日本映画の未来を検証

邦画が洋画を逆転、日本映画市場に起きた“異変”

経済・ビジネス 文化 Cinema

1970年代以降 “洋高邦低”と言われてきた日本の映画市場。しかしここ数年は、観客動員数・興行収入で邦画が洋画を逆転している。これは果たして “邦画復活”と言えるのか? それとも単なる“洋画離れ”なのか?

勢いを盛り返す日本映画

日本の映画市場は、1970年頃を境に洋画(外国映画)が邦画(日本映画)を上回り、長い間“洋高邦低”と言われてきた。日本映画製作者連盟(映連)が発表している1955年以降の統計を見ると、邦画シェア(配給収入(※1)の全体比)は1955~65年まで60%以上を占めていた。ピークは1960年。邦画シェアが78%に達し、「日本映画全盛期」を印象づけた。しかし1970年以降になって邦画は低迷、バブル崩壊後の2002年には過去最低の27.1%まで落ち込んだ。

ところが2006年頃から再び形勢が逆転し、以来“邦高洋低”の傾向が定着しつつある。さらに2012年、邦画が興行収入で全体の65.7%を占めて洋画(34.3%)を圧倒した。邦画シェアが60%台を回復したのは、実に1969年以来43年ぶりのことだった。

映連の統計によると、2012年に公開された映画の本数は983本で、前年を大幅に上回った。特に邦画の伸び率が高く、本数でも洋画を引き離そうとしている。さらに興行収入では、邦画が洋画の約2倍にまで達した。前年に比べると、邦画の28.2%増に対して、洋画は17.9%の減収を記録している。

2012年 全国映画概況

  2012年 前年比 2011年
観客動員数 1億5515万9000人 107.2% 1億4472万6000人
興行収入 全体 1951億9000万円 107.7% 1811億9700万円
邦画 1281億8100万円 128.8% 995億3100万円
洋画 670億0900万円 82.1% 816億6600万円
公開本数 全体 983本 123.03% 799本
邦画 554本 125.62% 441本
洋画 429本 119.83% 358本

一般社団法人 日本映画製作者連盟 日本映画産業統計より

洋画低迷の要因はハリウッド映画の企画力不足

2012年の邦画シェアが前年の54.9%から10ポイント以上も伸びた要因には、邦画の勢い自体もさることながら、洋画の不振も挙げられる。

2012年興行収入ベスト5(洋画)

順位 公開月 作品名 興行収入
(億円)
配給会社
1 12月
(2011年)
ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル 53.8 パラマウント映画
2 9月 バイオハザードV リトリビューション 38.1 ソニー・ピクチャーズ
3 8月 アベンジャーズ 36.1 ウォルト・ディズニー・スタジオ
4 6月 アメイジング・スパイダーマン 31.6 ソニー・ピクチャーズ
5 5月 メン・イン・ブラック3 31.3 東宝東和

 

洋画の年間興行収入ベスト3を見ると、1位の『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』と2位『バイオハザードV リトリビューション』はシリーズもの。4位と5位も同様で、確実にヒットが見込める「安定路線」と言える。3位の『アベンジャーズ』はアメリカン・コミックの映画化。米漫画出版社マーベル・コミックスが手掛ける漫画作品のヒーローたちが勢揃いするアクション大作だ。この「マーベル・コミックス系」は、シリーズ化されると、特撮だけが見どころとなり、飽きられる傾向にある。

このように、洋画の上位陣にやや企画力不足の感が否めない。これは最近の洋画の中心となるハリウッド映画全般に指摘されることでもある。日本でも記録的な大ヒットを収めた『タイタニック』(日本での興行収入262億円、歴代1位)は、鬼才ジェームズ・キャメロン監督が、豪華客船の沈没という実話を最新の特撮で豪快に見せ、シェークスピアの『ロミオとジュリエット』を彷彿とさせる若い男女の悲恋を描き、観客を魅了した。

この手の作品が今はほとんどない。さらに『ハリー・ポッター』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』などの人気シリーズが完結し、「安定路線」のコマも少なくなりつつある。

歴代映画興行成績ランキング

順位 公開年 作品名 興行収入
(億円)
配給会社
1 2001年 千と千尋の神隠し 304 東宝
2 1998年 タイタニック 262 20世紀FOX
3 2001年 ハリー・ポッターと賢者の石 203 ワーナー・ブラザース映画

 

邦画躍進の背景にテレビ局と映画会社の連携強化

さて、洋画とは対照的に興行収入を伸ばしている日本映画。映連の統計によると、2012年の興行ベスト3は、『BRAVE HEARTS海猿』、『テルマエ・ロマエ』、『踊る大捜査線THE FINAL新たなる希望』の順。いずれも、フジテレビが製作し東宝が配給を手がけた作品だ。

2012年興行収入ベスト5(邦画)

順位 公開月 作品名 興行収入
(億円)
配給会社
1 7月 BRAVE HEARTS 海猿 73.3 東宝
2 4月 テルマエ・ロマエ 59.8 東宝
3 9月 踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望 59.7 東宝
4 11月 ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q 53.0 ティ・ジョイ/カラー
5 7月 おおかみこどもの雨と雪 42.2 東宝

『BRAVE HEARTS 海猿』

『テルマエ・ロマエ』

『踊る大捜査線 THE FINAL新たなる希望』

どうやら邦画躍進の要因は、日本の配給会社と民放テレビ局との連携強化にありそうだ。

「テレビ局をはじめ、出版社、広告代理店、その他の企業が映画製作に参画することにより、出資額が増え、観客に満足してもらえる作品を日本で製作できるようになりました。企画も、観客の関心により近くなりました。また、映画会社だけでなく、共同で出資するテレビ局や出版社などが、自前の媒体を駆使して宣伝できることもヒットの大きな要素です」(東宝・企画担当取締役)

テレビ局と映画会社は、人気テレビドラマを映画化するだけでなく、企画段階から共同プロジェクトを動かし、斬新で野心的な作品に取り組むようになった。こうして、これまで費用がかかりすぎるという理由で敬遠されてきた時代劇や、3Dを駆使したSF大作なども、テレビ局との分担で製作することが可能になったのだ。

2013年に入り、『レ・ミゼラブル』や『ライフ・オブ・パイ/虎と漂流した227日』といった洋画のヒット作品も生まれている。洋画が挽回し、邦画がさらに新たなる飛躍を狙うとしたら、これはまたスリリングな展開になる。

掲載作品

『 BRAVE HEARTS 海猿 』スタンダード・エディションDVD  DVD発売中
発売元:フジテレビジョン ROBOT ポニーキャニオン 東宝 小学館 エー・チー ム FNS27社 販売元:ポニーキャニオン

『テルマエ・ロマエ』豪華盤(特典DVD付2枚組)  DVD発売中
発売元:フジテレビ  販売元:東宝

『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』スタンダード・エディションDVD   DVD発売中
発売元:フジテレビジョン アイ・エヌ・ピー   販売元:ポニーキャニオン

(※1) ^ 興行収入から映画館の取り分を差し引いた配給会社の収益。映連の統計は、1955年から2000年までが配給収入、2000年以降は興行収入をベースにしている。

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