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《我不是薬神》(ニセ薬じゃない!)=中国の社会派コメディ映画から日本の未来を考える
[2018.11.24]

10月26日に閉幕した東京・中国映画週間で審査員特別賞を受賞した社会派コメディ映画。中国の高額医療と貧困にスポットを当てた作品だが、日本でもジェネリック薬の取り扱いや超高額新薬を巡る議論があり、日本の未来をも考えさせられる。

作品情報

  • 原題=我不是药神
  • 英題=Dying to Survive
  • 監督=文牧野(ウェン・ムーイエ)
  • 脚本=韓家女(ハン・ジャニョ)、鐘偉(ジョン・ワイ)、文牧野(ウェン・ムーイエ)
  • キャスト=徐崢(シュー・ジェン)、王伝君(ワン・チュエンジュン)、周一囲(ジョウ・イーウェイ)
  • ジャンル=ヒューマンドラマ/コメディ
  • 製作年=2017年
  • 製作国=中国
  • 上映時間=117分
  • 公式ウェイボー=https://weibo.com/u/6155884989

見どころ

コメディ映画らしく軽快なタッチで描かれているが、テーマは重い。

主人公の程勇は男性向けの回春薬を売る小さな店の主人。店の家賃さえ払えないかい性なしで、妻にも見放され、人生の目標を見失っていた。ある日、「血液のがん」である慢性骨髄性白血病を患う男・呂受益が店を訪れる。国内で認可されている治療薬が非常に高価であるため、より安価で成分がほぼ同じインドの薬品を“代理購入”してほしいという依頼だった。

半信半疑で始めた“代理購入”は大当たりし、より多くの薬を仕入れるため程は購入グループを結成する。依頼人の呂を始め、白血病患者が集まるネット上コミュニティの管理人で、自身も白血病の娘を持つポールダンサーの思慧、中国語なまりの英語を操る劉牧師、力仕事が得意な不良少年の黄毛が加わり、事業はさらに大きく拡大していった。警察に密輸として目をつけられ始め、いったんはグループを解散した程勇たちだったが、薬を絶たれた患者たちの悲痛な叫びに決意を固める。患者の負担を軽くするため仕入れ値以下の価格で薬を売り、あえて危険な仕事を続ける彼を待っていた結末は・・・

この映画は2014年に中国で実際に起きた「陸勇事件」をモデルに制作された。慢性骨髄性白血病を患う陸勇という男性が、国内で認可されている高価な薬の代わりに、同じ薬効を持つ安価なインドの医薬品を個人輸入し、他の白血病患者にも分け与えたところ、“偽薬”販売などの容疑で逮捕された事件だ。この事件によって、高額医療や貧困問題が世間の注目を浴び、医療体制や保険の在り方が見直される契機となった。

左から劉牧師、思慧、程勇、呂受益、黄毛

『薬神』は白血病治療についてだけでなく、登場人物一人一人を通して中国社会が抱えるさまざまな問題を描き出している。年老いた父親の介護に頭を悩ませる程勇、娘を養うため夜の店で過激なダンスを踊る思慧、病院にかかれず教会に助けを求める患者たちのために祈りをささげる劉牧師、口減らしのため貧しい農村から出てきた黄毛・・・彼らを「犯罪行為」に駆り立てたのは何か。劇中の「世の中に病は一つしかない。誰にも治せない、貧困という病だ」という言葉が重く響く。

劇中には高額な薬代を支払い続けるために家を売り、家族を巻き添えにして破産してしまった老婆が登場する。やっと手に入れた程勇の薬も警察に没収され、彼女の発した「家族が、あなたが一生病気しないって言い切れますか」という言葉は社会全体への問い掛けとなっている。

また、『薬神』には「本当の偽薬(効果もない全くのニセモノ)」を売る悪徳商人が登場する。薬を巡る事件は中国で珍しくなく、実際に映画が公開された今年7月には「長春偽ワクチン事件」が発覚した。中国のワクチン製造大手の長春市長生生物科技有限責任公司が、児童用狂犬病予防ワクチンの生産において記録改ざんを行なっていたことが明らかになったのだ。同社は17年にも、基準不適合で廃棄されるはずの三種混合ワクチンを密かに市場に流通させ行政処分を受けていたが、今年7月までその事実は公表されていなかった。官商癒着による「偽ワクチン・スキャンダル」は近年たびたび発生しており、その割を食うのはいつも庶民だ。

日本での『薬神』公開に向けて準備が進められている。高齢化に拍車が掛かり、医療費が増加し続けている日本。業界は違うが製造現場でのデータの改ざんも近年相次いで発覚している。保険制度は疲弊し、医療費抑制に役立つジェネリック医薬品の普及も欧米諸国と比べると遅れているのが現状だ。終盤で、主人公はこう語り掛ける。

「これから良くなっていく。早くその日が来ることを願おう(我相信今後会越来越好的,希望這一天能早一点到吧)」(編集部 山根 春香)

写真提供=日中映画祭実行委員会
バナー写真=日中映画祭ゴールドクレイン賞・審査員特別賞を受賞した主演の徐崢(シュー・ジェン)、編集部撮影

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  • [2018.11.24]
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