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ニュースの真相 (2016年8月)

文化 Cinema

2004年米大統領選。ブッシュ再選を脅かす渾身のスクープ。だがその証拠文書が「偽造」だった? 権力に阻まれても、真実を追い続ける「ジャーナリスト」たち。その呼び名は勇気をもった信念の人びとにこそふさわしい。

作品情報

© 2015 FEA Productions, Ltd. All Rights Reserved.

キャスト=ケイト・ブランシェット、ロバート・レッドフォード、エリザベス・モス、トファー・グレイス、デニス・クエイド、他
原題=Truth
脚本/監督=ジェームズ・ヴァンダービルト
製作年=2015年
製作国=アメリカ、オーストラリア
配給=キノフィルムズ
上映時間=125分
公開日=2016年8月5日(金)、TOHOシネマズ シャンテほかにて全国順次ロードショー
公式サイト=http://truth-movie.jp/

解説

巨大メディア、その喪失のドラマ

アメリカのテレビ・メディアに君臨する三大ネットワーク。なかでも看板番組のかじ取りを委ねられるアンカーマンはひときわ華やかな存在だ。ホワイトハウスの主とてアンカーの一言は無視できない。CBSの往年の名アンカー、ウォルター・クロンカイトは、番組の終わりに「ベトナム戦争での死者は今日で…」と人数だけを淡々と読み上げてジョンソン政権を追い詰めていった。『ニュースの真相』でロバート・レッドフォードが演じるダン・ラザーは、報道番組をクロンカイトから引き継いで、現代アメリカを代表する存在となった。

ダン・ラザーは、影響力が頂点にあるかに見えた時、同じテキサス出身の共和党大統領に挑みかかった。2004年の大統領選挙が終盤に入ろうとしていたタイミングを選び、CBSの人気番組「60ミニッツⅡ」で、再選をめざすジョージ・W・ブッシュ大統領の徴兵逃れ疑惑を報じたのだった。ベトナム戦争行きを免れるため、密かに父親の政治的影響力を使い、テキサス州の空軍パイロットになった。テキサスならベトコンに撃ち落とされる心配はない。だが、その勤務すら怠っていたことを裏付ける「証拠書類」を示したのである。選挙戦の勝敗を左右しかねない「スクープ」だった。

『ニュースの真相』では、ロバート・レッドフォードが、宿敵ブッシュ大統領に痛打を浴びせたアンカーマンの得意の表情を見事に演じている。だが勝利の美酒に酔っていられたのはほんの一瞬だった。証拠書類の活字の書体はタイプライターのそれではない――こんな指摘が寄せられた。CBS側は第三者委員会を設けて独自の検証を行った結果、問題の書類は偽造されたものだと断じ、ダン・ラザーはアンカーマンの座を降りることになる。

アンカーマンは、一線のジャーナリストと決定的に異なる宿命を背負っている。放送の取材、編集、送出の多くをプロデューサーはじめ番組スタッフに委ねざるを得ない。膨大で多様なニュースを、自ら取材するわけにはいかないからだ。問題の番組でも、取材の責任者はCBSのプロデューサー、メアリー・メイプスだった。事実の確認には時間をかけたい。その一方で放送を先に延ばせば、ライバル局にネタが持ち込まれてしまう恐れがある。メアリー・メイプスは、胃をきりきりとさいなまれるようなプレッシャーのなかにあった。アメリカ女性の憧れのポストである有力番組のプロデューサー役をケイト・ブランシェットはリアルに演じている。

ニュースの仕事は、人生のすべてを差し出しても悔いがないほどスリリングなのだろう。だがメディアの頂を極めても、ポストを守るためには次なるスクープが必要となる。新たな獲物が照準に入り始めた時、見えない危険が忍び込む。魅力的な獲物の背後には意図的に仕組まれた罠(わな)が潜んでいる。だが功にはやったスナイパーには落とし穴が見えない。『ニュースの真相』は巨大メディアの喪失の物語なのである。(編集部)

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