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是枝裕和監督『万引き家族』:「一人の少女に向けて作った」

文化 Cinema

カンヌ映画祭パルムドールを受賞した是枝裕和監督『万引き家族』。満場一致で最高賞を獲得したと伝えられるが、何が審査員たちの心を揺さぶったのか。日本外国特派員協会での会見を中心に、本作品の魅力を改めて読み解く。

5月のカンヌ映画祭で日本映画としては21年ぶりに『万引き家族』が最高賞のパルムドールを受賞した興奮は、まだ記憶に新しい。審査委員長のケイト・ブランシェットが、今年のカンヌの大きなテーマは「見えない人々(invisible people)」だったと総括したように、是枝裕和監督自身のブログの表現を借りれば、本作品は、「地域」「企業」「家族」の3つの共同体から「こぼれ落ち、もしくは排除されて不可視の状態になっている人たち」を描いている。

実際のネグレクト(育児放棄)事件をモチーフに描いた『誰も知らない』では、2004年、当時14歳の柳楽優弥がカンヌ映画祭主演男優賞を受賞。やはり実際の事件に着想を得た『万引き家族』でも、11歳の城桧吏(じょう・かいり)、6歳の佐々木みゆが自然な存在感を発揮している。

©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

今の日本が抱えている問題の上に「家族」を置いてみる

6月6日、日本外国特派員協会(東京・有楽町)での記者会見で、是枝裕和監督は『万引き家族』を作った背景、思いなどについて語った。

「興行として成立しにくい」ため、政治・社会状況を取り込む作品が少ないことが日本映画の幅を狭くしていると語る是枝裕和監督

本作に関しては、特に日本の貧困問題を扱っていることに海外のジャーナリストたちが注目した。「2000年代に入って、頻繁に海外の映画祭に参加するようになり、そこでよく、日本映画には “社会と政治がない” とある意味批判的に言われました。確かに、国際映画祭に参加するような日本映画に、きちんと日本の政治状況、社会状況を取り込んだ作品が少なかった」と監督は言う。その背景には「興行として成立しにくい」として、大手の配給会社がそうした企画を積極的に進めてこなかったことがあり、その姿勢が「日本映画の幅を狭くしている」と断言する。

監督自身は、この10年ほど父親になった自分にとって切実な問題を「ファミリードラマ」として「狭く深く掘る」試みを意識的に続け、政治・社会問題を打ち出すことはしなかった。だが本作は、「現在の日本が抱えている問題の上に家族を置いてみて、そことの接点をどう描くか、そこで起きる摩擦をどう見るのか」という姿勢で取り組んだ。「それが今回の作品が今までの作品と一番大きく違うところです」

誰か一人の顔を思い浮かべて作る

「血のつながりではなく、お金、犯罪でつながっている家族」を描く本作では、この数年間に家族を巡って起きた事件を参考にした。1つは親が死亡したことを隠して家族が不正に年金を受給していた「年金詐欺事件」、もう1つは実際に子どもに万引きをさせていた家族の裁判のニュースだったと言う。

実際、貧困や犯罪を扱っているために、一部のネットでは本作に対するバッシングも起きている。会見では、安倍首相からパルムドール受賞への公の祝いの言葉がなかったことに触れ、映画を作る際に政治家や官僚の顔を思い浮かべたかという質問が出た。だが、監督はきっぱりと否定、本作ではある少女の顔を思い浮かべたと言う。

「テレビ(ドキュメンタリー)をやっていた20代の頃に、先輩に(不特定多数ではなく)『誰か一人に向かって作れ』と言われた。母親でもいいし、田舎のおばあちゃんでも、友達でもいい。誰か一人の顔を思い浮かべろと。以来、ずっとそうしています」

本作では親から虐待を受けた子どもが生活する施設を取材した。思い浮かべたのは、その際に出会った小学生の女の子だ。ちょうど学校から帰ってきたその子に「今、何を勉強しているの」と話しかけると、ランドセルから国語の教科書を出して、レオ・レオニの『スイミー』の朗読を始めた。「最後まで読んでくれた時に拍手をすると、本当にうれしそうな顔をした。ああ、この子はきっと、離れて暮らしている親に聞かせたいんじゃないか、と思いました。その子の顔が忘れられなかった」

映画の中でも、このエピソードは少し違う形で生かされている。

血縁、犯罪を超えた結びつき

『万引き家族』は、「見えない人々」を巡る状況が細やかに描かれている。だが強く印象付けられるのは、血のつながらない人たちの共同体の温かさと豊かさだ。細やかな日常の描写、思わず笑ってしまう「家族」のやり取りと、子どもたちへの気遣い。たとえ犯罪で結び付いているにしても、お互いを思う気持ちは本物だと思わせる。細やかな演出、そして役者の力が本作成功の大きな鍵だ。

カンヌでは「演出、役者、スタッフ、全ての調和が取れていたと褒められた」と是枝監督は言う。特に、今回、ケイト・ブランシェットをはじめ、審査員を務めた女優達が、本作の女優陣を褒めてくれたのが「心の底からうれしかった」そうだ。確かに、「母親」役、安藤サクラの演技は圧倒的で、ある場面での彼女の言葉は、「親になる」とはどういうことなのかを私たちに問い直させる力がある。監督の次回作はフランスの役者たちと現地で撮影が決まっているとのこと。本作を機に、是枝監督は創作の新たなステージに向かう。

『万引き家族』は海外149カ国・地域で販売決定。6月21日東京・六本木のTOHOシネマズ六本木ヒルズで英語字幕版上映、是枝監督の舞台あいさつも実施される。6月23日からは東京・新宿バルト9で英語字幕版の上映が決定している。

(ニッポンドットコム編集部)

©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

作品情報

  • 監督・脚本・編集=是枝裕和
  • キャスト=リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、城桧吏、佐々木みゆ / 樹木希林
  • 撮影=近藤龍人
  • 音楽=細野晴臣
  • 配給=ギャガ
  • 製作年=2018年
  • 製作国=日本
  • 上映時間=120分
  • 公開日=2018年6月8日 TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
  • 公式サイト=http://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku/
  • フェイスブック=https://www.facebook.com/manbikikazoku/

予告編

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