シリーズレポート「老いる日本、あとを追う世界」

高齢者を大切にするフィリピン・ホスピタリティ

社会

フィリピンも他の東南アジア諸国と同様に高齢者ケアの担い手は家族が中心だが、一人暮らしや経済的に厳しい高齢者には民間組織の連携による取り組みが行われている。こうした高齢者向けの取り組みには、フィリピンの高齢者を敬う伝統が息づいており、人々の温かさを感じることができる。

若者が高齢者を敬う伝統が残るフィリピン

10月の第一週、フィリピンでは、「フィリピン高齢者のための週(Elderly Filipino Week)」を国民が祝う。社会における高齢者の役割に対する認識を深めるために、フィリピン各地では様々なイベントが開かれる。2016年も10月3日に「人生のための歩み」と名付けられた1kmウォーキングが、フィリピンの16会場で同時開催された。

フィリピンには、伝統的に若者が高齢者を敬う習慣がある。フィリピンの子どもや若者は、年長の親戚に会うと、“Mano po”と呼ばれる挨拶をすることが礼儀である。これは、年長者の右手を持って、自分の額にその手を当てる行為であり、年長者に対する深い敬意を表すものである。

「高齢の親の世話は、子どもの責任である」。フィリピンでも、他の東南アジア諸国と同様に、このような規範が社会に根付いている。そのため、高齢者は家族とともに暮らすことが一般的である。しかし、マニラ首都圏近郊には、出稼ぎで来て、その後、故郷に帰るお金もないまま一人で生活をする高齢者や、家族が貧しいために十分なケアを受けられない高齢者がいる。

このような高齢者に対し、地域コミュニティ、民間組織、非政府組織(Non-government organization, NGO)などが連携し様々な支援を展開している。今回は、それらの活動の中の、医療検診と高齢者向けグループホームについて紹介したい。

民間組織の連携による健康維持の取り組み

2016年10月29日、ブラカン州サン・ホセ・デル・モンティ市グレースビル村にて検診が行われた。この検診は、民間の医療機関マニラドクターズ病院が主催し、フィリピン高齢者を支援するNGOであるCoalition of Services of the Elderly (COSE)、COSEのパートナーであるThe Confederation of Older Person’s Associations of the Philippines (COPAP)共催で行われた。検診には、マニラドクターズ病院の医師のほか、看護師、薬剤師が同行する。この検診は、高齢者のみが対象となっているわけではないが、医療費を支払う必要がないため、高齢者の健康を維持するのに役立っている。

ブラカン州サン・ホセ・デル・モンティ市グレースビル村で行われた医療活動

グレースビル村には、身寄りのない高齢者のためのグループホームがある。ドイツのカトリック系NGO「ミゼリオ財団(MISEREOR)」の寄付を受け、2002年に建設され、COSEとCOPAPにより運営されている。現在、このグループホームで生活をしている11人の女性たちもまた、マニラドクターズ病院の医師による検診を受けることができる。

このグループホームは、寄付やNGOなどの支援で支えられている。入居者は、入居費等の支払いをする必要がない。運営資金が十分でないため、このグループホームで提供されるケアには改善点が必要とされる点もあるが、身寄りのない高齢者を自分の親のように支える人々の姿勢から、高齢者を敬い、大切にするフィリピンの人々の温かさを感じることができる。

グループホームで生活を営む高齢者、検診に訪れた医師、COPAPおよびCOSEメンバー

グループホームでの検診の様子

フィリピンとの交流から日本が学ぶべきこと

高齢化先進国である日本の試みは、世界から注目を浴びている。高齢者ケアや介護技術の進展がある一方で、高齢者を敬う姿勢や大切に思う気持ちは薄れてきているように感じられる。経済連携協定に基づき日本は、フィリピン看護師、介護士を受け入れている。日本とフィリピンの交流を通じて、日本から失われそうになっている高齢者に対する尊敬の念や大切に思う気持ちが日本の社会に再びもたらされることが期待される。

プロジェクトの概要について

笹川平和財団 新領域開拓基金「アジアにおける少子高齢化」事業

バナー写真=フィリピンで行われる“Mana po”の様子(写真はすべて著者提供)

少子高齢化 フィリピン アジア 笹川平和財団