中国で活躍する日本人ファッション・ブロガー・TOKYO PANDAさん
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上海を拠点に日中間を飛び回る
TOKYO PANDAさんは超多忙。変化の激しいファッションの動向をウオッチ。ブログを書き、取材を受け、ビジネスで中国各地や日中間を飛び回る。フラストレーションも溜まっているはずなのだが、彼女は決して笑顔を絶やさない。くりくりっとした大きな澄んだ目が印象的で、インタビューの際は、薄いグレーのフレンチスリーブといったラフな格好だったが、長い真珠の首飾りと3つ玉の真珠のイアリングでアクセントをつけ、エレガントな着こなし。若い中国人女性たちが彼女のブログで推奨された、値段も手ごろなセンスのいい服の購入に走るのもうなずけた。
豪州で医学に目覚め、中国でファッションに挑戦
彼女は沖縄生まれの東京育ち。会社員だった父と母、弟の4人家族で、2002年に東京の高校を卒業し、オーストラリアのシドニーにある英語学校に留学した。だが、アトピーと生理痛に悩まされ、当時、オーストラリアで注目され始めた東洋医学に興味を抱き、中国の医科大学への転進を決意。日本に戻って中国語や理数系の科目を猛勉強し、05年に中国の瀋陽にある医大を受験して見事合格した。もちろん、医大での授業は中国語で、難しい専門用語も次々に覚えていかなければならない。
「医学の病名などは日本語と同じ漢字を使うことが多くて困りませんでしたが、化学の名称はまったく別で、本当に苦労しました」
しかし、彼女は決してへこたれず、5年間で卒業。10年7月からは医大の実習生として上級医師の指導の下で治療にもあたり、12年には医大の修士課程を修了した。こうした医学の勉学の傍ら08年から始めたのがネットを使った中国語でのファッションの紹介。これが中国で活躍する日本人カリスマ・ブロガー「TOKYO PANDA」の誕生につながっていく。
「小さな子供のころからファッションが好きでしたね。デザイナーだったおばあちゃまの影響かもしれません」
「微博(ウェイボー)」のフォロワーは10万人を超える
TOKYO PANDAさんが瀋陽に来たばかりのころは、「(市内に)おしゃれ好きの女の子が満足できるようなお店がほとんどなかった」そうで、彼女は仕方なくネットで自分の好きな洋服を購入。それを着て撮った写真をネットにアップし、コメントを書いたところ、「可愛い」「私も買いたい」「どこで買えるのか教えて」などの書き込みが多数寄せられた。このため、彼女は09年夏、自らのファッションスタイルやライフスタイルを紹介するブログ「TOKYO PANDA & MR.PANDA」を正式に立ち上げた。
この名称は当時からのロシア人のパートナー、MR.PANDA(28)が付けてくれたもので、ブログの写真撮影は彼の担当。この洒落た名前と彼女のずば抜けたファッションセンスが口コミで広がっていき、中国最大の電子商取引(EC)サイト「淘宝(タオバオ)」の「紅人館」で紹介され、彼女は一躍、中国の人気ファッション・ブロガーの一人となった。彼女のブログには多数のアクセスがあり、中国版ツイッターともいわれる「微博」のフォロワーは10万人を超える。
彼女はブログへの書き込みや質問には「できるだけ答える」との方針で、睡眠時間を削って答えており、これも人気の秘密。が、ブログを開始した当初、TOKYO PANDAさんが日本人女性だという理由で、ブログに日本兵による残虐な写真をアップされたこともあったという。彼女の抗議でこうした写真は直ちに削除されたが、彼女はひるまなかった。中国人フォロアーの励ましの声の方がずっと大きかったからだ。
日系企業もTOKYO PANDAの影響力に注目
彼女のブログはその後、さらに支持者を集め、中国の人気女性雑誌『Ray(瑞麗)』でも大きく取り上げられ、彼女は中国でカリスマ・ブロガーとしての地位を固め、ブログの中で高い評価を与えると、その商品の売上が急増するようになったという。
TOKYO PANDさんは現在、ファッション関係の仕事が忙しく、医療の方面は休業。活動の拠点を瀋陽から上海に移し、「淘宝(タオバオ)」内に自身がセレクトした商品を扱うネットショップ「Bonjour Petit Fashionista」をオープンするなど、活動の幅を広げている。
これに対し、中国の巨大なマーケットをにらむ日系企業も彼女の影響力に着目。彼女は企業の求めに応じて中国向けファッション専用ECサイト「fala*fala」の立ち上げにも全面協力。彼女が提供する「ブランド訪問記・現地報道」のコーナーは特に好評で、同サイドの出店数は現在30程だが、年内には100店を目指しており、売上も着実に増えている」(西山さん)という。
「日中関係、信じています」-沖縄の対中民間大使にも就任
これはTOKYO PANDAさんがそれだけ中国の人たちに受け入れられている証拠で、そこに期待するのは何も日系企業ばかりではない。生まれ故郷、沖縄県は「日中の懸け橋」として活躍している彼女を「新ウチナー民間大使」に任命した。沖縄のことをもっと知ってもらい、中国人観光客を増やすためだ。そこで、彼女に首脳会談も開けない最近の緊張した日中関係について聞いてみた。
「民間レベルではこんなに進んでいます。中国の方も、日本の方も、タイミングをみつけ、人として話し合い、訴えかけていけば、きっと改善すると思います。信じています」
この言葉に、反日感情を乗り越え、ネットを通じて中国の人たちとのコミュニケーションを図り、中国でファッションのカリスマ・ブロガーとなったTOKYO PANDAさんの自信のようなものを感じた。
取材協力:株式会社ブームプラニング 写真提供:TOKYO PANDA