートとデザインの大きな違いは、アートが自己表現であるのに対し、デザインは使う人のことを配慮したものづくりであること。つまりデザインとは“思いやり”なのです」

特に日本人は、思いやりが深い民族だといわれる。昨年の東日本大震災では、過酷な状況下で暴動も起こさず互いに助け合う被災者の姿を、各国のメディアが賛嘆をもって報じた。

「他人を思いやることができる日本人は、仕事のうえでも、こちらが要求の80%を伝えれば130%の力で応えようとしてくれます。そんなDNAを持つ日本のデザイナーは、世界でもトップクラスだと私は思います」

「ゼロから1を生み出す」デザイナーを大切にする

ともにものづくりを行うデザイナーとの出会い方を大事にしているという。デザインコンペでの出会いであったり、名児耶氏が講師を務める大学の授業で、おもしろいアイデアを持つデザイナーに声をかけることもある。最近では、デザイナーの方からアッシュコンセプトにアイデアを持ち込んでくるケースが増えているという。

「持ち込まれたアイデアは、まず社員全員に回覧します。そうするとそれを使う側の立場から自由な意見が出てきます。それを元に私と開発担当者で検討し、デザイナーと何度もやり取りを交わし、1~2週間ごとに営業も交えた製品会議を開きながらブラッシュアップしていきます」

昨年90歳を迎えた、建築家の長 大作さんによる酒器セット(2011年発表)。年齢を問わず、業種を問わず、多くの人がアッシュコンセプトのものづくりに携わる。

その過程で新たなアイデアが生まれ、当初のデザインとは違う形で製品化されることもある。

「デザイナーは、発想力で0から1を生み出すことができる人。荒削りでも、まだ世の中にないモノを考え出せる人です。それを100にも1000にも掛け算するのがわれわれの仕事です。しかしデザイナーの1がないと、いくら掛け算しても0のままです。だからわれわれは、デザインで世の中を元気にするために、まずデザイナーたちを元気づけたいんです」

そんな思いから、『+d』の製品、一つひとつにデザイナーの顔と名前を明記している。

製品が売れればデザイナーにロイヤリティとして還元している。 「そうすることでデザイナーに責任感が生まれ、一生懸命になってくれます。『+d』をひとつのきっかけとして、デザイナーがそれぞれ仕事の幅を広げていってくれたらうれしいですね」

世界の人がつながるプラットフォームをつくる

アッシュコンセプトは、『+d』ブランドを手がける一方で、文房具や伝統工芸品などさまざまな企業のデザイン・コンサルタントも行っている。今年2月には、コンサルティングを行った企業6ブランドと『+d』の製品を、フランクフルトで開かれた世界最大級の生活用品の展示会「アンビエンテ」に出展した。

「アメリカの収納用品専門店『コンテナストア』や、アムステルダムのインテリアショップ『フローズン・ファウンテン』、MoMAなど、各国のバイヤーが来てくれました。おかげさまで、引き合いで約3000万円、会期中の売上だけでも数百万円に上りました」

海外での成功とほぼ時を同じくして、国内では、初のリアルショップをオープンした。

「私どもの会社が辞書になりましてね」と見せてくれたのがアッシュコンセプトの会社案内。表紙には会社名とともに、happy、honest、hopeなど、hから始まるポジティブな言葉が並ぶ。

「営業責任者のあるスタッフが、アッシュコンセプトの製品を販売する店をやりたいと言っていました。彼のやる気を見込み、店長にして、店を出すことにしたんです。私は常々、スタッフのやりたいことをできる限り応援したいと思っています。たとえそれが未経験の業種でも、どうすれば相手に喜んでもらえるかを考えれば、できないことはないはず。大事なのは思いやり。会社の運営も、デザインと一緒なんです」

ショップの名前は『KONCENT(コンセント)』。プラグをつなぐ電源を意味する和製英語だ。

本と本の間から動物が見え隠れ。 取り出した本やCDの目印に。「アニマルインデックス」

「このショップが、いろいろな人が集まる“デザインのプラットフォーム”になればいいですね。お客様も、デザイナーも、製造工場の人も、メディアも、このプラットフォームでつながっているすべての人にパワーを与えたいという思いで、コンセントと名づけました」

アッシュコンセプトの製品は、なければ困るというものではない。だが、あったら楽しい。元気になれる。パワーをもらえる。そんな視点のものづくりが、この会社をオンリーワンたらしめているのだ。

「不況が続く現代は、誰もが堅実で間違いのないことをやろうとします。でも、そんな時代だからこそ、われわれはおもしろいことをやりたい。これからも楽しいデザインで世界を元気づけたいですね」

名児耶秀美 代表の一言
デザインとは「愛(AI)」 (代表取締役 名児耶秀美)
相手を思いやることがデザインだとお話ししましたが、それを漢字一文字で表すなら「愛」です。それに、デザインが気に入ったものには「愛着」もわきます。環境のことを考えても、21世紀は使い捨ての時代ではありません。デザインするのも愛なら、デザインされたものを使うことも愛だと思います。
企業データ
  • アッシュコンセプト 株式会社
  • 住所:〒111-0051 東京都台東区蔵前2-4-5
  • 代表者:代表取締役 名児耶秀美
  • 事業内容:家庭用品、生活用品の企画製造、および卸売業/家庭用品、生活用品の輸入卸売業/デザイン・コンサルト/輸入代行業
  • 資本金:3000万円
  • 従業員数:16名
  • ウェブサイト:http://www.h-concept.jp/
取材=津田広志 撮影=松村隆史

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