流行語大賞を受賞した家電量販店社長 羅怡文さん
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2015年を象徴する「爆買い」現象
2015年、日本を席巻した中国人観光客による“爆買い”を象徴する存在として12月1日の日本流行語大賞授賞式に臨んだ。
「増加を続ける外国人観光客の中でも中国からの訪日客は他を引き離し、ドラッグストアで、家電量販店で、スーパーマーケットで、百貨店で、化粧品、医薬品、お菓子など一人当たり17万円以上を『爆買い』し、『大人買い』が精一杯の日本人を圧倒し、世間を驚かせたのだった。
世界に目を向ければ、中国企業が6400人でフランスに4泊6日で爆社員旅行、習近平国家主席はアメリカで旅客機300機を爆買い。中国人の消費パワーを見せ付けられた年だった。」(2015年の日本流行語大賞の受賞者紹介)
「爆買いの本質はやっぱり日本の商品の良さです。この爆買いの爆風を利用して、世界の人々に、よりいい商品を届けるように、さらに努力していきたい」
紹介を受けた受賞の挨拶は、留学生の時から地道にさまざまな仕事を積み重ねてきた羅さんの実直な人柄を感じさせるコメントだった。ふだんから物腰が柔らかく周囲に優しい印象を残す人だ。拍手に応えて両手を上げるしぐさもどこか遠慮がちにもみえる。「社員の日本人ともいい関係を築いている」(ラオックスの発祥の地・秋葉原の関係者)と評される。
「トリプルスリー」とともに同賞の年間大賞に選ばれた後もメディアの取材にはあまり登場したがらないが、受賞内定時には娘と一緒に話題にし、「これで(父親としての)株価も上がったかな」と喜びを口にした。
ラオックス買収後の道程は平坦ではなかった
受賞挨拶ではさらに「日本企業によるものづくりの良さを世界の人々、消費者に愛され利用された結果としてこの爆買いという現象は起こったのです」と製品の良さを強調したが、それだけで同社の経営が回復軌道に乗ったわけではもちろんない。
6年前、老舗の家電量販店ラオックスの社長に就任した時は予断を許さない経営状態だった。中国の家電量販店、蘇寧電器グループ(現在は蘇寧雲グループ)との提携交渉を仲介した縁で自らも出資し就任したが、ピーク時に2100億円(2001年3月期)を超えていた同社の売り上げは500億円を大きく割り込み経営不振にあえいでいた。
まず、ラオックスが免税品コーナーで培ったノウハウに目をつけたものの2011年の東日本大震災、翌年からの尖閣諸島の領有権をめぐる日中関係悪化により大きく出鼻をくじかれた。その後、日中関係の落ち着きとアベノミクスによる円安効果で2014年12月期の売上高(連結)が前年比5割増の500億円超となりようやく14期ぶりに黒字転換することができたばかりだ。
現在は中国人観光客の訪日旅行における「ゴールデンルート」とされる東京と大阪の重要ポイントに“爆買い”の受け皿となる大型店を配置。地方の人気観光地での展開にも力を入れている。多くの旅行会社と提携しツアールートに同社店舗での買い物を組み込んでもらうといった努力も欠かさない。
「日本的な価値の再発見」で「ジャパンプレミアム」を打ち出す
今年6月、激戦地・新宿に23店舗目となる旗艦店「ラオックス新宿本店」をオープンした。「日本的な価値の再発見」をテーマとした「ジャパンプレミアム」を打ち出し、安売りではなく「日本の美をコンセプトとした店舗作り」という他社と異なるコンセプトを前面に押し出した。
英語以外の多言語対応はもちろん、礼拝所付きのムスリムコーナー、さらにジュエリーコーナーには3億円のダイヤモンドを筆頭に1000万円、100万円台の高額宝飾品をずらりと並べ注目を集めた。上得意の中国人向けには共同開発した赤と金色のIH炊飯器、オリジナルのアパレルブランド「ORIGAMI」を置くなど、「価格ではないところで勝負している」(朝日新聞)と外部からも評価された。競合社の一歩先を行く新展開を試みており、「世界的な視野で物事を考えている。日本にとどまらず中国、さらに世界を視野に戦略を練っているのではないか」(秋葉原の関係者)との声も。
8月の中間決算発表時、「6月からの中国の株価急落を受け“爆買い”の勢いが衰えるのではないか」との懸念に対し「影響は小さい。訪日客はまだ増える」と強気の見通しを語っていた。賞をもらったいまは逆に引き締めることも忘れていない。
「この“爆買い”は流行語大賞を受けてはいるが、(そのままで終わってしまえば、一過性の)流行に過ぎない。継続的に日本の商品を世界の人々に届けることができればいいなと思っています」
文=三木孝治郎・nippon.com編集部
カバー写真=2015年流行語大賞年間大賞に選ばれた「爆買い」