シンポジウムリポート

日本の再生エネルギー開発に大きな可能性

社会

10月15日に開催されたシンポジウム「転換迫られる世界のエネルギー政策」では、米国、ドイツ、中国、香港、日本のエネルギー研究者、専門家が、再生エネルギーの展望や世界のエネルギー政策についてパネルディスカッションを行った。

日本政府の中長期的なエネルギー基本計画の策定が大幅に遅れている。2030年代に原子力発電所の稼働を“ゼロ”にするという目標設定をめぐり、政府部内の議論がまとまらないためだが、背景には次期衆院選挙などをめぐる政治的な混迷の影響がある。

切実感を浮き彫りにした国際シンポ

こうした中、一般財団法人ニッポンドットコムは10月15日、ドイツのフリードリヒ・エーベルト財団との共催で、「転換迫られる世界のエネルギー政策」というテーマのもと、米国、ドイツ、中国、香港、日本の研究者、専門家に参加してもらい、再生可能エネルギーの展望や世界全体のエネルギー政策などについて話し合うシンポジウムを開催した。一般の聴衆や学生だけでなく、企業のエネルギー関係部門担当者などを含む約170人が参加、会場から多くの質問がパネリストに寄せられるなど、6時間にわたり熱心な討論が展開された。

「原発維持か、脱原発か」といった対立を乗り越え、広い視野と長期的な視点に立った活発な議論は、東日本大震災での東京電力福島第1原子力発電所の事故からまだ1年7か月しか経過していないという切実感を改めて浮き彫りにした。同時に、世界的な大事故が世界にもたらしたエネルギー政策への衝撃の大きさを再認識させるものだったと言えるだろう。

日本には豊富な再生可能エネルギー資源

エイモリー・ロビンス氏(ロッキーマウンテン研究所長)

シンポジウムでは、米国ロッキーマウンテン研究所のエイモリー・ロビンス所長が「再生可能エネルギーの可能性」について、ベルリン自由大学のミランダ・シュラーズ教授が「世界のエネルギー政策」について、それぞれ基調講演した。

ミランダ・シュラーズ氏(ベルリン自由大学教授)

ロビンス所長は、シンポジウム直前に最新著書『Reinventing Fire』(2011年出版)の翻訳本『新しい火の創造』が出版されたばかりで、その著書に基づき、2050年に米国は石油、石炭、原子力エネルギーを使わず、さらに天然ガスの消費を3分の1に減らしながら、現在のエネルギーコストよりも約5兆ドル削減できるとのシナリオを説明した。特に日本については、エネルギー政策が自由競争へシフトした場合、電力に関してはドイツやデンマークのように、「脱原発」の方向へ舵を切ることができるとの見方を示した。その理由について、ロビンス所長は「日本にはエネルギー効率を改善する余地が大いにある」ことと、「日本には多様な再生エネルギー資源が豊富にある」ことを挙げた。

環境政策の専門家であるミランダ教授も、再生エネルギー分野での日本の役割の大きさを指摘するとともに、省エネやスマートグリッド(次世代電力網)の普及などで、活路を開くことができるとの見通しを示した。

なぜ日本は原発を倫理面から議論しないのか

会場からは厳しい質問も数多く寄せられた。特に、ドイツでは2011年に原子力発電政策の決定に当たって諮問機関「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」を設置し、長時間にわたる議論の末に「脱原発」の方向性を打ち出したが、「日本では原発について、なぜ倫理面から議論しないのか」といった鋭い質問や、原発の廃棄物処理という現実の難問に関する質問などが寄せられた。

シンポジウムの詳細リポート、基調講演要旨などは11月中旬以降に、多言語サイト「nippon.com」に公表される。なかなか決定されない日本政府のエネルギー基本計画は、21世紀前半のエネルギー政策の道筋を決定するだけでなく、国の在り方や日本人の生き方にも直接的に影響する。さらには、アジア経済や世界のエネルギー政策の行方にも密接にかかわってくる。

それだけに、一般財団法人ニッポンドットコムは、原発事故後の日本のエネルギー政策の在り方を粘り強く監視していくとともに、引き続き論文やエネルギー現場のリポートなどを通じて問題を掘り下げていかなければならないと考えている。

一般財団法人ニッポンドットコム
代表理事・原野城治

エネルギー シンポジウム